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85. 放課後だよ、みんな集合(二年生)

「……みなさん、暇なんですか?」


なぜか今、自分の家にいる三人に向かって、クィアシーナはちくりと嫌味を言った。


「はは、暇なわけじゃないよ。へえ、シーナの部屋ってこんななんだ。

全然女子って感じがしないや!」


「叩き出しますよ」


ビクターがぐるりと部屋を眺めてから漏らした感想に、間髪入れず文句を伝える。


「面白いくらい実用性に優れていますね。あ、この防犯ブザーの魔道具、うちにもあります」


「え、そうなんですね。最近使ってないですけど、昔は重宝しました」


ドゥランが壁一面にある防護グッズの一つに目をつける。

この人は、なかなか話ができるなとクィアシーナは内心で思った。


「ごめん、押しかけて。でも、また寮に来るのは嫌だったんだろ?」


「はい、それなら我が家を選びます」


マグノリアンの言葉に、ほぼ食い気味に返事を返す。


あの無法地帯に再度足を踏み入れるくらいなら、間違いなく狭い我が家に足を運んでもらうほうが数百倍ましに思えた。


彼はもう謹慎が解けたらしい。しっかりと制服を着用していた。


「うち土足禁止にしてるんで、床も座ってオッケーです。クッションをそこらへんに置いとくんで、好きに座ってください」


三人の高位貴族の坊ちゃん相手に、とんでもなく雑な扱いをしているのは自覚している。

しかし、急に押しかけてきたのはこの三人である。

それくらい許してもらえるだろう。


(なんでみんな急に来るかな)


クィアシーナはキッチンでみんなの分のお茶を用意しながら、小さくため息をついた。



放課後。

今日一日、クィアシーナはダンテに目撃された件を除けば、特にトラブルもなく、反省文を書く羽目にもならずに済んだ。

生徒会の仕事がなくなったクィアシーナは、あとは家に直帰するだけである。


自宅に戻ると、今日出された宿題をさっさと片付け、ご飯の支度に取り掛かった。


先にお風呂に入ってもよかったが、それよりもお腹が空いていたので、先に食事を済ませることにした。


適当にスープを仕込み、パンを切り分けていた、そのとき。


とんとん、と控えめなノックの音が聞こえてきた。


(夕方のこの時間に、誰?)


以前、夕方の来訪者と言えば、大家さんの家賃の取り立てだった。

けれど、そうじゃない場合、誰かが思い当たらない。


足音を極力立てないようにして、玄関扉の覗き穴をのぞく。


(げ)


そこに見えたのは、

ビクター、ドゥラン、マグノリアンの生徒会二年生の三人。

一体なぜ、こんな時間にここまで押しかけてきたというのだろうか。


一度扉を開けたら、間違いなく三人を招き入れないといけない。

このまま居留守を使って、お引き取り願えないかとも思う。


なぜならすでに自分はオフモード。

クィアシーナとしても、三人とは話をしておきたかったのだが、

可能であれば、明日、ここじゃないどこかで時間を作りたかった。


とんとん


再度、ノックの音が響く。


「……」


とんとん


控えめな音のくせに、いつまで経っても鳴りやまないノックに、クィアシーナはとうとう根負けした。

結局、扉を開け、そして今に至る。



「あれ、シーナ。この飾ってあるハンカチ、なに?」


皆にお茶を配っていると、ビクターが壁に飾ってあるハンカチを指さし尋ねた。

ちなみに、マグノリアンが床のクッションに座り、ビクターとドゥランはベッドに腰かけている。

どうやらマグノリアンはじゃんけんで負けたらしい。


「ああ、そのハンカチ、私の最推しの方から頂いたものです」


「え、最推し!?」


驚いた表情をするビクターに、クィアシーナはニコリと微笑みを返す。


(そう、このハンカチは私の最推し、ジガルデ様から頂いた貴重なハンカチ――)


涙と鼻血で汚してしまったそのハンカチを、ジガルデは「好きにしていい」と言ってくれたのだ。

そのため、クィアシーナはこれを丁寧に洗い、防護グッズと一緒に壁に飾っていた。

いつでも、彼のことを思い出せることができるように。


「どれどれ……あ、イニシャルが刺繍されてますね」

「ほんとだ、誰?」


ハンカチを覗き込むドゥランとビクターに、クィアシーナは堂々と告げた。


「ジガルデ・ブリード様です」


「!?」


三人が目を見開いて、クィアシーナの顔を一斉に振り向いた。


「げほっ、おまっ、ジガルデさんって、一体なんで!?」


マグノリアンは飲んでいたお茶を吹き出しそうになるのをなんとか堪え、叫ぶように問いかけてきた。


「運命的な出会いを果たしまして」


しれっと返すクィアシーナに、ビクターは頭を抱えた。


「えーどうしよ、全然意味わかんないや……」


「まあ、きっと言葉通りなんでしょう。

彼と運命の出会いを果たして、ハンカチを頂いて、そしてクィアシーナさんの中では最推しになった……。

……うん、意味がわかりませんね」


ドゥランも言語化してみたものの、理解はできなかったらしい。


(そうか、みんな彼の魅力を知らないから……)


「みなさんはいいですよね……。

あんな素敵な方と一緒に生徒会の仕事をしていたなんて……

私も、可能であれば、一年早く入学して、あの人の姿を拝んでおきたかったです……」


恋煩いでもしてるかの表情で呟くクィアシーナに、三人全員が顔を引きつらせる。


「うわぁ、本当、何があったの?」


「俺らがあの人と生徒会してた時期って、割といまと同じくらい地獄だったぞ? それでもいいのか?」


「恋は盲目、ですね」


最後のドゥランの言葉に、クィアシーナはくわっと目を見開き、噛みついた。


「恋じゃないです! 推しです! 推しなんです!

そこ、大事なので、絶対に間違わないでくださいね!?」


大事なことなので繰り返し言った。

全員、ドン引きである。



このままでは、クィアシーナの推し語りによって、彼らは延々とここに居座り続ける羽目になるだろう。

冷静さを取り戻すため、クィアシーナは小さく咳ばらいをし、意識を切り替えた。


「それより、今日お集まりになった用件をお伺いしてもいいですか?」


本題に入ると、三人はそれまでの緩い空気を断ち切るように姿勢を正し、クィアシーナの方を見つめた。


口火を切ったのは、ビクター。

彼はゆっくりとした口調で告げた。


「――今日、ドゥランにダンテさんに魔法痕が残っているかどうか、見てもらったよ」


「!」


「その結果を、君に伝えておこうと思ったんだ」


ビクターの告げた内容に、クィアシーナの胸が大きく跳ねた。

彼の話を引き取るようにして、続いてドゥランが口を開いた。


「遠目からは、全身を。

そして、書類を受け取る際に、以前、呪詛が蠢いていた掌を拝見しました」


そして、静かに目を伏せて告げた。


「――魔法の痕跡は、まったく感じられませんでした」


「な……」


(なんで?)


「リンスティーさんの話によると、復学時にはダンテさんにかけられた魔法は解呪されていた、ということでした。どうやら、それは本当の話だったようです」


「あの……本当に何の痕跡もなかったですか?

例えば、重ね掛けされているような、そんな形跡は……」


クィアシーナの縋るような声に、ドゥランは静かに首を振る。


「残念ながら。ですから、結論を言うと、ダンテさんが今のような振る舞いをとっているのは、間違いなく彼の意思です。

決して、魔法の影響なんかではない」


「……」


(また、振りだしに戻った)


確かに、クィアシーナはダンテは意図があって今のような行動を取っていると思っていた。

けれども、昨日のジガルデの話で、暗示のような精神魔法をかけられている可能性も残っていると思っていたのだ。

そして、そちらのほうが緊急度は高いが、まだ打つ手がある気がしていた。

本人の意志でやっているというなら、話は変わってくる。


暗い表情をしているクィアシーナに、マグノリアンが励ますようにして声をかける。


「でもさ、前におまえが言ってただろ?

説得するなら、アリーチェさんに応援を頼むって。

あれ、どうなった? まだ返事は来てないのか?」


彼の指摘に、クィアシーナははっと顔を上げる。


完全に忘れていた。


リンスティーに手紙を託したが、本当に送ってくれただろうか。

そして――アリーチェは、もうあの手紙を読んでくれただろうか。


「休日にリンスティーさんの方から送ってもらったので、もう向こうに届いてるとは思うのですが……

まだ、返事は来ないと思います」


いくらなんでも、向こうから返事が届くのは、さすがに早い気がした。


「さっき来た時、ドアの郵便受けになんか挟まってたけど?」


「へ」


ビクターの言葉に、クィアシーナは椅子を蹴るようにして立ち上がり、ドアへと向かった。

手紙は、本当に挟まっていた。

しかも、送信元は待望のアリーチェから。


(リンスティーさんも、アリーチェさんも……二人とも仕事が早い。

速達で送ってくれたのかな)


「もう、きてました……」


クィアシーナは震える手で手紙を掲げ、三人に見せる。

三人は固唾を飲んで見守る中、彼女は机の上からハサミを取り、息を詰めて開封した。


中から出てきたのは、シンプルな便せんが二枚。

折りたたまれた手紙を慎重に開き、内容を目にした瞬間――



バタン



クィアシーナが、椅子ごとひっくり返った。


「え!? 大丈夫!?」


「驚きすぎだろ! 何て書いてあったんだ!?」


クィアシーナは、立てなかった。

書かれた内容があまりに衝撃過ぎた。


「……」


ビクターに手を取られ引き上げられるも、黙り込むクィアシーナからドゥランが手紙を引き取り読み上げる。



「『むり』。


――わお、シンプル」


その声に、残りの二人も後ろにひっくり返りそうになった。


「ええっ!? シーナ、君、手紙になんて書いたの!? 

なんか失礼な頼み方でもしたんじゃない!?」

「そんなことないです! ちゃんとリンスティーさんにも添削して貰いましたし、抜かりなかったはずです!」

「おまえ、ほんとリンスティーさんと仲良いよな……」

「マグノリアン、そこは触れちゃダメなところですよ。空気読んで」


部屋の空気が一気にわちゃわちゃと騒がしくなった。


まさか、なんの理由もなくバッサリと断られるとは想定外だった。

しかし、『むり』と書かれた手紙の後ろに、もう一枚便せんが重なっていたことを思い出した。


「あ、待ってください、二枚あるんだった」


クィアシーナは気を取り直して、二枚目の手紙に目を落とした。

三人はその様子を黙ってじっと見つめる。


ほどなくしてクィアシーナが読み終えると、小さく呟いた。


「……なるほど」


「なんて書いてあったの?」


ビクターが伺うようにして尋ねると、クィアシーナはあっさりと答えた。


「簡単に言うと、今は行けない、ということです」


アリーチェの手紙には、きちんと理由が書かれていた。


今は退学手続き中だが、学園長が審議にかけられていることもあり、そういった事務関連の手続きが保留されているのだそうだ。そのため、まだフォボロス学園で自分の席があるかどうかもわからず、宙ぶらりん状態になっているのだという。

また、聖王国への留学の準備もまだ途中であり、時間が取れないとのことだった。


そして、最後に書かれていたのは、アリーチェらしいメッセージ。

それを見た瞬間、クィアシーナの口からくすりと笑いがこぼれた。


「激励メッセージ、読みます?」


「何それ、聞かせて」


クィアシーナは再び手紙に目を落とし、最後の一文を読み上げた。


「『どいつもこいつも人を頼りすぎ。頬でも一発ひっぱたいておけば? ダンテ殿下がおかしいのは元々』


……だそうです。」


「なんだそれ……」


マグノリアンが呆れた声を漏らす。


「やっぱりアリーチェさんは相変わらず裏では辛辣だなぁ!

それに、ダンテさんの頬ならもうシーナがひっぱたいたよね」


ビクターは口元を手で隠して笑う。


そんな二人に対し、ドゥランは一人考え込んだ様子を見せた。


「どうしたんですか?」


ドゥランの様子に気付いたクィアシーナが、声をかける。


「いえ……

もしダンテ殿下が本当に正気なら、あの極端に偏った貴族主義的な振る舞いには、どんな意図があるのかと思いまして」


確かに、正気であるからこそ、余計に恐ろしい。


「それは……今のところ、本人にしか、わからないんでしょうね。

ダンテ会長は、生徒会の業務のときは静かで、ガブリエラさんと常に行動していると聞いたんですが、それ以外の時間ってどうなんですか?

っていっても、三人は二年生だから知らないかもしれませんが……」


「アレクシスさんの話だと、休憩時間になると、すぐにどこかに行っちゃうらしいよ。前は三年の生徒会メンバーでお昼を食べてたみたいだけど、それにも顔を出さなくなっちゃったみたいだし」


「ルーベントさんからも同様の話を聞きました。見回りをするでもなく、ふらっと姿を消してしまうらしいです」


「……」


(今日の昼休み、旧校舎に来ていたのも、見回りではなく別の何かをしていたのかも……)


意味のある情報かはわからないが、念のためクィアシーナは、昼休みのことを三人に共有することにした。


「実は今日、旧校舎の三階にこっそり忍び込んでたんですが……

そしたら、なんとダンテ会長が現れまして……」


「!?」


「最初、見回りかと思って隠れていたんですが、隠れていた場所から、彼と目が合いました。

――けれども、彼は何も言わず、そのまま去っていったんです」


あのとき、確かにダンテとは目が合った。

けれども、こちらに向かって何を言うわけでもなく、立ち去ってしまった。


「そのとき、ダンテさんは何をしてたんだ?」

「ええと、急に教室に入ってきて、それから外を眺めてました。それだけです」


「場所は旧校舎の三階ですか?」

「はい、そうです。階段から一番近い部屋です」


ただ、偶然鍵が開いてたから気まぐれに外を見ただけなのか、それとも、何か意図があったのか。


「……謎ですね。旧校舎には私もよくサボ……いや、パトロールに行くんですが、ダンテさんに会ったことはありません」


「じゃあ、今日はたまたまだったのかもね」


(でも、もし実は頻繁に来ていたのだとしたら……)


もしかしたら、対話ができるかもしれない――。


あのとき、彼は一人だった。

ガブリエラや、他の見回りの連中もいない、完全に一人でぶらついていた。


――一対一なら、可能性はある。


アリーチェを頼れなくなった今、自分の手で、足掻くだけ足掻く。

聞く耳を持ってくれなかったら……そのときは、また別の手を考えよう。


クィアシーナは心に決めた。

また、あの場所へ行く、と。


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