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8. 生徒会メンバー全員集合

「でもさ、一年生なのに、しかも転校初日から生徒会に入るなんて、よくやるよねー。

明日からしばらくは、大変だと思うよ?」


ビクターはソファーの肘掛けに頬杖をつき、完全に寛いだ姿勢をしている。

どうやらこの応接間は、会議室というよりも、生徒会メンバーの憩いの場として使われているらしい。


「……どういう意味ですか?」


「僕らでさえ、一年で生徒会に入ったときは、かなり嫌がらせを受けたんだよねー。

自分が役員に選ばれなかったっていう逆恨みでさ。まあ、全員返り討ちにしてやったけど」


軽い口調とは裏腹に、その内容はなかなか物騒だ。


「そういう、しょうもない感情を抱いた連中が、この学園にはいたりするんだよねー」


「俺は面と向かって、『自分と役員を代わってもらえないか、会長に頼んでほしい!』なんて言われたこともあるな。懐かしい」


「私は相手にしませんでした。関わるのが面倒でしたので」


三人とも、三者三様に嫌がらせを受けてきたらしい。お貴族様に嫌がらせをする連中というのは、きっと同じ貴族であるに違いない……けれども、身分の高いものが行う嫌がらせとは、一体どういうものなんだろうか。


「ちなみに、具体的にはどんなことをされたんですか?」

「まず、持ち物は確実にやられるね。何かしら隠されるのは、しょっちゅうだったよ」

「え……それだけですか?

そのあとに金品を要求されたりとかは?」

「そんなのはないよ……なんとなくだけど、君はちょっとやそっとの嫌がらせじゃ、へこたれなさそうだね」

「さすがにへこたれはすると思いますけど……。でも、もっとヘビーなものを想像していました」


――隠されるだけで、済むなんて。

クィアシーナが想像していた嫌がらせよりも、相当軽い内容だった。


彼女が過去に経験した、“物を隠される系の嫌がらせ”は、そんな生易しいものではない。

隠されたあげくに「返してほしければ金を寄こせ」と脅され、拒めば集団で囲まれる。

その先に待っているのは、暴力だった。


普段は家族に頼ることなどほとんどないクィアシーナも、さすがにあのときばかりは親の力を借りた。

実行犯は停学処分になり、その間に自分は、また別の学校へと転校した。


(階段から突き落とされるのは、さすがに嫌だけど……)


そう思いながら、ふと気づく。

――私、意外と耐性がついてるのかも。


「嫌がらせの話は、ひとまず置いておくとして……。

三人とも、一年生のときから生徒会に入っていたんですね」

「ああ、そうだ。ダンテさんの前の代のジガルデ会長のときからだ。今年で任期二年目だよ」

「そうなんですね。みなさんは来年も生徒会をやりたいと思いますか? 三年連続生徒会!」


特に深い意味があったわけではない、ただの好奇心からの問いかけだった。

この学園の生徒会は当選した会長からの指名制だから、来年度も役員になれるかどうかは分からない。

それでも、彼らがどんな答えを返すのか、純粋に興味があった。


「どうだろうねー僕は会長次第かな。必要とされて、手伝ってもいいって思える人だったら喜んで引き受けるよ」

「俺は二年連続でやったんだから、他の奴に席を譲ってやりたいし辞退するかな」

「私はビクターと同意見です。その人が手伝う価値がある方であれば、引き続き役員であり続けると思います」

「え、みなさん三年生になったら、自分が会長になりたいとは思わないんですか?」


クィアシーナの言葉に、三人がキョトンとした様子を見せる。


(あれ、私何かマズイことを言ってしまった?)


「それは、考えたこともなかったかな……正直、想像つかないや」

「俺は使われる側に慣れすぎてるからな。会長なんて、とても務まる気がしない」

「私も、面倒なことは勘弁です。他の役職ならともかく、会長はやりたくありませんね」

「そういうものなんですね」


三人とも、自分の適材適所というものをよく理解しているらしい。

だが通常、役員の任期は一年だ。それにもかかわらず、二年連続で生徒会に名を連ねているのだから、三人とも相当に優秀なのだろう。

本気で請われれば、会長職ですら難なくこなしてしまいそうに思えた。


「でも……もし俺が会長になったら、ちゃんと仕事してくれる奴を募集して、選挙でメンバーを決める。いつまでも自立できず、人に頼ってばかりの奴は不要。それを絶対条件にする」

「ははッ、厳しいねぇ。一体誰のことー?」

「言わねぇよ」


えらく実感がこもった言い方だ。

クィアシーナも、つい誰のことか気になってしまったが、聞いたところでそれが誰なのか分からないだろうし、深堀するのは止めておいた。



と、そのとき応接室の扉が開いた。


「お待たせ。三年以外は、みんな揃ってるね」


どうやら、三年生の授業がようやく終わったらしい。

ダンテを先頭に、リンスティー、そして見知らぬ男子生徒二人が続いて中へ入ってくる。


(うわぁ……!)


彼らの姿を目にした瞬間、クィアシーナは思わず内心で感嘆の声を上げた。

薄々予想はしていたが――残りのメンバーも、驚くほど顔がいい。


リンスティーのすぐ隣に腰を下ろした生徒は、アッシュブラウンの短髪に、野性味のある鋭い灰色の瞳をしていた。

体格もこの中で一番がっしりしており、ひょっとすると卒業後は騎士を目指すのかもしれない。


その隣に座った生徒は、今の彼とは対照的に、全体的に華奢な印象だった。

それでも背丈は長身のリンスティーとほぼ同じで、甘い顔立ちはピンクブロンドの髪色とよく調和している。

ダンテよりも少し軽薄そうな雰囲気はあるが、その柔らかな笑みは、彼と同じく人好きのするものだった。


二人とも、ダンテからクィアシーナのことをまだ聞かされていなかったのだろう。

一人だけ混じった部外者に対し、事情が掴めないといった表情を浮かべている。


「それじゃあ、早速はじめようか」


ダンテが話を始めると、みな背筋を伸ばし、彼の方を向いた。


「今日はいきなり呼び出してごめんね。もう何人かは知ってると思うけど、ここにいる彼女が、アリーチェの代理として生徒会の庶務を引き受けてくれることになったんだ」


すでにダンテやリンスティー、二年の三人は知っている情報だった。

だが、残りの二人にとっては寝耳に水だったらしく、口には出さないまでも、明らかに驚いた表情を浮かべている。


クィアシーナはダンテに目で合図され、その場で立ち上がった。

今日何度目か分からない自己紹介を、改めてする。


「一年Dクラスのクィアシーナと申します。今日が転校初日です。前任のアリーチェさんが復学されるまでの間、庶務の代理を務めることになりました。これからどうぞよろしくお願いします」


「一年Dクラス……しかも転校初日だと?」


「ダンテ、君がナンパしてきたの?」


「いいや。彼女は編入試験の面接のときから、どうしても生徒会に入りたいと学園長に訴えていたらしくてね。

その熱意を学園長から聞いて、私が評価して加入してもらったっていう感じかな」


ダンテは昼休みに口裏を合わせた内容を、まるで事実であるかのように話し、クィアシーナの生徒会入りの経緯を説明した。


「もしかして……ここの生徒会に入りたくて、わざわざこの学園に転校してきたとか? うち、有名だしね」


「えっ、あ、はい! そうです、そのとおりです!」


ピンクブロンドの生徒から急に話を振られ、クィアシーナは後先考えずに同意した。


(言えない……学園に入るまで生徒会の存在を知らなかったなんて。

そもそもここを受験したのだって、この時期に編入を受け付けていたのが、この学園しかなかったっていうだけだし……)


「確かにそれはすごい熱意だな!」

「お、恐れ入ります」

「まだ一年なのに、おまえのガッツ、良いと思うぜ!」

「ありがとうございます」


よくわからないが、アッシュブラウンの髪の彼はクィアシーナの心意気を買ってくれたらしい。

いい具合に勘違いしてくれて、胸を撫で下ろした。


そのまま彼は自己紹介を始める。


「俺はルーベントだ。三年Sクラスで、そこの表情筋が抜け落ちてる二年のドゥランと同じ会計をしてる」

「ちょっと失礼ですよ、ルーベントさん。私の表情筋は抜け落ちてるんじゃなくて、動かすのを面倒くさがってるだけです」

「どっちでもいいよ」


ルーベントとドゥランの二人は、会計担当のコンビらしい。

正反対のタイプに見えるが、意外と仲は良さそうだ。

クィアシーナはルーベントに向かって「よろしくお願いします」と軽く会釈を返した。


「じゃあ僕も自己紹介させて貰おう。僕はアレクシス。三年Sクラスで、そこにいる二年のビクターと書記を担当してるよ。これから色々と大変だと思うけど、無理せず自分のペースで頑張ってね」

「ありがとうございます。精一杯がんばりたいと思います」


(うーん、……彼には女子のファンがいっぱいいそう)


穏やかに微笑む彼の表情は、きっと数多の女子を陥落させてきたに違いない。

それほどまでに、アレクシスの笑顔は魅力的に映った。


「クィアシーナ、さっきまで二年のみんなとここにいたみたいだけど、彼らから自己紹介は受けた?」

「あ、はい。三人ともお名前をお伺いしました」

「了解。じゃあ改めて……ようこそ、生徒会へ、クィアシーナ。私たちは君を心から歓迎するよ」


歓迎の意味を込めてか、拍手が巻き起こる。

そのことに少し照れながら、クィアシーナは改めて生徒会の面々を見渡す。



(うう、眩しい)



右に美人、左にも美人、一つ飛ばしても飛ばさなくてもこれまた全員美人。


どうなってるんだ生徒会。

顔採用なのか、そうなのか。


しかも、突然降って湧いた自分に対して排他的な感情を向ける者はいない。

きっと内面も素晴らしい人たちなんだろう。


顔面ランクでは足切りを受けることは確実のクィアシーナだが、こうして交じってる状況が逆に笑えてくる。


そして同時に、不安だ。

アリーチェの復学までの間、自分は囮として、無事に与えられた役割をこなしていけるんだろうか――



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