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60. リストの人物の一掃

「さて、出席番号九番。二年Aクラスのデリック・ミルナーさん。

あなた、登校途中に私に対して魔法を放とうとしましたね?

……私の認識、合ってます?」


クィアシーナは今、裏庭で一人の男子生徒と対峙していた。


相手の情報は、アリーチェの日誌のおかげで既に割れている。

『火』のマークが付いた、魔法科Aクラス所属。

確実に、魔法を使った戦い方をしてくる人物だ。


あらかじめ耐火属性の防御符をこれでもかと装備し、

手には最近のクィアシーナの相棒――鉄板仕込みのローファー。

それを片手でパンパンと打ち鳴らし、威圧する。


クィアシーナと対峙している相手――デリックは、完全に詰んだと悟っていた。



ダンテがいなくなってからというもの、クィアシーナは少しでも学園を良くしようと、自分なりに精を出していた。


その一環が、嫌がらせをしてくる連中への取り締まりである。

ちょっとでもこちらにちょっかいをかけてこようものなら、倍返しで報復した。

足を引っ掛けられたら、その場で回し蹴り。

魔法を仕掛けてきた者には、物理的制裁。

現行犯で、次々としょっぴいていく。


もちろん、心無いことを言ってくるような、しょうもない嫌がらせに対しても例外ではない。

「なぜあなたは今、その言葉を吐いたのか」をとことん話し合った。

理由をしゃべるまで、帰すことはなかった。


先日、挨拶当番でマグノリアンと一緒に校門に立ったのだが、

おかげでクィアシーナに嫌味を言う者は、ほぼゼロになった。

それどころか、向こうから土下座しかねない勢いで挨拶され、

マグノリアンには

「おまえ、舎弟でも作ったのか?」

と言われてしまったほどだ。


もちろん、貴族主義の連中は、そんな生温いものではない。

グローリアやキャロルのように真正面から来るのではなく、

食堂の窓ガラスのときのように、気付かないうちに魔法を仕掛けられることが多々あった。


だが、それも何度か続くうちに、魔法の“癖”というものが見えてくる。

アリーチェの日誌のマークと、名簿の名前、顔を照らし合わせ、周囲を見渡せば、

犯人の姿は自然と浮かび上がってくる。


その場で確保できる者は即座に、

そうでない者は、今のように放課後へ呼び出し、自白に追い込む。


気付けば、リストに名を連ねた人物の一掃まで、あと少しというところまで来ていた。



「あの、沈黙は肯定と受け取りますが、よろしいでしょうか」


「ええっ!? いや、ちょっと待ってよ!

そりゃあ魔法を使って、君のスカートをちょっと燃やして困らせてやろうとはしたけどさ!?

それだけで、普通殴り込みに来る!?」


デリックはあわあわとしながら、必死に弁解しようとする。


「終わってますね。女の子の制服にいたずらをしようとするなんて、極刑ものですよ。

……まさか、あなた、アリーチェさんのときも同じことをしようとしたんじゃ……」


デリック・ミルナーは、アリーチェの日誌に、昨年度に一回、今年度に一回、名前が記されている。

いずれのマークも、火だった。


「え、なんでバレたの!?

でも未遂で終わったよ!

しかもその後、あの人に“パンツを見たい変態”だなんだって騒ぎ立てられてさ、

俺のあだ名、しばらく『パンツ』だったんだよ!?

ひどくない!?」


「いや、それはそう名付けられても仕方ないんじゃ……」


呼ぶ方も呼ぶ方だとは思うが。

しかも、アリーチェはしっかりと未遂で終わらせている。


「それにさ、君らにちょっかいをかけたのだって、仕方なくなんだよ!

俺の実家のミルナー家、超超貴族主義で、マクレン家に次ぐくらいの筆頭なわけ。

俺は次男だし、ぜーんぜん気にしてないのよ? 身分とか。


クラスの連中だって、半分は平民だしさ。でもみんないい奴らだし。

けど、ちょっとでも貴族主義っぽいことしてないと、同じ派閥の奴らが実家にチクってくんのよ。

ほんと、勘弁してほしいでしょ!?


だから、気持ち年一くらいのスパンで、目立つ平民の子にちょっかいをかけたってわけ。

ほら、アピール? アピールだよ!

だから許してください! この通り!!!」


デリックは止まらぬ勢いで喋り倒したあと、地面に頭を擦りつけ、土下座をした。


貴族派のくせに、貴族としてのプライドは、一切持ち合わせていないようである。


「なるほど……。では、あなたを見逃す代わりに、条件を提示します」


クィアシーナは、至極冷静な態度でデリックに告げた。


「アリーチェさんを階段から突き落とした犯人を教えてください。

もしくは――この学園にいる、あなた方貴族派を率いている人物を教えて」


その言葉に、デリックは顔を引き攣らせた。


「いや、俺はどっちも知らないんだけど……その場合、どうしたらいいの……?」


「それは、本当のことですか?」


クィアシーナは一拍置き、淡々と続ける。


「嘘をついている場合、これまでの会話を新聞部にリークします。

録音していますので」


クィアシーナは新聞部のラシャトから、余っていた録音器具を借りていた。

ダンテの忠告を忠実に守り、こうして『害虫駆除』に乗り出す際の、マストアイテムとなっている。


「待って待って待って! そんなことされたら、俺、学園で居場所なくなっちゃうよ!?

あだ名、きっと『パンツ』に逆戻りだよ!」


気にすべきはそこじゃない気がするが、ツッコミは心の中に留めておく。


「はあ……。ええと、アリーチェさんの件は本当に何も知らない。

俺もあの事件を新聞で見たとき、

『あのスカート燃やそうとした人か!』って、びっくりしたくらいだもん」


デリックは頬を掻きながら続ける。


「貴族主義を率いてる人物については――有名どころだと、ブリード家かな。

でも、ジガルデ様はもう学園にいないし、弟のダン君は休学中だっけ?あれ、復帰したんだっけ?

どっちにしろ、そんな器でもないし……」


「マクレン家も一年にブレンダ嬢がいるけど、

実家の権力は強くても、本人にそこまでの求心力はないっていうか」


「あ、俺の兄貴はガッチガチの貴族主義でさ。身分制度万歳!

みたいな?

それで昨年度はジガルデ前会長の下で、生徒会役員やってたんだよ!

……まあ、兄貴ももう卒業しちゃったけど」


クィアシーナは、デリックの話に目新しいものがなく、次第に暇になってくる。

一応頷きは返していたが、退屈すぎて、足元の石を蹴り始めた。


「え、なんか君、自分で聞いときながら、俺の話に興味なさすぎじゃない!?」


「大丈夫です。一応聞いてます。ただ、情報が薄すぎて、石を蹴りながら必死に欠伸を堪えてるだけです」


「ええ~、なんか萎えるなぁ」


「私のことは気にせず、どうぞ続けてください」


実際、クィアシーナは頬を噛んで、なんとか欠伸を耐えていた。


「ちぇ、まあいいけど。あとはそうだな……リーク家とダナン家、ホクセン家⋯⋯」


デリックの口から出てくるのは、リストに載っていた人物ばかりだ。

しかも、彼らのことはデリックに会うより前に、既にしょっぴいていた。


とうとう退屈に耐えきれなくなったクィアシーナは、失礼とわかりつつ欠伸をひとつ漏らした。


「すいません、あの……もう該当者はいないんですか?」


これ以上、彼の口から情報が出てこないなら、この場を切り上げようと考えていた。


「あとは、そうだな。君、一年なんでしょ? ガブリエラ・シュターグって公爵家のご令嬢、知ってる?」


クィアシーナは予想外の名前に、一気に頭が覚醒した。


「ええ⋯⋯名前だけは。……彼女がどうかしたんですか?」


驚きと興奮で声が震えそうになるのを、必死で抑え込む。

だが、その内心をよそに、デリックは情報を軽々しく口に出していく。


「彼女はね、中々の人物だと思うよ~。まあ、身分が高いってのもあるけどさ。王弟殿下のとこのご令嬢だから、ばっちり王家の血も流れてるしね。

彼女、表向きは普通なんだけど、貴族主義のご令嬢たちとバチバチに繋がってるらしいんだ。これ、俺のなんちゃって貴族派ルートで聞いた話だから、間違いないよ」


「でも、シュターグ家は中立派だと聞きました。彼女だけ、貴族主義に属しているということですか?」


リンスティーからも聞いた話だが、別の角度から確認しておきたかった。


「んー、確か、貴族主義っていうか、第一王子派っていうか。

そんな話だった気がするな。あ、俺、派閥とか全然興味が湧かなくて、ごめん、うろ覚えだわー」


デリックの話の最後は、もはやクィアシーナの耳に入っていなかった。

シュターグ家で唯一、思想が違うご令嬢・ガブリエラ。

第一王子派で、貴族主義の令嬢たちと強く繋がっている――


「つかぬことをお聞きしますが、デリックさんは第一王子派ですか?」


「え!? 俺!? 俺は俄然、ダンテ殿下派だね!

昨年のジガルデ様のときと違って、学園の雰囲気はめっちゃいいし、学校も楽しいし。

正直、第一王子殿下って印象薄くて、興味ないかな。

行く行くはダンテ殿下が王太子になって、そのままラスカーダ国王として国を治めてくれたらいいのに、って俺は思ってるよ。

こんなこと家族に言ったら、勘当されちゃうかもだけど」


「じゃあ、逆に、貴族主義の人たちは第一王子殿下を支持してる、と考えて間違いないですか?」


「基本的にはそうだね。ま、俺は貴族主義(仮)の第二王子派だけど」


クィアシーナはデリック個人の思想についてはスルーし、質問を重ねる。


「じゃあ、この学園の貴族主義の人たちは、第二王子殿下であるダンテ殿下に好意的ではない、ということでしょうか?」


「うーん、基本はそうかもしれないけど、結局、その人次第なんじゃない?

現に俺はダンテ殿下のこと好きだし。

ただ、ガブリエラ嬢に関しては揺るぎない第一王子支持だって聞いたことがあるかな」


「なるほど……」


まだ断定はできない。

けれども、少しだけ、何か掴めそうな気がした。


(狙いは、学園外におけるダンテの政治的な失墜か――)


「貴族派で、精神魔法に長けている方って、聞いたことあります?」


ダメ元で確信をつこうとするクィアシーナに、デリックは首を傾げる。


「えー……誰だろう。そんな人いたっけ?

そもそも精神魔法は繊細だから、使い手も少ないんだよね。うちのAクラスにも、一人か二人、使えるかどうかって感じ」


「え、その人って、貴族主義の人ですか!?」


「いや、まさか。一人はザイアス国出身で、こっちの貴族には興味なし。もう一人も平民に毛が生えたような男爵家の子で、貴族とかまったく興味ない感じ」


クィアシーナは肩を落とす。


(そう簡単には、ダンテ会長に魔法をかけた犯人には辿り着けないか……)


「なんか君さ、さっきから貴族主義の人の情報をやたら知りたがってるね。まさか、彼らの一掃でも狙ってるの?」


デリックは、先ほどからのクィアシーナの質問に不信感を抱き始めたようだった。


「誤解しないでください。私から手を出したことは一切ありません。

ただ、過去にアリーチェさんに嫌がらせをした人や、私にちょっかいをかけてくる人に、貴族主義の方が多い……というかほぼ全員そうなので、確認しているだけです」


事実、ここ数日、ほぼ毎日『害虫駆除』をしているが、対象のほとんどは貴族主義――第一王子派に属していた。


「あー、君平民だからね。彼ら、血統意識が高すぎて、排除したくなっちゃうんだろうね。

それで、そんな平民を守ろうとするダンテ殿下のことも、理解し難い存在なのかも。俺にはそっちの方が理解できないけどさ」


自分にも、理解できない部分がある。

たとえ腹黒い面があったとしても、ダンテは素晴らしい人物だ。

そんな彼を害そうとするなんて、どんな事情があろうと、許せるものではなかった。


「ありがとうございます。質問は以上です。もう、行っていいですよ。

あ、それともう、たとえアピールであっても、平民にちょっかいをかけるのはやめてくださいね。

そのときは……覚えておいてください」


低く告げられたその声に、デリックは戦慄する。


「はい、もうしません! じゃ、そういうことで!」


彼はクィアシーナの顔を見ずに、猛ダッシュで教室棟の方へ去っていった。


クィアシーナはその背を見送りながら、心の中でつぶやく。

――結局、リストの最後の人物も、ただの小物だった。



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