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54. 日誌の解読

クィアシーナが生徒会館に着いたとき、三年生はおろか二年生もまだ誰も会館に来てなかった。


これ幸いと、みんなが来る前に転移室の掃除に取り掛かる。

床を掃いて軽く周りを拭き、そして会議室に移動して同様に掃き掃除と拭き掃除をしていく。

転移室も会議室も、余計なものが置いてないので、他の掃除場所に比べて楽である。


お茶の準備は他のメンバーが来てからでいいかと後回しに。


執務室の備品の在庫を確認し、足りないものを補充して在庫リストに個数を記入していく。


マグノリアンからは慣れてきたら他にも仕事を任せていくと言われていたが、今のところ、クィアシーナが出来る仕事はこれくらいだ。あとは他のメンバーのお手伝い。


(よし、みんなが来るまで、二階に行こう)


両手に掃除用具とアリーチェの日誌を抱え、二階の備品庫へと向かう。


昼休みに、今日の放課後ダンテがヒントをくれるとは言っていたが、その前に自力で、あの内容の意味を解いてみせたかった。


昨日、リンスティーがいたのは、備品庫の奥の棚だ。

ファイルや細々とした資料が並び、年度ごとに分類されている。

おそらく、自分が今手にしている冊子は、昨年度の棚から持ってきたものだろう。


週に一回掃除をしているとはいえ、棚の細かいところには埃が積もっている。

少し埃っぽい匂いを感じながら、もう一度、冊子を広げ、『害虫駆除』の文字を探す。


とある日付の『害虫駆除』の隣に書かれた数字を見つけ、それを他のページのものと見比べる。


(あれ、何回か同じ数字が出てきてる)


もしかしたら、被っている数字が他にもあるのではないか。

紙の束が置かれている棚から、不要そうな紙を一枚拝借し、ペンで数字を書き写していく。

数値の横には、登場回数を記入した。


----

(1-9)1

(5-14)2 

(6-15)10

(6-16)10

(10-3)2 

(10-10)2 

(11-21)2 

(15-1) 4 

(15-10)3 

(15-4) 5 

(15-20)3 

----


こうして見てみると、『(6-15)』『(6-16)』の登場回数が目立つ。


(これに、マークを足していったら何か見えてくるのかな?)


----

(1-9)1:火

(5-14)2:拳

(6-15)10:土?泥?&手を握るマーク

(6-16)10:水&手を握るマーク

(10-3)2:剣&手を握るマーク

(10-10)2:人&手を握るマーク

(11-21)2:拳 

(15-1)4:雷

(15-4)3:水

(15-11)5:蛇

(15-20)3:人

----


クィアシーナは使っていたペンを置き、ふうっと一息ついた。


(……うん、ぜんぜんわかんない)


書き出してはみたものの、クィアシーナの目には、何も見えてこなかった。そこにあるのは、ただの数値と記号の羅列。


――これを一目見て何かに気づいたダンテの頭は、いったいどうなっているのだろうか。


(きっと、彼の頭の中には宇宙が広がっているんだ)


クィアシーナは、自分の頭が悪いとは認めず、そう結論づけた。



そのとき、階下から物音が聞こえてきた。

どうやら授業が終わったメンバーが会館へとやってきたらしい。


(続きはまたあとでかな……)


クィアシーナは棚に日誌を戻し、一階へと降りていった。





「ん? 虫?」


「はい。昨年は、駆除しなければならないほど、虫がたくさん出たなんてことはありましたか?」


クィアシーナはマグノリアンとお茶の準備をしていた。

給湯室で二人、手を動かしながら、『害虫駆除』の話題をそれとなく振ってみることにしたのだ。


「いや、特にそんなことはなかったと思うけど」


マグノリアンは思い出す様子もなく、すぐに否定した。


「そうなんですね」


(じゃあやっぱり、アリーチェさんが言っていた『害虫駆除』は、文字通りの意味じゃなかったってこと?)


「あ、でも」


マグノリアンが、何かを思い出したように口を開く。


「アリーチェさんが、虫がどうとか言ってたのは覚えてるよ。

『また虫が出たみたいだから、駆除に行ってくる』って。たぶん、サボるための口実だったと思うけど」


「駆除に行ってくる、ですか」


(あれ、となると、やっぱりちゃんと虫だったのか……)


クィアシーナはマグノリアンに思いついたことを尋ねてみることにした。


「ちなみに、どんな虫だったか聞いたことはありますか?」


「うーん、たしか、退治しても次から次へと湧いてくるとか、そんな感じだったかな。そんな虫が、本当にいたのか知らないけど」


話しながらも、二人とも手を休めることはない。

マグノリアンが茶葉を用意している間に、クィアシーナは皿の上に人数分のフィナンシェを乗せていく。


「アリーチェさんのそれって、いつ頃までやってましたか?」


「あの人が生徒会に入ってから、休学する直前まで、ずっとだよ。ふらっと抜け出しては戻ってくるっていう、そんな感じだったかな。俺も詳しい種類とかまでは聞かなかったんだけど」


「なるほど……」


ということは、昨年度の日誌だけでなく、今年度の日誌にも『害虫駆除』の文字が書かれているということか。


それにしても、一年近く駆除に苦労するような虫ってなんだ?

しかも、ふらっと抜け出してってことは、生徒会館以外の場所に行っていたということになる。


「よし、じゃあ持ってくか」


「あ、はい」


いつの間にか、お湯の用意が終わっていたらしい。


(お茶でも飲みながら考えるか……)


クィアシーナはティーカートを押すマグノリアンに駆け寄り、執務室へと向かった。





マグノリアンがお茶を順に配って回り、クィアシーナが後を追うように、ソーサーにフィナンシェを置いていく。


アレクシスの席に来た際、改めてお礼を伝えていなかったことに気づいた。

お茶請けを配るついでに、彼に向かって感謝の言葉を口にする。


「アレクシスさん、先ほどは助けていただいて、ありがとうございました」


すると彼は首を横に振り、「大したことはしてないよ」と言った。


「前々からずっと、キャロとリアにはみんなと仲良くしてって言ってたんだけどねー。でも、やっぱり考え方はみんなそれぞれだから、やっぱり難しいよね」


アレクシスは、少し悲しそうに眉を下げる。

そして、


「あ、キャロから取り上げたアレだけど、あとでダンテに渡してね。

未遂とはいえ、クィアシーナが怪我をしていた可能性もあるんだから、ちゃんと反省してもらわないとねぇ。たぶん、しばらく休学して、労働奉仕が妥当ってところかな。あ、でも、それだとちょっと甘すぎるのかな?」


と、あれはあれ、それはそれ、といった様子で、バッサリと言い切った。


そのあたりの倫理観は、どうやらきちんと持ち合わせているようだ。


アレクシスが言った「アレ」とは、キャロルから取り上げたナイフのことだろう。

正直なところ、鞄に入れたまま、すっかり忘れていた。


途中まではどうしようかと戸惑っていたのに、いったん考えないようにした途端、いつの間にか記憶から消えていたのだ。


「彼女たちの罰については、私からは何とも……。ナイフは、忘れないうちにダンテ会長に渡しておきますね」


彼女たちが、なぜあそこまでの行動に出たのか。

その理由がブレンダのためなのか、自分たちの思想のためなのか、それとも単に自分の態度が気に食わなかっただけなのかは、わからない。


だが、あまりにも短絡的で、危険な行動だ。

今回は未遂に終わったからよかったものの、自分以外の誰かに刃を向ける可能性だってある。


罰の程度を自分で量ることはできないが、彼女たちには、大いに反省してほしかった。


お茶請けを全員に配り終えると、自分も一息つく間もなく、鞄の中から折り畳みナイフを取り出した。

真っ黒な柄に収まったそれは、一見すると凶器には見えない。

そんな物騒な代物を手に、ダンテの席へと向かった。


「ダンテ会長。もしかしたらアレクシスさんから聞いているかもしれませんが、一応これ、証拠品になります」


机の上にコトリと音を立てて物を置き、ダンテの目の前に差し出す。

誰の、何の、という部分については、他の皆がいる手前、言葉を濁した。

聞かれたら、そのときに答えればいい。


すると、やはりダンテは、すでにアレクシスから事情を聞いていたらしい。


「ありがとう。これは、きっちりこちらで管理させてもらうよ」


そう言って、特に詮索することもなく受け取ってくれた。


――しかし。


机に置かれたナイフから、僅かに白い煙が立ちのぼっていることに気付いた。


「ん? 煙?」


思わず、呟きが口をついて出る。

一度ナイフを手に取ろうと、腕を伸ばした、その瞬間。

ふわっと、何かの香りが鼻を掠めた。


そしてすぐに、ゴウッ、という小さな音とともに、その周囲だけに煙が一気に充満した。

ダンテの隣にいたリンスティーが、咄嗟に立ち上がり、何か呪文を唱えながら、手を払う。


次の瞬間、巻き起こった煙は雲散した。

だが――


煙とともに、机の上のナイフも、跡形もなく消えていた。


——そんな、馬鹿な。


ダンテの顔を窺うと、彼としても想定外だったのか、僅かに驚いた表情を浮かべている。


「ちょっと、今のボヤなに?」


リンスティーが、ダンテに向かって言い放つ。


「いや……」


ダンテもまた、口元に手を当て、思案するような仕草を見せた。


魔法に長けた彼らでさえ、今の現象が分からないのであれば、魔力を持たないクィアシーナに理解できるはずもない。



(証拠品が、消えた)



ただ、それだけが、彼女の頭の中を占めていた。



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