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45.ジガルデ一派リストの入手

放課後、クィアシーナはラシャトを訪ね、新聞部を訪れていた。


前回来たときと同じように、二人は応接スペースの机を挟んで向かい合って座っている。

ただ一つ違う点があるとすれば――今回は、ラシャトが椅子に縛り付けられていないということだった。


「まさかこんなに早くアリーチェさんの情報を持ってきてくれるなんて! 君は本当に行動力があるんだね~」


「いえいえ。すべてはお見舞いの手配をしてくださったダンテ会長のおかげです」


クィアシーナは謙虚に言うが、実際のところ、彼女の行動力は他と比べてかなりあるほうである。


「それで、アリーチェさんの様子はどうだったの? 元気にしてた?」


ラシャトがペンを構え、メモを取る準備をする。

会話を録音する魔道具も用意してあったが、前回に引き続き、今回も使用しないらしい。


「はい、怪我の具合はともかく、なんというか……お元気そうではありました」


「なるほど。普段の調子だった、ってことかな。怪我のほうはどうだったの?」


怪我の具合を聞かれ、クィアシーナは少し苦い表情を浮かべる。


「それが……右足には包帯を巻いて、杖をついて歩いていました。右腕にもギプスを付けていらっしゃって……


……少し、後遺症が残るみたいです」


アリーチェからは、怪我の現状についてラシャトに話してもいいと、すでに了承を得ていた。

そして、復学についても――


「後遺症……?」


その言葉を聞いて、ラシャトは軽く目を見開いた。

そこまで重傷であるとは、思ってもいなかったのだろう。


「それは、完全に動かなくなるということ、かな?」


「いえ、リハビリをすれば、多少は動くようになるみたいです。ただ、元の状態に戻るには……」


クィアシーナはそこまで言って、言葉を濁した。

アリーチェは聖王国に留学し、治癒魔法を学んで自力で治して見せると言っていた。

しかし、留学先については秘密にしておいて欲しいと言われていたため、それ以上話すわけにはいかなかった。


「……そうなんだね。ありがとう、教えてくれて。

復学の目処はついてるのかな?」


「いえ……

あの、ラシャトさんって、防音魔法は使えますか?」


「防音魔法? ああ、僕は使えないけど、ちょっと待ってね。いい魔道具があるんだ」


彼はそう言って椅子から立ち上がると、部室の隅に置いてある棚の引き出しを開け、拳大の道具を取り出した。

見た感じは完全に目覚まし時計の形をしている。ただ、秒針はなぜか〇から十までしかなかった。


「これ、すごく古い道具なんだけど、この応接スペースくらいなら一時的に防音にすることができるんだ。時間は十分しか持たないけどね。今、使っていい?」


「はい、お願いします」


クィアシーナの返事を受けて、ラシャトは魔道具の上部についているボタンを押した。


「この針が十になるまで、ここでの会話は外に漏れないよ。

……何か、秘密の話があるんだね?」


ラシャトは落ち着いた様子で、クィアシーナに問いかけた。


「はい。復学についてですが……彼女は戻ってこない予定です。このまま退学し、これを機に外国へ留学されるとのことでした。退学については、時期を見てということで、まだ秘密にしたいそうです」


「……」


二人の間に重苦しい空気が流れる。

ラシャトはクィアシーナの言葉を聞いて、天井を仰ぎ見た。


「そっか……彼女、退学しちゃうんだ……」


小さく呟いたその言葉は、どこか寂し気なニュアンスを含んでいた。


「はい。それで、学園を本当に退学したときに、新聞で大々的に報じて欲しいとのことでした。

……"悲劇の庶務"として」


アリーチェと二人きりで話しているときに、ラシャトへの感謝の言葉と共に、新聞の報道についてもお願いをされていた。


『私が実際に退学をするのは、私の留学準備が整って、それから、私を突き落とした犯人が捕まったときよ。

そのときに、新聞部には、私のことをしっかりと報じて欲しいの。そうね……"悲劇の庶務"なんてどうかしら?

詳しいことは、ラシャトに直接手紙を送るわ』


彼女の最後のお願いを伝え、それからラシャトへ手紙を送ると言っていた旨を伝える。


「彼女は、ラシャトさんにはお世話になったと言ってました。後日、彼女からラシャトさん宛てに手紙を送るそうです。そちらに、詳しいことを書くと言っていました」


「手紙か……。うん、わかった。ちゃんと受け取るようにするよ」


ラシャトは苦笑しながら、そう続けた。


「……それにしても、『世話になった』なんて、アリーチェさんから言われる日が来るなんて、思ってもみなかったなぁ」


クィアシーナは、いつもと違って勢いのないラシャトに、なんと声をかけていいかわからなかった。

寂しげな彼を励ますつもりで、無難な話題を振る。


「アリーチェさんとは、仲が良かったんですね」


……しかし、どうやら話題のチョイスを間違えたようだった。


「まさかっ!!!」


彼は、とんでもない、といって、ブンブンと首を横に振った。


「僕がどれだけ彼女にヒステリーを起こされて、何回原稿をリテイクさせられたか、知ってる!?」


ラシャトは勢いのまま、まくし立てる。


「そりゃあ、僕がほんのちょっと誇張した記事を書いたのも悪かったと思うけどさ。

お詫びに、脅迫されながら、誰得な『彼女と生徒会メンバーのきゃっきゃウフフ記事』を書かされたりしたんだよ!?

そのときは新聞部に苦情が殺到したもんさ。“捏造するな!”って。

半分ファンクラブの暴動みたいになって、あのときは新聞部が廃部になるかと思ったよ!

他にもさ、彼女が女子からいじめを受けるたびに、新聞で報道しろってうるさくて。

話を聞いたら、相手も悪いけど、アリーチェさんのほうが三倍近い仕返しをしてるのに、『私は被害者だっ!』って言ってきたり。

……かなりめちゃくちゃだったよ」


「は、はは……。と、とりあえず、廃部の危機を乗り越えることができて、よかったですね……」


アリーチェから話を聞いたときも、なかなかのものだとは思っていたが、彼女の“被害者側”の意見を聞く限り、相当な圧のある人物である。


口には出さないが、

(やっぱり、仲良かったんじゃん)

と、クィアシーナは心の中で思った。


「でもさ」


ラシャトは再び声のトーンを抑えて、口を開いた。


「ネタには困らなかったんだよ。良くも悪くも、彼女のおかげでね。

……もう、学園からいなくなっちゃうなんて、本当に信じられないよ」


「そうですね……」


喪失感をにじませるラシャトに、クィアシーナは相槌を打つ。

マグノリアンも、ビクターも、皆が同じような反応だった。


彼女は、周囲に迷惑をかけながらも、

それと同じだけ、――いや、それ以上に――愛されていたのだと、クィアシーナは理解した。


「詳しくは手紙を読んでからになるけど、僕は彼女から受け取った"最後の大仕事"をこれからこなさないと、だね」


「ええ。そのときは、いい具合に、めいいっぱい盛っちゃって大丈夫だと思いますよ!」


「ははは、確かに! 盛るのは得意だから、腕がなるよ」


軽口を叩き、少し場の明るさが戻ったところで、クィアシーナはもう一つの本題を切り出した。

魔道具の針は五を指し示している。

残り五分。そのわずかな時間の中で、アンチ・ダンテ政権のリストを聞き出さなければならなかった。


「それで、話は変わるんですが……

先日お話ししていた、“アンチ・ダンテ政権”のリストについて、お渡しいただけないでしょうか」


クィアシーナは声を落とし、その要求を口にする。


「え? ああ、前に言ってた件だね。もちろんだよ。早めに準備しておいてよかった!」


ラシャトはそう言って自身の手帳を開き、表紙のカバーに挟んでいた、折りたたまれた紙切れを取り出した。


「はい、これがそのリスト。絶対に無くさないようにしてね」


「ありがとうございます! はい、絶対に無くさないようにします!」


クィアシーナは紙を受け取ると、すぐに中を開こうとした。

が、


「ごめん。ここでは開けない方がいいかも」


と、ラシャトに制される。


「今は防音になってるけど、もうすぐ効き目が切れる。それに、ここだと部員とはいえ人目がある。

自宅か……あるいは、生徒会館でこっそり見てもらった方がいい」


クィアシーナは、はっと顔を上げ、部室内を見渡した。

新聞部の部室は管理棟の一階にある。カーテンは閉められているとはいえ、隙間から覗かれる可能性は十分にあった。

室内にも、二人のほかに数人の部員がそれぞれ作業をしている。


――その中の誰かが、リストに名を連ねる関係者かもしれない。


クィアシーナはラシャトの言葉に小さく頷くと、紙を鞄の内ポケットへそっとしまい込んだ。


その瞬間、「リン」と澄んだ音が鳴り、魔道具の針が"〇"を指したことを告げた。


「それじゃあクィアシーナさん、今日はどうもありがとう!

アリーチェさんが元気そうだと聞けて、よかったよ!」


それと同時に、ラシャトはまるで合図でもあったかのように、クィアシーナへ唐突な締めの言葉を投げかけた。


(もっといろいろ確認したかったけど……時間切れ、か)


クィアシーナもその空気を察し、ラシャトの言葉に便乗するように答える。


「いえ、お役に立てたならよかったです。こちらこそ、ありがとうございました」


そう言って、彼女はそれ以上何も口にせず、静かに部室を後にした。


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