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4. クィアシーナは容疑者を知る

ダンテに手を繋がれたまま、人混みをかき分けて第二カフェテリアを出ていく。

周りはというと、ダンテが珍しく第二カフェテリアに来たと思ったら、一人の女子生徒を伴って去っていったということで、さらなるざわめきが起きていた。


目立つ存在である彼が、見知らぬ生徒と手をつないでいたら――それは、誰だって気になってしまうに違いない。

たとえダンテに特別な感情がなくとも、「あの生徒は誰?」という好奇心くらいは、少なからず生まれるだろう。


クィアシーナは、王子相手に強く出ることもできず、されるがままに歩いていた。

内心では「いったいこの人、何を考えているんだろう」と思ってはいたが、もちろん口には出さない。

ダンテも、特に何かを話すわけではない。


朝の時点だったら、「恐れ多いです!」と、つながれた手を振り払っていたかもしれない。

しかし今となっては、彼には彼なりの考えがあるのだろうと、どこか冷静に受け止めていた。


教室棟を抜け、人けのない裏庭まで来たところで、ようやくダンテは「もういいかな」と言い、クィアシーナの手をぱっと離した。

そのあまりの唐突さに、(あ、やっぱり何か意図があったのか)と、クィアシーナは瞬時に察する。


「急にごめんね。囮捜査の件だけど、まずは私と仲がいいってところを周りに見せておこうかと思ってね」

「え、すみません。まったく必要性がわかりません」


急に手をつながれたうえに、自分と仲がいいアピールだと言われても。

何を言っているんだ、このキラキラ王子は。

彼に好意を寄せている者たちを煽るため、とでも言うのだろうか。


「はは、はっきり言うね。朝に伝え忘れていたんだけど、前任のアリーチェは、私の婚約者候補とも言われていたんだよ。

それもあって、周囲からかなり嫉まれていた」


「んん゛っ!? こ、婚約者候補ですか!? なにそれ、聞いてません!」


アリーチェは、他の生徒会メンバーよりスペックが劣っているのに生徒会入りしたため、嫉まれていたと聞いていた。

なのにそれに加えて、この国の王子の婚約者候補だという。

もしダンテに好意を寄せている者がいたなら、嫉妬しないほうがおかしい。


「うん、ごめん。伝え忘れてた」


クィアシーナは、うっかりといった調子で返すダンテに、少しばかり腹を立てた。

むしろ、意図的に言っていなかった気がしてならない。


「でも、だからこそ余計に、アリーチェの存在が受け入れられなかったのかもしれない。

嫉みが行き過ぎた結果――階段から突き落とす事件につながった。そんな風にも考えられる」


「そんな……恐ろしい……。

あれ、じゃあ犯人は、女子生徒かもしれない、ということなんでしょうか?」


アリーチェが生徒会にいることも、ダンテ会長の婚約者候補だと噂されていることも、すべてが気に食わない人物。


そう考えると、アリーチェを突き落とした犯人は、ダンテ会長に好意を持つ女生徒である可能性が高い――

クィアシーナは、そう予想する。

……それなら、かなりターゲットは絞り込めるのでは?


「そうとも限らないかな」

「? どういうことですか?」

「今のところ、犯人候補は三人いる」


ダンテは声を潜めて話を続けた。


「一人は、三年Sクラスのジェシーという生徒だ。

彼女はアリーチェに対し、面と向かって『あなたは彼には相応しくない』と、繰り返し忠告してきた人物でもある」


「三年Sクラスということは、ダンテ会長と同じクラスなんですね」

「そうだよ。自分がいかに私に相応しいのかも、堂々とアピールしてくるような子――って言えば、わかるかな。

まあ、簡単に言うと、直情型の子だよ」

「なかなか気が強そうな方なんですね。

カッとなって、やってしまった、という考えもありますね」


そしてクィアシーナは、このジェシーという生徒が、自分に対しても「あなたはダンテ様にふさわしくないわ!」と、今にも言ってきそうな気がした。

――なんとなくだけど。


「それと、二人目の犯人候補は、三年Aクラスのクリスティーだ。

彼女はAクラスの魔法科に所属しているだけあって、魔力量が高いんだ。


君も知っているかもしれないが、うちの王族は、魔力の多い者と交配を繰り返す古い慣習が残っていてね。

そのため、彼女も学園の入学以前から、私の婚約者候補として名前が挙げられていたんだ。


けれども、アリーチェが生徒会入りしてから、彼女の候補者としての噂は消えてしまった。

クリスティー本人がアリーチェに嫌がらせをしたわけではない。

ただ、彼女の取り巻きが何度かやらかしているんだ。生徒会からも、厳重注意を何度か受けている」


「なるほど……取り巻きの人もAクラスの人たちなんですか?」

「そうだ。三年Aクラスのサキ、アトリという男子生徒だよ。彼らは魔法に長けているから、少し厄介だ」

「おお……男子」


男子の取り巻き二人がご主人様(?)に代わって、主人以外の婚約者候補に手を掛ける……まあ、無くもない話ではある。


(階段から突き落として魔法で逃げた、とか? そんなことできるのかな)


「最後の一人は?」

「二年Sクラスのマグノリアン。生徒会の庶務の一人だ」

「えっ!? まさかの内部犯!?」


なぜ同じ生徒会の者が彼女を害する必要があるんだろうか。

しかも、アリーチェと同じ役職の庶務ときた。心底意味がわからない。


「ほんのちょっとだけ選民意識が高い奴でね。悪い奴じゃないんだけど……。

“生徒会のメンバーはSクラスだけにしたほうがいい”って、前々から私に進言していた。

同じ庶務で、しかもアリーチェのほうが年次では先輩なのに、生徒会歴は自分のほうが長いという理由で、彼女にはたびたび強く当たっていたんだ。


もちろん、彼がアリーチェを害したとは思いたくない。

でも――彼は、あの階段事件の第一発見者なんだよ」


「第一発見者……。

あの、アリーチェさんは犯人の姿を見ていないんですか?」


「ああ。教室棟から生徒会館に続く階段があるんだけど、彼女は教室棟に向かう際に階段から降りていたところ、後ろから誰かに背中を押されたらしい。


階段から落ちた後、辺りを見渡したそうなんだが、誰もいなかったそうなんだ。それで、痛みにうずくまっていたところを、たまたま上から降りて来たマグノリアンに発見された。この階段というのが、人一人がすれ違いできるくらいの幅しかないんだ。


だから、犯人が上から突き落としたのなら、確実に下に降りて来たマグノリアンとすれ違ってるはず……けれども、彼は誰にも会っていないと証言している」


「なるほど……? 確かに、それなら彼を疑う余地はあるかもですね」


つまり――


彼女の背中を押して階上へと逃げる。

しばらくして、たまたま通りかかった風を装い、階下に降りて彼女を発見する。


仲間内なので他の二人より可能性は低いかもしれないが、疑わしいことに変わりはない。


「まあそんなわけで、内部犯の可能性も捨てきれない。だからこそ、君が囮捜査で加入した件については黙っておこうと思ったんだ」

「なるほど……理解しました」


生徒会内部も、なかなかにきな臭いらしい。


……あれ。でも、最後の犯人候補は、生徒会の庶務という話だったはずだが。

それって、自分と同じ役職ではなかったか?


「あの、三人目の容疑者の方、庶務って言ってましたが……」

「そうだよ、庶務。代理加入の間は、彼から仕事を教えてもらうことになるから、よろしく」

「ええ。選民意識が高い人なんですよね?

平民の私が話しかけても、返事すらもらえないんじゃないですか!?」

「大丈夫。そんな非常識な人間じゃないよ」

「そうだといいんですが……」


これまで数えきれないほど辛い経験をしてきたクィアシーナだが、無視されることほど堪えるものはなかった。

クィアシーナは、マグノリアンがダンテの言うとおり、常識のある人物であることを心の底から祈ることにした。


「ところで、生徒会館へは教室棟から三通りの行き方がある。まだ昼休みの時間も残っているし、せっかくだから案内しよう。

裏庭から続く、向こうに見える緩やかな坂道か。それとも、急な階段だけど、坂道よりは近いルートか。

もう一つのルートは、また追々教えるとして……今日はどっちから行きたい?」

「じゃあ、せっかくなら現場も見たいので、階段からお願いします」

「了解。こっちだよ」


クィアシーナはダンテに手招きされ、その背中を駆け足で追った。


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― 新着の感想 ―
魔法という手段があるなら、加害者は必ずしも被害者の 背後にいる必要はないですよね? あと、自作自演は常に考慮に入れておく必要がある。
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