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34. 答え合わせの時間

「私は、これまでの一連の事件は、旧ジガルデ会長時代の生徒会関係者が犯人だと思っています」



クィアシーナのはっきりとした口調に、ダンテが笑みを深めた。


「でも……残念ながら、まだ証拠はありません。私の勘でしかないです。けれど、犯人は一人ではない。複数人が関わっているのは間違いないと思います」


階段から突き落とそうとしたダン、そして魔法を放ったブレンダ。

彼らはいずれも前生徒会長ジガルデの関係者であり、手口もそれぞれ異なっている。


彼らが結託して行動しているのかどうかはわからない。

だが共通しているのは、生徒会メンバーの中で最も弱点となるクィアシーナを狙い、潰しにかかってきているという点だ。


そこまで言い切り、ダンテの出方をうかがった。


「……うん、いいね。本当に君は優秀だよ。放っておいてもどんどん動いてくれるし、面白いくらいに相手をおびき寄せてくれる。私の目に狂いはなかった」


その満足げな様子を見て、クィアシーナは、自分の勘は間違っていなかったのだと、胸を撫で下ろした。

そして、あることに思い当たり、ダンテへ告げた。


「あれ、ということは、期限内に犯人を当てたから、契約の目標は達成できたのでは!?」


褒美、褒美が待っている。

そんな風にクィアシーナが期待に胸を膨らませるが――


「まさか。契約の内容は、事件を解決するか、犯人を捕まえるか、のどちらかでしょう?犯人の具体的な名前も言ってないし、何の証拠もない。なんで目標達成なんていえると思ったの?」


残念ながら、ボロカスに否定されてしまった。


この前も感じたことだが、ダンテのやれやれといった様子を見ると、チクショウ!という悔しい気持ちでいっぱいになってくる。


「ちょっと、あなたいつの間にそんな考えに思い至ったのよ?相棒の私は聞いてないんだけど?しかも、いつの間にかダンテの指輪も嵌めちゃってるし……」


シェリアーナとしては、リンスティーに相棒認定されていたことの方が初耳である。

拗ねた顔をする彼女に、クィアシーナは慌てて弁明をする。


「指輪のことは置いといて……考えがまとまったのは、ついさっきだからですよ。昨日、昼休みのあとにダン・ブリードに階段から突き落とされそうになって――」


「はぁっ!? 何それ!?」


「……それは、私も知らなかった」


「すいません、昨日アリーチェさんのお見舞いの件を相談してたことで、お伝えすることをすっかり忘れてました。」


実際、今のいままで彼のことを忘れていた。


「突き落とされそうになったって、ただの未遂で、あなたは無事だったってことでいいわよね?」


リンスティーは心配そうにクィアシーナの姿を確認する。


「はい。ただ、私が避けたせいで、ダンは階下に転げ落ちて病院に運ばれていきました」


「「……」」


ダンからは「おまえのせいだ!」と何度も言われたが、あれは絶対に自分のせいではないと思う。

つんのめって転げ落ちる方が悪い。



「……ははははははっ!!!」



突然、ダンテが大爆笑を始めた。隣のリンスティーはその様子に軽く引いている。


「じゃあ、犯人のうちの一人を君は倒したということか!いいね!最高だ!」


「いや、倒したっていうか、自爆していったというか……」


「ね、ねぇ、病院に運ばれたって、怪我の具合はどうなのよ……」


リンスティーがやや青ざめた顔でダンの状況について確認してきた。


「足をやっちゃったみたいで、立てなくなってました。たぶんしばらくは車椅子生活だと思います」


この国では、病気や怪我の治療といえば、病院で医師による適切な処置を受けるか、薬を服用するのが当たり前だ。

治癒魔法というものも存在はするらしいが、使い手は限られており、一般に普及しているとは言いがたい。


はるか遠くにある、聖王国と呼ばれる国には、一瞬で傷を癒してしまうほどの使い手がいると聞いたことがある。だが、少なくともラスカーダ国に、同等の力を持つ者がいるという話は耳にしたことがなかった。


――早い話、ダンもそんな早く復学はできないということである。


「ふふ、ああ面白い……クィアシーナ、君の活躍に免じて、今日のランチは私が奢ってあげるよ」


「え!? うそ、やった、ありがとうございます!!!」


思いがけない申し出に、クィアシーナは喜びをあらわにした。

だがその直後、すでにオーダーは通ってしまっていることに気づく。


(なんてこった!こんなことなら、一番高いメニューを頼んでおくんだった!)


あからさまに落ち込んだクィアシーナの様子を見て、ダンテはしばらくの間、愉快そうに笑い続けていた。





その日の放課後、クィアシーナは生徒会館で庶務の仕事に勤しんでいた。


皆にお茶を淹れたあと、マグノリアンと二人で手分けして、執務室の掃除に取りかかる。


執務室は皆が最も頻繁に使う部屋だけあって、埃はそれほど溜まっていない。だがその分、床の汚れは他の部屋よりも目立っていた。


棚や窓に積もった埃を軽く拭い、床を掃く。それから、皆の作業の邪魔にならないよう、机の上も簡単に拭いていく。


クィアシーナたちが掃除に忙しくしてる一方で、今日の書記役の二人は特にやることがないようだ。自席に座ったまま、どこか手持ち無沙汰な様子でいる。


手が空いてるのであれば、と、クィアシーナはここぞとばかりにアリーチェへのお見舞いメッセージの台紙を彼らに託すことにした。


「週末にアリーチェさんに会いに行くので、彼女に向けて激励メッセージをお願いします。

ついでに、台紙をイイ感じにデコッちゃってください。書記ならではの腕前を期待してます」

「いや、僕ら書記だけど、絵が上手いとかそういうセンスがあるわけではないからね?」


装飾を施せと無茶ぶりをするクィアシーナに、ビクターはぶつくさと文句を言った。

しかし一方で、アレクシスの方は意外にも乗り気な様子を見せる。


「ビクターと違って、僕にはセンスがあるからねー。ちゃんとカッコいいデザインになるよう、レイアウトを整えておくよ」

「どの口が言ってるんですか? いつも作成物のレイアウトを考えてるのは僕のほうでしょうに」

「僕だって五回に一回はやってるでしょう?」


「どっちでもいいんで、書いたら他の皆さんに回してください」



台紙に関してはいったん二人に丸投げして、クィアシーナは止めていた手を再開し、みんなの席を拭いて周っていった。


ダンテとリンスティーは、来週の学校委員会のための準備のため、先ほどからずっと二人で話し込んでいる。

創立祭が近いため、盛り込むべき内容がたくさんあるようだ。


そして、会計コンビのルーベントとドゥランの二人はというと……


「ルーベントさん、こっち計算間違えてます」

「お、マジか。そこ間違えてるなら、こっからここまで全部違ってるかもしらん。同じ計算式で使いまわしてたからなぁ」

「じゃあ四時までに全て見直して、修正をお願いします。そのあと私が最終チェックしますんで」

「おまえが気付いたなら、そっちで修正してくれてもいいのに……」

「それだとルーベントさんがいつまでたっても成長しないじゃないですか。先輩の育成も私の業務の一つです」


もはやどちらが先輩でどちらが後輩なのかわからないやりとりを交わしながら、二人は黙々と仕事をこなしていた。


(うん、私、代理になるのが庶務でよかった)


机の周りを一周し、そろそろ拭き掃除を終えようかとしていたところで、床を掃いていたマグノリアンが声をかけてきた。


「そろそろ終わったか? 俺が掃除用具を片づけとくから、悪いんだけど、相談箱の手紙を見てきてくれないか」


「了解です! 回収したら会議室にいきますね」


「ん。俺も片付けたら一緒に見るから、会議室に集合で」


「わかりました」



クィアシーナは掃除用具一式をマグノリアンに託し、外に設置された相談箱へと向かった。

すると、普段は人影のない玄関先で、女子生徒がちょうど相談箱に手紙を投函しようとしているところに出くわした。


「こんにちは~」


クィアシーナが声をかけると、女子生徒は一瞬動きを止め、きっと彼女を睨みつけてきた。

そしてそのまま何も言わず、教室棟へ続く階段へと走り去ってしまった。


(行っちゃった……うーん、私へのクレームを入れに来たのかな?)


とりあえず中身を取り出そうと、箱を開けることにしたのだが……。


「うえっ」


投函口から、いくつもの手紙がはみ出しているのが目に入る。

どうやら、許容量をはるかに超える量の手紙が詰め込まれているらしい。


これまでは、一週間に二、三通入っていれば多いほうだと聞いていた。

もしかすると今回で、投函数の歴代最高記録を更新したのではないだろうか。


(今度からもう一つ箱を増やしたほうがいいのかな……)


シェリアーナは一度袋を取りに中へ戻り、取ってきた袋の中に全ての手紙を入れた上で、会議室へと入っていった。



「うわ、今日の量は異常だな。今日、学園内で何かあったっけ?」


会議室のテーブルいっぱいに広げられた大量の手紙を見て、マグノリアンが驚いた声を上げる。


「わかりません。さっき実際にここへ投函しに来ている生徒にも会っちゃいました」


「まあ、これだけあったら、一人くらいは遭遇するだろうな……」



マグノリアンと手分けして手紙の中身を確認していく。

だが、その内容はどれも似たり寄ったりだった。


「……おまえ、ダンテさんと、個室で二人っきりでランチしたのか?」


「まさか! 二人っきりじゃありませんよ! ちゃんとリンスティーさんもいました!」


「あー、まあ、似たようなもんだな……あの二人の女子人気は異常だから……」


今回の意見書は、総じてクィアシーナがダンテと二人きりで個室に消えていったことに対する、いわゆるファンからの苦情だった。


『意見書(要望):本日昼、ダンテ殿下と新しい庶務のお二人が、カフェテリアの個室に入っていくのを目撃しました。

お二人はお付き合いされているのでしょうか?

もしそうでないのであれば、校内報での弁明を求めます。

(匿名希望)』


(弁明って、何なんだ……。「私とダンテ会長は、ただの先輩と後輩です」って、そんなことを校内報で釈明しろっていうの……?)


『意見書(要望):カフェテリアの個室から、ダンテ殿下とリンスティー様と新しい庶務の方の三名が出てくるのを見ました。お二人を独り占めするなんて、庶務の方はどういうおつもりなんでしょうか。お二人も、庶務の方を特別扱いしないでください。(匿名希望)』


(私が独り占めしたんじゃなくて、むしろ、拉致られた側なんだけど……)


「あの、これ、解決策が見当たらないんですが……」


「ダンテさんとベタベタしなければ良いんじゃないか?」


マグノリアンが手紙の内容にため息をつきながら答える。

彼の言い方だと、まるで自分がダンテにベタベタしに行ってるようではないか。


「待ってください、御幣があります。えーほんとやだなぁ……むしろ私のほうが被害者なのに……」


「被害者っておまえ……」


「だって、そうじゃないですか!今日なんて、教室までダンテ会長が迎えに来たんですよ!?今日一日で、いったい何人のファンクラブ会員を敵に回したことか……」


明日が休日で助かった。

週明けになれば、ファンクラブの嫉妬も少しは落ち着いているだろう。たぶん。


「せっかくダンテさんが迎えに来てくれたのに、『嬉しい!』ってならないんだな」


「なるわけなくないですか!?そもそもランチだって断ってたのに、わざわざ教室まで迎えに来たんですよ!?揶揄い半分なのはわかりきってるのに、そんなことで喜ぶほど馬鹿じゃありません」


「……」


マグノリアンは小声で、「そんなことで喜ぶような馬鹿のほうが多いと思うんだけどなぁ」と呟いていたが、残念ながらクィアシーナの耳には届いていなかった。



「とりあえず、私はこの意見を"しかと受け止めました"。ダンテ会長のところに丸投げでいいですよね?改善すべきは向こうだと思うので」


「そうだな……。誤解されるようなことは慎んでほしいってことも伝えて、ダンテさん行きでいいと思う。」


「了解しました!」



クィアシーナは鼻息を荒くして、執務室へと手紙を運んで行った。


どんっとダンテの席に意見書の束を置く。

それを見たアレクシスが、アリーチェへの台紙をアレンジしていた手を止め、感嘆の声をあげた。


「うっわー、これは凄い数だねぇ」


そんなアレクシスに対し、ドゥランは、こんなもんで驚くなよ、とでも言いたげな表情で、淡々と告げる。


「マウントを取りたいわけではありませんが、ジガルデさんのときと比べれば、全然少ないですよ。あの頃は相談箱が学園中に設置されていましたから、くだらない苦情で毎日溢れかえっていましたし」


「学園中って……回収に行くのも一苦労だったんじゃ……」


想像したくもない。

学園はそれなりに広い。回収だけで放課後の半分の時間が削られることだろう。


「ええ。それはもう……誰かさんが回収対応に追われて、首が回らなくなっていました」


ドゥランがちらりとマグノリアンのほうへ視線を送る。

当のマグノリアンは、なぜか気まずそうにしている。どうやら、回収役を任されていたのは彼だったらしい。


「あの、ダンテさん」


マグノリアンは自分から話題を逸らすように、ダンテの名前を呼びかけた。


「なんだい?」

「これだけの苦情が来てるんです。生徒たちの前でクィアシーナに必要以上のちょっかいをかけるのを止めてもらえませんか。」


マグノリアンは意見書の束を指さし、苦言を呈した。

しかし、ダンテのほうに反省の色はまったく見えない。


「ちょっかいねぇ……」

「私からもお願いよ。あんたが見せびらかすようにしてこの子に構うから、この子は余計な敵を増やしてるのよ?」

「それ、君が言う?」


確かに、ダンテのツッコミは正しい。

リンスティーに構われるたび、異常なまでに多い彼のファンからも、クィアシーナはきっとたくさんの恨みを買っているのだろう。


とにかく、マグノリアンとリンスティーが味方してくれている今がチャンスである。

クィアシーナは二人に便乗し、ダンテに釘を刺しておいた。


「来週からは、本当にお願いしますよ。先輩として、きちんと距離感を保って接してください。じゃないと、生徒会の信用、ひいてはダンテ会長ご自身の信用にも関わってくるんですから」


「そこまで言うかい?」


心外だ、といった表情を浮かべてはいるが、こちらも必死なのだ。

これ以上、余計な嫉妬を買いたくない。


「そこまで言います。

あ、それと、話は変わるんですが、挨拶当番は来週から通常の当番制になるってことであってますか?」


ものはついでと、挨拶当番についても念のため、今日で終わりでいいのか確認を入れてみた。

たしか当初はそういう話だったはずだ。


「ああ、そっか、そうだね。この一週間、毎朝ご苦労様でした」


「いえいえ、おかげで学園の生徒の皆さんに大分顔を覚えて貰えた気がします。あ、それと、もう朝と帰りの送迎も無しで大丈夫ですよね?みなさん、一週間どうもありがとうございました」


クィアシーナは感謝を込めて、皆に向かって頭を下げた。

最初は送迎なんて不要だと思っていたが、生徒会メンバーと登下校をしたおかげで、彼らの人柄を知ることができたと思う。


しかし、お礼を言って締めくくったクィアシーナに対し、ビクターが嘘でしょ、と騒ぎだした。


「そんな、今週で終わりなの!? 僕、シーナの送迎、一回もしてないんだけど!?」


みんなずるい、とブーブー文句を言ってくる。


自分を送迎するくらいで、そこまで大げさにすることでもないのだが……。


(そんなに言うなら、私がルーベントさんと走って帰ったときに、一緒について来てくれたら良かったのに……)


「それを言うなら、私もだよ。今日は寮じゃなくてそのまま城に帰るんだけど、寄り道がてら、君を家まで送り届けてあげるけど?」

「謹んでお断りします」


ダンテの場合、揶揄って言ってるのはわかるのだが、そこに少しばかり本気が混じっているのが怖い。

もしクィアシーナが彼に送迎してもらい、ファンクラブの連中に目撃でもされようものなら、彼女たちから袋だたきにされかねない。


クィアシーナがきっぱりと断りを入れると、今度はリンスティーが横から割って出てきた。


「残念ね? 今日は、私がこの子を送っていくわ」


「おお、クィアシーナは人気者だなぁ」


ルーベントが、はっはっは、と――どこの大家族のパパだよ、とツッコミを入れたくなるような笑い方でそう言った。


決して人気者というわけではないと思うのだが、リンスティーが自分を送ることを、すでに確定事項のように話しているのが、クィアシーナには少し気になった。


「いえ、リンスティーさん。もう大丈夫ですよ。もし何か変なのが来ても、ちゃんと自分で対処できると思うので」


実際、これまでの危機察知は百パーセント正確だった。

それに、魔法による襲撃ならダンテから借りている指輪があるし、仮に命の危険が迫ったとしても、学園長から借りている腕輪のおかげで防げるはずだ。

今のクィアシーナは、自分でも防御力最強だと自信を持っている。


「馬鹿ね。あなたが頑丈なのは知ってるわ。そうじゃなくて、せっかくの週末なんだから、送るついでに一緒に遊びたいのよ。女子会第二弾ね?」


ウフフ、とリンスティーが含み笑いを漏らした瞬間、クィアシーナだけでなく、その場にいた全員が言葉を失った。


その沈黙を破るように、ダンテはやや引き気味の表情で、リンスティーに問いかける。


「女子会って……リンスティー、君、とうとう目覚めたの?」


「失礼ね。そんなわけないでしょう。ただ、親睦を深めたいだけよ」


リンスティーは肩にかかった髪を片手で払いのけながら、クィアシーナに向けて、綺麗な笑みを浮かべた。




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