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25. 襲撃は突然に

翌朝、今日も挨拶当番のために早めに家を出たクィアシーナだったが、今朝は家の前に誰も待機していなかった。


(さすがに送迎は、もういいと思ったのかな?)


そう思いながら、学園への道を歩き出す。

学園とは反対方向へ行く人にはすれ違うのだが、同じ行き先の人は誰もいない。


それなのに……なぜか先ほどから、すぐ近くでクィアシーナを見つめられているような視線を感じるのだ。


足を止め、気配の方向を向くも、そこには誰もいない。

なんとなく……ほんとうになんとなく、そちらの方向へむかって、鞄を振りまわしてみた。


ガツン


「!?」


何かが鞄にぶつかった感触がした。


「いたい……」


どこからともなく声がし、咄嗟に辺りを見回す。

すると後ろから「さすがです」という声が聞こえてきた。

ばっとしてそちらのほうを振り向くと、相変わらず無表情で、造りものめいた美貌のドゥランが鼻を抑えて立っていた。


「ドゥランさん!? いつのまにいたんですか!?」

「家のまえから一緒に歩いていました。まさかこんなにすぐ見破られるとは、思ってもいませんでしたが」

「声くらいかけてくださいよ!」

「そこは、せっかくだから、気配を消す対決でもしようかと思いまして」


"せっかくだから"の意味がまったくわからない。

というより、彼の姿は今の今まで見えなかったのだが、どういうことだろうか。


「私、ドゥランさんに気付かなかったんですが、どこに隠れてたんですか?」

「隠れたというより、認識阻害の魔法をずっと使っていました。本来なら、私より魔法のレベルが高い人じゃないと見破れないはずなんですが……。いまの認識阻害魔法では気配までは消せないみたいですね。改良せねば」

「認識阻害魔法……」


そんな魔法があるのか、と感心すると同時に、

「いや、いま使う必要全くないだろ」、と心の中で彼にツッコミを入れる。

どうにもこの人は掴みにくい。


「さて、ばれてしまっては仕方ありません。一緒に校門まで来てもらいましょうか」

「なんだかどこかの悪役みたいなセリフですね。お迎えありがとうございます。ご一緒させてください」


ドゥランとともに、並んで校門までの道を歩く。

一昨日は馬、昨日は馬車だったので、初日ぶりの歩きがなんだか新鮮である。

それと同時に、こうして生徒会メンバーと登校することに抵抗が無くなってきている自分が怖い。


「ドゥランさんは寮に住んでらっしゃるんですか?」

「いいえ、私は実家から通っています」

「ご実家は近いんですか?」

「近くはないですね。馬車で大体二時間くらいでしょうか」

「遠っ。今日は馬車はどこかに停めてきたんですか?」

「いつも歩いて通ってます。」

「……」


馬車で二時間の距離を、この坊ちゃんは徒歩で通っているらしい。

一体何時に家を出発しているのだろうか。


「途中、転移式を使っているので、実際はそんなにかかりません」

「ああ、なるほど。」


徒歩なら一体何時に家を出てるのだと思ったが、転移式で短縮を図っているようだった。

そうであれば徒歩というのも納得がいく。

……いくらお金がかかっているのかは知らないけど。


「それより、クィアシーナさんも気配を消すのがお上手だと聞いたのですが、それはどういった代物なのでしょうか。」

「え!? "気配を消す"ですか!?」

「はい、そうです。よければ、一度実践してもらえないでしょうか」


(ここにきてまたあのふざけた特技の話題がでてくるとは……

こんなことなら編入試験のとき、歌やダンスなんかの無難なアピールをしておけばよかった)


後悔するも、時すでに遅し。

すでに隣のドゥランは興味深々(実際は無表情なのだが)である。


「あの、ガッカリするかもしれませんよ?」

「どんなにショボくても私は文句をいいません。ささ、どうぞ遠慮なく」


これはやってみせないと先に進めなさそうである。クィアシーナは覚悟を決め、自分のなんちゃって特技を披露してみせることにした。


「じゃあ三秒ほど目を閉じてください。それから目を開けてください。いきますよ、」


ドゥランはクィアシーナに言われた通り、目を閉じ、心の中で三秒数える。

そして再度、その瞳を開けた。


「……クィアシーナさん?」


彼はあたりを見渡すが、クィアシーナの姿がどこにも見えない。

どこかに隠れたのか、それとも全力で逃げたのか。


隠れているのであれば、探さなければならない。きっと側道の茂みにでもいるのだろう。

ドゥランが歩みを進めようとしたそのとき、「後ろですよ」と背後から声が聞こえた。


ドゥランが後ろを振り向くと、自身のすぐ後ろにクィアシーナが笑顔で立っていた。


「私がいることに気付かなかったですか?」

「……全然」


実際、ドゥランは彼女から声をかけられるまで、全く背後の気配に気が付くことができなかった。

……これは確かに特技といっていいだろう。


「今のは魔法ですか?」

「え、まさか。ただじっとしていただけですよ。」


それにしては、彼女の気配がまるで消えたかのようだった。

ドゥランは、自分が編み出した認識阻害魔法にそれなりの自信を持っていたのだが、クィアシーナの前では……思わず敗北を感じてしまった。


「……私もまだまだだということがわかりました。」

「?」


クィアシーナはなぜか気落ちした様子のドゥランとともに、学園へと歩いていった。




校門前に着くと、ルーベントは屈伸などの体操をしながら、その場で待機していた。

今日も変わらず爽やかだ。


やや汗ばんでいる様子から、剣術部の朝練から抜けてきたのかもしれない。


「おはようございます、ルーベントさん。朝練に出てたんですか?」

「おはようクィアシーナ! ああ、そうだ、すでに身体のほうは準備万全だ。それにドゥラン、今日はちゃんと間に合ってエライな!」

「おはようございます。いつも間に合ってます。見えないようにしてるだけなんで。」


二人の会話から、ドゥランは先ほどの魔法で姿を消して登校することが多々あるようだ。


「じゃ、ルーベントさんはそっち。私とクィアシーナさんは、反対側で声だけ出すんで、そんな感じでよろしくお願いします」

「なにがそんな感じだ、ちゃんと姿を現して挨拶しろよ。特にクィアシーナはみんなに顔を覚えてもらうためにやってるんだからな」

「……ちっ」

「おい、何か言ったか」

「いえ、なにも。あぁ、お腹がすきました。」


(仲いいなぁ)


テンポよく進む会話がなんだか面白い。

二人の掛け合いをクィアシーナはほのぼのした様子で眺めていた。



「ではクィアシーナさん、悪いんですが、私は隣で姿を消しながら朝ごはんを食べているので、挨拶、頑張ってください。大丈夫、私も声だけ参加します」


「声だけ……あ、はい、わかりました」


貴族の坊ちゃんがこんなところで朝ごはん食べるんだ、と内心驚きつつも、敢えてそこにはふれない。


「ごめんな、いつもドゥランはこんな感じなんだ。逆に、クィアシーナに何かけしかけてくるような奴がいたら、こいつがしっかり見張ってるから、その点は安心してくれ」


「いつも……

了解です。よろしくお願いします」


毎度姿を消し、声だけで挨拶しているということか。

挨拶当番は生徒との交流を兼ねていると言っていたが、果たして声だけで交流になっているのかは謎である。

けれども先輩であるルーベントが許容しているということは、問題ないのだろう。ツッコミどころは満載だけれども。



三人が配置についたあと、ちらほらと生徒たちが登校してくる姿が見えはじめた。


「おはようございます」

『おはようございます』


いつの間にか姿を消したドゥランだったが、なぜか挨拶の声は聞こえてくる。

本当に彼は声だけ参加しているようだ。


「おはようございまーす」

「おはようございます、クィアシーナさん」


(お?今の人、私のこと名前で呼んでくれた)


「おはようございます。」

「おはようございます、これからがんばってください。」



それからも、多くの生徒が、挨拶以外の言葉までクィアシーナにかけてくれた。

昨日の朝とは、えらく態度が違う。


「……昨日は無視して来た人もいたのに、どうしたんだろ……」


人の波が一段落したとき、クィアシーナがひとり呟くと、横からドゥランの声が返ってきた。


『たぶん、校内報と、新聞の効果ですね。特に、新聞のクィアシーナさんのプロフィールがみんなの興味を集めたのかもしれません』


「校内報と新聞、ですか?」


たしかに校内報には自分の紹介が載っていた。だが、新聞に関しては、昼休みの事件の記事が発行されただけではなかっただろうか。


「ドゥランさん、新聞にはどんな内容が、」

「おはよう、クィアシーナさん」


ドゥランに新聞のことを尋ねようとしたとき、今日は黒く長い髪を編み込みにしたクリスティーが挨拶をしてきた。

そして、その後ろには袋の二人もしっかりくっついていた。

……なんで今までこの目立つ存在に気が付かなかったんだろうか。


「おはようございます、クリスティーさん。今日の髪型かわいいですね。あと、袋ズもおはようございます。相変わらず怪しいですね」

「誰が袋ズだ!」

「そうだそうだ! 我らの名前は袋ではないぞ!」

「まぁまぁ」


クリスティーがキャンキャン吠える袋たちをどうどうといさめる。

こうしてみると、本当に犬と飼い主にしかみえない。


「それより、新聞みたわよ。あなたダントリアス校に通ってたのね」

「え、はい。といっても、半年だけなんですが。」

「入学できたこと自体すごいことなんだから、もっと経歴に自信をもって! それに、以前は世直しをするために数々の学校を渡り歩いてたのね。本当尊敬しちゃう。あなたが生徒会にいてくれたら、この学園も安心ね。」


(ん?)


何やら自分にまったく身に覚えのないことを言われた気がする。


「よ、世直し……ですか?」

「え、違うの? 悪い生徒や教師を成敗し、彼らを更生させていった、って新聞に書いてあったけど……」


(め、めちゃくちゃ盛られてるーーーーーー!!!!!!!)


「……どうやら、新聞部と私の間で認識齟齬があったようです。その記事に書かれていることは冗談半分で読んでくださると幸いです。」

「? そうなの? でも、応援してるからね! それじゃあまたね。」


クリスティーはクィアシーナを激励すると、校舎の方へと袋たちを連れて去っていった。


『クィアシーナさんって以前は正義の味方みたいな活動をされてたんですね。気配消しの特技もそのときに習得されたんですか?』

「ドゥランさんまで……。そんな活動してませんから……」


何やら特大に誇張されて書かれた記事により、クィアシーナを間違った目で見ている生徒が多くいることがわかった。


ちなみに、相変わらず小さな嫌味を言ってくる生徒は少なからずいたのだが、そのたびに見えないドゥランが足をひっかけていたので、彼らはみんな地味に躓いたり転んだりしていた。

ちょっといい気味、と思ってしまったのは、仕方がないだろう。



そして、ルーベントのほうはと言えば――。


「おはよう!!!!」

「おはようございます!」


彼の前で、まるで軍隊のような挨拶が繰り広げられていた。

彼の仲間らしき人たちは、ルーベントの前に列をつくって並び、その場で直立、敬礼、挨拶、そして去る、という流れを一人づつ繰り返している。

そこにマリアがちゃっかり混じっているのをクィアシーナは見逃さなかった。


「あれ、どこの軍隊ですか?」

『言ってしまえば、ルーベント軍ですね。彼の信者は多いんですよ。』


ルーベント軍。

彼はこの学園で戦争でもおっ始める気なのだろうか。


そんな軍隊を眺めていたクィアシーナの元に、キラキラしたオーラの二人がやってきた。


「おはよう、クィアシーナ、ドゥラン」

「おはよう。残念、私には今日もドゥランの姿は見えないわ」

「お、おはようございます、ダンテさんに……リンスティーさん。」

『おはようございます。今日も私は声だけお届けします。』


今しがた登校してきたダンテとリンスティーが、クィアシーナたちの前で立ち止まる。

クィアシーナは、昨日知ってしまった事実のせいで、ダンテとリンスティーの二人に会うのが非常に気まずかったのだが、そんなこと本人たちは知る由もない。


「今日は何もされてない? 鞄は無事?」


ダンテがクィアシーナに心配の声をかける。


「はい、大丈夫です。それに、今日はドゥランさんが影で見ててくれてるんで」

『万事抜かりなしです』


ドゥランはちゃっかり自分のアピールを忘れない。


「それならよかった。残り時間もがんばって。」

「はい、ありがとうございます。」


ダンテは笑顔で手を振り、教室棟へ向かっていく。


てっきりリンスティーも彼の後を追いかけるのかと思いきや、クィアシーナに一歩近づき、腰を屈めて彼女の顔を覗き込んできた。


「ちょっと、さっきから私と目を合わせようとしないじゃない。昨日せっかく"仲を深めた"と思ったのに、つれないわね」

「いや、えと、すいません……」


さっきからリンスティーのほうを見ようとしないことを、どうやら見抜かれていたらしい。

クィアシーナとしても、普通に接しなければと思ってはいる。だが、彼女が男性だと思うと、どうしても以前と同じようには振る舞えなかった。


(だめだ、昨日泣き顔を晒して恥ずかしいっていうのもあるけど、リンスティーさんの顔を見るだけで緊張する。ましてや目なんて合わせられるわけがない)


なおも視線をそらし続けるクィアシーナに、ついにリンスティーは強硬手段に出た。


「えい」

「ぎゃ!」


リンスティーの両手がクィアシーナの頬を挟む。

いまのクィアシーナの顔は、誰よりも不細工に映っているに違いない。

何をするんだ、と抗議するようにリンスティーに視線で訴える。


「……やっとこっちを向いた」


そういったリンスティーの顔は、どこか安心したような、いつになく柔らかい笑顔だった。


(ひぃっ、美人系の可愛い笑顔は心臓にくる……!)


「じゃあ、また放課後にね」


ダンテのあとを走って追いかけるリンスティーに、クィアシーナは自身の心臓をおさえながら手を振った。


『……青春ですね』

「からかわないでください」


ドゥランは自分の姿が見えないのをいいことに、今のやりとりを間近で見ていたらしい。

彼にはよく変なところを目撃されている気がするのだが、それはきっと自分の気のせいではないはずだ。



その後もビクターが友人とともに登校し、女子たちがけん制しあっているのを目撃したり、アレクシスがまた違う女性と腕を組んで登校して来たりと、いつもと変わらぬ登校風景が続いた。


「そろそろ切り上げるとするか!」


ルーベントが当番の終わりを告げた。


「もう終わりの時間なんですね。今日はなんだか時間が過ぎるのが早かったです」


そう感じることができたのは、おそらく、小さな嫌がらせが大分減ったおかげかもしれない。


「慣れてきたせいもあるだろうな。あと一日頑張れよ!それじゃあ、鞄を持って撤退だ」


ルーベントが先に教室棟へ向けて歩こうとしたとき、クィアシーナにふと嫌な予感がよぎった。

このときの予感は、あの第二カフェテリアのときに感じたものと酷似していた。


「みんな、ここから離れて!!!」


「!」



クィアシーナが周囲に向けて叫ぶと、ルーベントがクィアシーナの腕を思いっきり引っ張り脇へ避ける。


そして姿を現したドゥランが、付近にいた生徒を連れて地面に伏せた。



――その瞬間、校門前に、小さな爆発が起こった。


明日から一日一回更新に切り替えます。

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