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21. クリスティーから聞いた情報

初めて入った第一カフェテリアは、内装から客層、メニューに至るまで全てが第二のものとは異なっていた。


第二カフェテリアの無機質な白い壁と簡易なテーブル、イスに対し、第一はクリーム色の優しい色合いの壁紙、そして、テーブルとイスは木製の温かみのあるもので、アクセントカラーとしてカラフルなクッションが敷かれていた。

奥にはソファー席も用意されており、生徒たちは楽しそうに談笑をしている。ぱっとみる限り、明らかに貴族という出で立ちの生徒ばかりがここに集っていた。



「え、ここってテーブルオーダーなんですか!?」

「第二は違うのか?」

「第一ではこれが普通だぞ」

「第二カフェテリアがどういう仕組みか知らないんだけど、テーブルオーダーではないってこと?」

「はい。第二はトレーを持って、自分が食べたいメニューを提供しているレーンに自分で並びます。食べ物をトレーに乗せたら、レジに行って、お金を払います」

「「「へ~」」」


これまでクィアシーナが通っていた学校の食堂は、第二のようなセルフ方式のものばかりだった。

学生にいかに早く、効率よく食事を提供するかを重視した造りである。


しかし第一は、回転率を度外視し、空間そのものの付加価値に重きを置いている。まるでレストランのような雰囲気だ。



「メニューも全然違いますね」


お値段についても……とは、口には出さなかった。

提示されている価格は、庶民が日常的に利用するにはやや高めで、第二カフェテリアのだいたい三倍ほどが相場になっている。


(そりゃあ、ここに来るのが貴族ばかりになるわけだ)


貴族専用として作られたわけではないのに、実質ほぼ専用になってしまっているのは、経済事情を考えれば仕方のないことだと思う。



「好きなものを頼んでね。ちゃんとこの子たちに払わせるから」

「ありがとうございます。では遠慮なく、こちらで」


クィアシーナが注文したのは、メニューの中で一番高いもの。

迷惑をかけられたので、これくらい贅沢してもいいだろう。


「う、小遣いに響く」

「我々の懐は寂しいと言っている」


紙袋たちはクィアシーナのチョイスにブーブー文句を言うが、知ったこっちゃない。


「というか、なんでずっと袋被ってるんですか。もう名前も、バレてることだし、取っちゃってもいいんじゃないですか?」


カフェテリアに移動したあとも、なぜか彼らは紙袋を顔から被ったままだった。

第一カフェテリアの洗練された雰囲気に、彼らの犯罪者チックな姿はなんともミスマッチである。



「我々の顔を見たいだと!? 貴様、痴女か!」

「そうだそうだ!変態め!」

「いや、見たいとかじゃなくて……え、もしかして、それ毎日被ってるの?」


「クィアシーナさん、ごめんね。これは彼らの服だと思って」

「ええ?はい、かまいませんが」


(私は構わないが、いいのか、それで)



店員にオーダーを取ってもらったあと、クィアシーナはずっと気になっていたことを尋ねることにした。


「えっと、つかぬことをお聞きしますが……。

さっきクリスティーさんは、生徒会に入ることに興味がないって言っていましたよね。それって、どうしてなんですか? 貴族にとって生徒会に入るのは名誉なことだと聞いていたので、ちょっと不思議で……」

「え、だって面倒くさいじゃない!」


クリスティーがムリムリと顔の前で手をブンブンと振る。

彼女の勘弁してといった様子に、クィアシーナのほうが面食らう。


「め、面倒、ですか?」

「そりゃそうでしょう。自分のことで精一杯だっていうのに、学園や生徒のために働かないといけないなんて!

しかも仕事が大変なだけじゃなくて、うちのサキとアトリがあなたに絡んだように、変なやっかみも受けるわけでしょ?とてもじゃないけど、私には務まらないわ」


「そんなことありません!クリスティー様は才色兼備!なんでもできるお方です!」

「そうですよ!クリスティー様だって一度はダンテ殿下に指名されたではありませんか!」

「え!?指名!!?あ、すいません……」


驚きで思いのほか大きな声が出てしまった。


(クリスティーさんが、ダンテ会長から役員の指名を受けていただと?)


「ええ、彼が選挙に当選したのは昨年のちょうどこの時期くらいだったかしら?メンバーを選定するにあたって、私も一緒にやってくれないかって声をかけられたのよ。けれど、丁重にお断りさせて貰ったわ」

「我らは何度もクリスティー様を説得したのだが……生徒会に入って貴方様の優秀さを学園中に轟かせて欲しい、と。」

「しかし、クリスティー様は決して首を縦に振らなかったのだ。そしたら、あの《《女狐》》が調子に乗りよって……」

「やめて。そんなこと言うものじゃないわ」


(女狐?)


「そんなわけで、そこの二人は、私を生徒会に入れることを諦めてないみたいだけど、私は本当にこれっぽっちも興味がないの。わかってくれた?」

「はい、十分に理解しました。……あの、もう一つだけ、お伺いしてもいいでしょうか」


彼女が、生徒会に所属しているアリーチェさんを妬んで階段から突き落とした――その可能性は、これでほぼ消えたと言っていいだろう。


けれども……それとは別の、もうひとつの可能性についても、この際だから確かめておきたかった。



「なにかしら?」

「すいません、ちょっと下世話な話になるんですが……クリスティーさんも、そしてアリーチェさんも、ダンテ殿下の婚約者候補だって聞いたんですが、これって本当ですか?」


クィアシーナの質問に、紙袋たちがダンッと机を同時に叩いた。

「ちょっと、」とクリスティーが注意しようとするも、紙袋たちは憤りをあらわにする。


「そんなわけないだろう!?あの女狐が勝手に吹聴していただけだ!」

「そうだそうだ!嘘つきアリーチェが婚約者候補であるわけがない!候補は今のところ、クリスティー様ただおひとりだ!」

「そんなこと言わないで。それこそあんたたちも嘘つき呼ばわりされるから。それにあくまで私も彼女も”候補”っていうだけだし。」


結局どちらが真実なのか判断できず、クィアシーナはもう一度クリスティーに確認することにした。


「クリスティーさんがダンテ殿下の婚約者候補というのが本当で、アリーチェさんは自称していただけ、という理解で合ってますか?」


「うーん……一応、私が婚約者候補ってことはあってるかな。ラスカーダの王族って、いまでも古いしきたりが残ってて、今の時代になっても魔力量の多いもの同士を婚姻させようとするのよ。

それで、ダンテから君と同世代で、魔力保有量の多い私が、昔から彼の婚約者候補にあげられてたんだけど……

正直、アリーチェさんのことは私も本当かどうかわからないの。というのも、アリーチェさんも、とんでもない魔力量を秘めていることが判明したから」

「え!?でも、アリーチェさんって、Bクラスで、しかも下位貴族出身と聞いたのですが……」


魔法を専門的に学ぶAクラスでは、入学時に魔力量の有無を測る適性検査が実施される。

一方で、Bクラスをはじめとする一般教養科では、魔力量の有無は問われない。


そもそも魔力の保有量は、高位貴族であるほど多いとされてきた。

これは、魔力量の多さがすべてと考えられていた時代の名残であり、当時は魔力の強い者同士を結びつけることが貴族の慣習とされていたためである。

現在ではその慣習はすでに廃れているものの、さきほどクリスティーが説明したとおり、そのしきたりを今なお受け継いでいるのがラスカーダ王族である。


「Aクラスじゃないからって魔力がないわけじゃないわ。現に、Sクラスのダンテ君やリンスティーも魔法を使ってるでしょ?」

「あ、確かに。」


クィアシーナはダンテ会長が浮遊魔法を、リンスティーが伝達魔法を使っていたことを思い出す。


「それに、下位貴族でも、突然変異のように魔力の多い子どもが生まれることは稀にあるの。それは平民でも同じこと。

アリーチェさんの実家の子爵家は、ご当主に子どもがいなかったから、弟夫婦の子ども――アリーチェさんを養子にした。言い換えると、彼女はもともと平民なんだけど……その“突然変異”に該当するみたいね」


「そうなんですね……魔力量が多いから、下位貴族でも婚約者候補になりうる、と」


「ええ、その通りよ。それにダンテ君も、アリーチェさんが彼の婚約者候補だと自分で言いふらしているのを、咎めたことが一度もなかったの。

だからこそ、彼女の言っていたことが嘘だと断言できないのよね」


「ダンテ会長は黙認してたってことですか?

……え、じゃあ、まさかだけど……ダンテ会長とアリーチェさんって、ひょっとして恋人だったり?

だからアリーチェさんが“婚約者候補”とか言いまわってても止めなかった……とか?」


クィアシーナが、さも名推理をひらめいたかのように問いかけると、袋たちは即座に否定した。


「そんなわけないだろう!」

「あんな女が殿下の恋人なんて許せん! それだったら、おまえの方が100倍マシだ!」

「え、そんなに!?」


散々人のことを生徒会のレベルを下げるとかなんだ言ってこき下ろしといて、それよりマシだとは……

「クィアシーナさんはなんでダンテ君の婚約者候補について知りたいと思ったの?

もしかして……あなたも、その座を狙ってるとか……」

「え!?」


クリスティーはクィアシーナをいぶかしむような目で見つめる。


「そんなこと微塵も思ってません!!

ただ、ちょうど友達から、ダンテ会長の婚約者候補について話を聞いたので、気になっただけです!」


実際のところ、婚約者候補としてのアリーチェが目障りで、階段から突き落とすに至った――その可能性の有無を確かめておきたかっただけだ。


容疑者とされている彼らの視点から、アリーチェに対してどのような感情を抱いているのかを確認しておきたかったのだ。

しかし、まさか自分がダンテの婚約者候補の座を狙ってると捉えられるとは。



必死で否定するクィアシーナを、クリスティーは大きな目を細めて見つめた。


「気持ちは人それぞれだもんね。好きになるのは別に悪いことではないわ」

「だから、違います!」


クリスティーはどうやらクィアシーナがダンテに惹かれてると思い込んでしまったようだ。


否定しても「うんうん」と流されてしまった。


「本当に違うのに……。

あの、クリスティーさんは、アリーチェさんが候補ではなく、ダンテ会長の婚約者に内定したらどう思いますか?」


少し突っ込み過ぎた内容であることは自覚している。

しかし、今を逃すと彼女にアリーチェのことを聞く機会は無くなってしまう気がした。


「うーん……そうね、ダンテ君に"趣味が悪い"って伝えるかもしれないわ」

「趣味が悪い……」


(クリスティーさんは、あまりアリーチェさんにいい感情を持ってないっぽいな)


つまり、クリスティーにアリーチェを害する動機はある。

しかし、この短時間でクィアシーナがクリスティーに抱いた印象は、“常識のある人”である。

たとえ万が一、この人がアリーチェを階段から突き落としてしまったとしても、そのまま放置して逃げるなんてことはしないのではないだろうか。



寧ろ――アリーチェの人物像がつかみきれない。


ダンテから聞いた話では、彼女は理不尽なやっかみを受ける被害者でもあり、しかし一方で、マグノリアンからは「合わない」と評され、ファンクラブの女子たちからは嫌われていて、クリスティーからもいい感情は持たれてない――そんな立場らしい。


(マグノリアンたちも“女狐”って呼んでいたし……でも、ダンテ会長からは、彼女に対してネガティブな印象を感じたことがないんだよね……やっぱり、秘密の恋人同士だったとか?)



クィアシーナがひとり悶々と頭を悩ませていると、給仕が料理を運んでやって来た。


「あ、やっと料理が来たわ。さあ、腹ごしらえして午後の授業に備えましょう」


運ばれてきた料理は、思わず“どこのレストランのもの?”と言いたくなるほど、完璧に盛り付けられている。

学生食堂で提供されているとはとても思えないその料理に、クィアシーナは舌鼓を打った。


こうして昼休みは、結果的に言えばプラスの時間となったのだった。


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