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18. 会計ルーベント

結局、下校時刻になってもダンテとリンスティーの二人は戻って来なかった。

二人の鞄は席に置いたままであったため、後で戻って来るだろうと、鍵はそのままに全員で帰宅することとなった。



「今日は俺が家まで送ってってやるよ!」



まだ朝であるかのような快活なテンションでクィアシーナの送迎を買って出てくれたのは、今日黙々と作業をしていたルーベントだった。


マリアいち推しの彼を改めて見た瞬間、彼女の熱弁が誇張でなかったことをひしひしと感じた。

制服の上からでも明らかにわかる引き締まった体躯。肩の厚み、腕のライン、背筋の伸び――どれもが鍛錬の積み重ねを物語っていた。


「すいません、ありがとうございます」


「礼なんかいいって。何でも昼に怖い思いをしたんだって? ダンテからも今日は俺が送ってやれって頼まれてたんだよ。俺だったら護衛代わりにもなると思うしな」


「ダンテ会長が……」


いつの間に頼んだというのだろうか。本当に卒がない人である。

そして、ルーベントは自分で護衛代わりになると言ってるので、腕には自信があるのだろう。



「お、そうだ! 走ってるほうが襲われにくいんじゃないか!? 一緒に坂道ルートを駆けて、そのままランニングして帰ろうぜ!」


「え、ランニング!? 私、ローファーなんですが!?」


クィアシーナが履いているのは学園指定の固い革靴である。長い時間走ったりなんかしたら、すぐさま靴ずれを起こすに違いない。

そして何より、提案された内容自体に、微塵も心が向かなかった。


「じゃあ靴を履き替えたらいい! 二階の倉庫に色んなサイズの運動靴が置いてある。歴代の生徒会メンバーが置いて行ったやつだから、好きなのを持って行っていいぞ!」

「マジですか」


二階の倉庫部屋はそこまで広くないのだが、そんなものまで置いてあるらしい。


(誰なんだ、余計なことをしてくれたOGは……)


クィアシーナが遠い目をしていると、マグノリアンが肩をポンと叩いた。


「諦めろ。俺らもたまに捕まって走らされる。今日は運動する日だと思って、頑張ってついていけ。じゃ、健闘を祈る」


そう言い残すと、彼は薄情にもさっさと階段を下りていってしまった。

ビクターとアレクシスはというと、「頑張って走ってね~、また明日~!」と、仲良く転移式を使ってそそくさと帰っていった。


ちなみにドゥランは、気づけば鞄ごと姿を消していた。


(いや、そこは俺たちも一緒に走るとかじゃないのか!)



断る理由を失ったクィアシーナは、二階から靴を拝借し、運動靴へと履き替えた。

念のため屈伸をして、足を痛めないよう備えておく。


「エライ、準備運動は大切だよな! じゃあ行くか!

鞄は俺がもってやる! さあ俺のあとについてこい! 遅れるんじゃないぞ!」


ガチガチのアスリート気質のルーベントに、クィアシーナは若干、というか、かなり引いている。


「が、がんばります……」


見るからに体力がありそうな体つきのルーベントなので、最初からダッシュをかけるのだろうと思いきや、意外にもクィアシーナのゆったりしたペースに合わせて走ってくれた。

ときおり遅れていないか後ろを振り返りながら、二人はランニングで坂道を下っていく。


下り坂だったため、足の進むままに走っていたクィアシーナだが、ようやく裏庭にたどり着いて平坦な道になると、途端にペースが落ちてしまった。

そこでルーベントが「一回休むか」と足を止めた瞬間、クィアシーナの呼吸は一気に乱れた。


「つ、疲れた……」

「おいおい、まだ裏庭に着いただけだぞ? 疲れるのが少し早くないか? 次はもっとペースを上げれるように頑張れ!」

「……」


(足首が痛い……私は走る必要がないなら走らないし、頑張らないぞ。明日は絶対階段から帰る……!)


息をぜーはー言わせながら、クィアシーナは心に誓った。


ルーベントの想定より早くクィアシーナがバテてしまったためか、そこからは早歩きで帰ろうと提案してくれた。

決して普通に歩いて帰ろうと言わないところが、ポイントである。




「下宿先はこっちなのか。この辺りに来るのは初めてだなぁ」


ルーベントの宣言どおり、二人は小走りに近い速度でクィアシーナの下宿先へ向かいながら、言葉を交わしていた。

クィアシーナはやや息が乱れてはいたものの、なんとか彼のペースについていっている。


「そうなんですか?ルーベントさんはどこから学園に通ってるんですか?」

「ん? 俺か? 俺は学園の特別寮から通っている。家は学園から遠いからな」

「あ、確か、辺境伯領のご出身なんでしたっけ?」

「ああ、そうだ。グレジア領って聞いたことあるか? 東側の海に面した土地で、強い魔物の巣窟だ。実家はそこら一帯を治めてる」


グレジアの名前を聞いて、クィアシーナはびっくりした表情を浮かべた。


「え、もしかして、ルーベントさんってグレジア領主のご子息なんですか!?」

「ああ、そうだ。ルーベント・グレジアが俺の本名だ」


グレジア領は、クィアシーナの実家があるトラヴェとは方角的に真反対の位置にある土地で、自然豊かな場所であると同時に、獰猛な魔獣が生息する地域としても知られている。

また、ラスカーダ国の騎士団とは別管轄の、グレジア領独自の軍隊を有していることでも有名だった。


ルーベントがグレジア辺境伯の家系なら、彼も漏れなく武人として育てられたに違いない。でもそうなると、なぜ彼は学園に通っていたりするのだろうか。


「ルーベントさんはグレジア領の士官学校に入ることは考えなかったんですか?」


ちなみに、クィアシーナが士官学校の存在を知っているのは、親が勧める転校先候補のひとつに挙がっていたからである。クィアシーナには将来軍部に就く予定などない。年度途中の募集はしていないと知って胸を撫でおろしたのは、つい最近のことだった。


「ああ、最初はそこに入ることも考えた。けれど、俺は長男だから、将来的には領地を治めなければならん。だから、剣術と経営学の両方が学べるフォボロス学園を選んだんだ。士官学校は学園卒業後に入ることもできるしな」

「そうなんですね。あ、そういえば剣術部に入ってるって聞きました。生徒会との両立は大変ではないですか?」

「剣術部は朝練しか参加できてないが、大変だと思ったことは一度もないぞ! 俺は身体を動かすのが大好きだからな!」


部活動との両立は大変ではないと断言するルーベントは、クィアシーナの目にはまぶしいほど輝いて見えた。

加えて、将来のことまで真剣に考えて進学先を選んだという彼の姿に、クィアシーナは思わず尊敬の気持ちを抱いた。


「ルーベントさんは、自分のやりたいことも、将来をきちんと見据えることもできていて凄いですね……。私、まだ何も考えられてないです」

「そりゃあ、まだ一年生なんだから、やりたいことなんてこれからいくらでも見つかるだろ。

それに、将来のことだって、今から選択肢を絞り込まなくても、ゆっくり考えていけばいいんじゃないか?俺の場合は、前々から家を継ぐことが決まっていたし、あと半年ちょっとで卒業だしな。逆に、将来を見据えて行動しなきゃいけない時期なんだよ」

「でも、言い換えると、三年のこの時期には将来のこと考えないといけないんですね。あっという間な気がする」

「ああ、あっという間だった。だからこそ、学生時代の一日一日を大切にな」


自分もまだ学生だろうに、急に老成したような言い回しに、クィアシーナの口からフフ、と笑みが溢れる。


「ルーベントさんってなんだかめちゃくちゃ年長者の人みたいですね」

「そうか?でも、ダンテなんかに比べたら、俺なんてまだまだ青臭いガキだよ」


そう言って微笑む顔は、確かに年相応に見えた。





「さて……明日はどれを持っていこうかな」


クィアシーナは部屋で、明日の登校準備をしていた。

準備というのは授業のためではない。

今日の昼休みのような、危険に備える準備である。



(ガラスが割れた件は魔法の仕業かもって言ってけど、対魔法グッズは持ってないんだよね……どうするかな)


床の上には護身アイテムが所狭しと並べられていた。


「持っていくのは三つまでかな」


クィアシーナは過去の学校で理不尽な嫌がらせを何度も経験してきた。

その度に、両親がどこから調達したのかわからない護身グッズを、クィアシーナにこれでもかと持たせてくれていた。


でもまさか、フォボロス学園で使うことになるとは、思っても見なかった。表向きは平和な学校に思えたから。

実家から念の為とたくさん持ってきておいて良かったと心底思う。


(監禁対策はマストでしょ。学園で刺されるとかあるのかな? 制服の下は一応防刃シャツにして、あとは靴底に鉄板でも仕込むか)



普通の女子学生なら絶対に持ち歩かないであろう物を準備し、さあ寝るぞ、とベッドへ潜り込む。


今日は身体的な疲れもあってか、彼女はすぐに夢の世界へ旅立っていった。


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