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17. クィアシーナは新聞部の取材を受ける

「あなたがクィアシーナさんですか!? 初めまして、僕は新聞部で二年Cクラスのラシャトと申します!!」


ラシャトは有無を言わさずクィアシーナの手を取り、ブンブンと上下に振り回しながら握手をした。

「いや~良かった! まだ学校に残ってくれてて!!!」

彼のテンションは嵐のようで、クィアシーナは反射的に後ろに仰け反った。


「え、あの、取材って何――」

と言いかけたものの、ラシャトの勢いに完全に押し流されてしまった。


「新しく生徒会に入ったという件でも、クィアシーナさんに取材させて貰おうと思ってたところだったんですよ! だって、つい最近、庶務の方が休学して抜けたばかりでしょ!? まさかその後釜として、新しい人を会長が指名するなんて! しかも指名されたのは、まさかの一年Dクラスの転校生! 異例の大抜擢! もう食いつくしかないですよね。

その上、今日の第二カフェテリアの窓ガラスの事件に、あなたも関わってるっていうじゃないですか! こりゃあもう会うしかないって、こうしてあの心臓破りの階段を上って、はるばる生徒会館までやってきたわけですよ。あー疲れた疲れた」


「お、お疲れ様です……」


よくわからないが、目の前の人物が息もつかせないくらいに喋る人物だということは理解した。

そして、庶務となったクィアシーナ自身ことと、昼間の事件のことを取材したいらしい。


「すいません、私は転校して来たばかりなので、よく知らないんですが、取材っていうのは、受け答えした内容が新聞か何かに載るんですか?」


「そっか! 転校してきたばかりですもんね! そうです、取材した内容は新聞部が発行する新聞に掲載されます。私たち新聞部は、生徒会が毎月発行している校内報とは違って、スクープがあればすぐに取材し、それを記事にします。

新聞は不定期で生徒にお配りします。ほとんど内容は学園内に限ったものですが、たまに学園外のことを書いたりもします。

学園周辺の美味しいお店の情報とか、おすすめデートスポットとか。今は手元にないんですが、カフェテリアや部室前には最新号が置いてあるので、暇なときにぜひお読みになってください!」


学園周辺にまでスポットをあてるとは、なかなか学生のニーズに応えた記事を取り扱っているようだ。

周辺情報が欲しいクィアシーナは、一瞬で興味を惹かれた。


「わかりました、明日にでも手に取ってみますね。ちなみに、読み物としては校内報より新聞のほうがキャッチーな感じという理解であってます?」


「そのとおりです! 新聞のほうがジャンルが幅広く、生徒目線の内容を提供することを心掛けています。

で、取材、受けてくれますか!? 変なことは書かないとお約束するので、この通り! お願いします!

ね、マグノリアンくん、君からも頼んでよ」


どうやらマグノリアンとラシャトは顔見知りらしい。

ラシャトはえらく気安い様子で声をかけているが、マグノリアンはひどく面倒くさそうな顔をしていた。


「頼むって……というか、おまえ、絶対変に内容盛ったりすんなよ。新聞部の取材記事は誇張しすぎるときがあるからな……」


「心外だ! だって盛らないと面白くないでしょ。面白くない=誰も読んでくれないんだよ! 悲しいでしょ!? というか部員たちみんな大泣きだよ!大丈夫、"嘘は書かない"っていうのが新聞部のモットーだから。それに、下校の時間まであと少しだし、そんなに時間は取らせないよ」


クィアシーナは"誇張しすぎる"と聞いて、少し躊躇ってしまったが、それよりも俄然好奇心が勝った。

取材なんて、生まれてこの方受けたことがない。怖いもの見たさで、一度でいいから体験してみたいと思ってしまった。


「……私でよければ、取材オッケーです」


クィアシーナが了承の返事をすると、ラシャトは目に見えて喜びをあらわにした。


「ヤッター良かった!! 快い返事をありがとうございます!!! ご協力感謝します。ほら、マグノリアンくんも感謝して!」

「なんで俺は新聞部側の立場なんだよ……」

「どうします?取材はこのままここでしますか?それとも応接室に移動しますか?」

「ここでも結構、なーんて言おうとしたけど、やっぱり応接室を使わせてもらおうかな? 人に聞かれたら困ることもあるかもしれないものね」

「うーん、そんなもの無い気がしますが、わかりました。では、中へどうぞ」


クィアシーナはラシャトを中へ案内し、応接間へと移動した。

マグノリアンは「先に会議室を片づけてから、お茶を持っていく」と言い残して、その場を先に離れていった。




ラシャトは応接室に入るなり、「まずは写真を一枚、撮らせてください」とクィアシーナに向かって頼んできた。


「え、今ですか!?」


クィアシーナは、やや躊躇う様子を見せる。


というのも、階段の昇降や掃除で、朝に軽くしてきた化粧はほとんど落ちかけていた。

普段そこまで化粧に気合いを入れていないため、化粧直しの道具も持ってきていない。


――女子というのは、万全でないときほど写真を撮られるのをためらってしまう生きものなのだ。


(なんの準備もできてない。いくら平凡顔とはいえ、最低限整えてから撮りたい……!)



「あのー……、後日じゃダメですか?」


「いやーできれば今日欲しいな。今日中に原稿を書き上げて、明日には配りたいんですよ。大丈夫、新聞は白黒だし、粗いから、お肌の調子が悪くても気にならないと思う。」


クィアシーナの肌の調子は、そもそも悪くない。

それよりも気になっているのは、全体の印象のほうだった。


とはいえ、そこまで鮮明に写るわけでもないのなら――まあ、良しとしよう。そう思い直した。


「じゃあ大丈夫です。座ったままでいいでしょうか?」


「はい、座ったままで大丈夫です! 少し斜めに座って膝を閉じて、顔はこちらを向いて下さい――うん、そのまま静止して、笑顔! 撮りますよー……一、二、三! あともう二枚撮りましょう!」


慣れない撮影に、クィアシーナはぎこちない笑みを浮かべる。

ラシャトからは何も言われないので、それっぽくは見えてるのだろう。


そうして写真撮影が終わり、やっと本題へと入った。


「下校時間まであとちょっとだな~。となると、昼休みの件を先にお伺いしようかな。こちらの方が緊急性があるし」


そう言うと、ラシャトは昼休みに起きた窓ガラス事件について、丁寧にクィアシーナに質問をしていく。


「どこの席に座っていたか教えてくれますか?」

「何時頃窓ガラスは割れたの?」

「怪我人はいましたか?」

「ガラスはどうやって割れたんでしょうか?」

等など。


取材のときのラシャトのテンションは至って普通で、クィアシーナの話をしっかりと傾聴し、いいタイミングで相槌や質問を挟んできた。

クィアシーナにとっても話しやすく、緊張といったものはまったくなかった。


「ではこの件に関して、最後の質問です。ちょっと意地悪な質問なので、気を悪くしないでくださいね」

「はい、わかりました」


ここまでは自分でも想定できた質問だったので、詰まることも無くスラスラと答えられたのだが、意地悪な質問と聞いて、少し身構えることにした。



「実はここに来る前に、事件現場の近くにいた人数名にも取材に行ったんですよ。

そしたら、その中の一人が、"テーブルに座ってた人が席を離れた瞬間、ガラスが割れた"と言ってました。さらに、それを聞いて"新しい庶務の人が自作自演で騒ぎを起こしたんじゃないか"って疑ってる人もいました。……クィアシーナさん、あなたは転校してきたばかりで生徒会に入った。それだけでは満足せず、さらに目立ちたくてパフォーマンスとしてガラスを割ってみせた。違いますか?」


(目立ちたいがための、パフォーマンス……? ガラスを割るのが? 馬鹿じゃないの!?)


本人が宣言したとおり、本当に意地悪な質問だった。

ラシャトは申し訳なさを滲ませた聞き方をするが、どんなトーンであっても失礼なものは失礼である。


「全くもって違います。私は目立ちたがりでもありませんし、そんな常識外れな行為もしません。それに、割れたのは外から衝撃があったからです。カフェテリア内にいた私にはそんな芸当できません」

「では、なぜ貴方が席を離れた瞬間にガラスは割れたんでしょうか。誰か共犯者がいたりするのでは?」

「共犯者を作ってまで、なんで自分の身をわざわざ危険に晒すようなことをしなきゃならないんですか!私、そこまで頭のネジがぶっ飛んだりしてません!」


彼の馬鹿馬鹿しい推理に、クィアシーナは思わず声を荒げてしまった。

そんな彼女の剣幕を見て、ラシャトは「うん、それが普通の反応ですよ」と、さらりと言った。


「ただ、新聞部として、どんなことにも疑問や興味を持ち、真実を突き止めて記事にしたい、純粋にその気持ちを持って敢えて確認させて頂きました。すいません、不快な思いをさせて」


「あ、いいえ……」


相手が落ち着いていると、不思議とこちらも冷静になるものだ。

興奮していたクィアシーナは、声を荒げてしまったことが急に恥ずかしくなった。


「じつはねー、過去にね、いたんですよ。自作自演で派手なことを起こす人が。結局、証拠がなかったので、そのときの記事は日の目を見ることがなかったんですけど」

「それは……迷惑極まりないですね。目立ちたいなら、真っ当な方法でやればいいのに」

「ですよねーほんと、この学園にはいろんな人がいるもんですよ」


彼の言い方からして、その人物は在校生であるようにも聞こえた。どこの学校にもぶっ飛んだ人間というのはいるらしい。できれば卒業まで関わりたくない。


「ご回答ありがとうございました! 昼の事件についてはこれで十分です。またお伺いに来ることもあるかもしれませんが、そのときはよろしくお願いします」


空気を変えるためか、明るい様子でラシャトが事件についての話を打ち切った。

クィアシーナは「最後の質問に関しては、私がきっぱり否定していたことを強調してください」と強めに主張しておいた。



「それじゃあ、次は時間の許す限り、新たに庶務に就任したクィアシーナさん自身のことについてお伺いしていきたいと思います」


「あ、まだやるんだ」


クィアシーナの口から思わず本音がこぼれおちた。

すでに下校時刻が迫ってきているので、てっきり今日のところは切り上げて、また後日にするのかと思っていた。


「当たり前じゃないですか! みんな、突然現れた新しい生徒会メンバーに興味津々なんですよ!?

協力してくださいよ! 十倍くらいイイ人に見えるように書きますから!」

「あ、盛らなくていいです。原文の体裁は維持してください」

「つれないなぁ」


実際に新聞の記事を読んだことはないが、マグノリアンが「誇張しすぎる」と言っていたくらいである。あらかじめ注意しておかないと、自分が口にしていないことまで書かれそうな気がした。


クィアシーナがラシャトに釘を刺しているところへ、扉のほうからノックの音が聞こえてきた。

ガチャリ、と扉を開く音と共に現れたのは、トレーにお茶を乗せたマグノリアンだった。


「今入っても?」

「うん、大丈夫だよ。クィアシーナさんがよければマグノリアン君も同席する?彼女のことよくわかるんじゃない?どう?」


マグノリアンはその提案に返事はせず、お茶のカップをラシャトとクィアシーナの前に置いた後、クィアシーナに向けて同席してもいいか確認の視線をよこす。

彼の眼には好奇心が見え隠れしていた。


「ちょっと恥ずかしいから遠慮して欲しいところですが……、でも、結局新聞になったら読まれることになるんですよね? どうせ後でバレるんだったら今同席して頂いてもかまいません」


「了解。じゃあこっちの端で聞かせてもらう」


マグノリアンはそう言うと、カップを持ってソファの端の席へと腰かける。

……ちゃっかり自分の分のカップを持ってきていたあたり、最初から同席する気まんまんだったようだ。


「では、早速。クィアシーナさん、あなたの名前と、出身地、誕生日を教えてください」

「クィアシーナ・ベックです。出身はラスカーダ国のトラヴェ地方で、誕生日はラスカーダ歴千二百年、冬月の二日です」

「おや、トラヴェ地方出身なんですね。隣国の国境付近に住んでるとか?」

「はい、そうです。といっても、幼い頃から外国を転々としてきたので、あまり思い入れはないんですけどね」


トラヴェ地方は、ここラスカーダ国の西方に位置し、隣国ザイアスとの国境に面した地域である。地名と同じトラヴェ公爵家の管轄地域でもある。ザイアスとの交易が盛んで、隣国産の品物が街には多く流通している。クィアシーナの実家も一応この街にあるのだが、この前帰ったときは、故郷というより完全に観光客の気分だった。それほど、この街への思い入れは薄い。



「外国を転々と……。ちなみに、ここに転校する前はどこの学校に通われていたんですか?」

「ザイアス国のダントリアス校です」

「なんと、あの有名な! 殿下やリンスティー様も通われてた名門ですよね!?」

「え、名門? そうなんですか?」


あの学校が名門だったなんて、クィアシーナは今まで聞いたことがなかった。

ザイアス国に引っ越した際、「ザイアス国では治安のいい学校に通いたい」と親に言って紹介された学校である。入学に際して試験といったものは無く、学校職員による面接と、受験者同士で謎の討論をしたという記憶しかない。


「いや~思ったより優秀な方なんですね! これはこれは」

「ど、どうも?」


クィアシーナはラシャトの言葉に照れた様子を見せる。

思ったより、という枕言葉は余計だが、優秀と褒められて悪い気はしない。


「それで、この学園にはどうして入ったんですか?」

「あーそれは、私の学年で編入を受け入れていた学校が、この時期ここくらいしかなかったからです」

「え?」


ここで、これまで黙って聞いていたマグノリアンが声を出した。


「? 何か?」

「いや……おまえ、この前ここの生徒会に入りたくてこの学園を選んだって言ってなかったっけ?」

「!!!」



そういえば生徒会メンバーが揃ったとき、アレクシスに「生徒会に入りたくて学園に入ったの?」と言われ、咄嗟に「はい、そうです!」なんて、条件反射のように肯定してしまったのを思い出した。


(やばい、ミスった)


やはり、話を適当に合わせるべきではない。



「……というのは冗談で、本当は、ここの生徒会にどうしても入りたかったからです。編入試験の面接の際に、学園長にアピールしたおかげで、こうして、その夢が叶いましたー」


取って付けたような話っぷりに、マグノリアンは疑わし気な顔をするが、ラシャトの方はクィアシーナが話した内容に納得してくれたようだった。


「なるほど、なるほど! 編入前から生徒会に対する熱い気持ちがあったんですね! 素晴らしい情熱です!」


本音としては、生徒会に対してよりも、アリーチェの事件解決による褒美への情熱の方が勝っている。けれどもそんなぶっちゃけ話ができるはずもなく、クィアシーナは「あ、ありがとうございます……」と苦笑いを浮かべてごまかした。



そこから好きな食べ物や趣味、休日の過ごし方などを聞かれ、最後に「では、これからの意気込みと、生徒のみなさんへ一言お願いします」と質問された。


「ええと、生徒会のみなさんと肩を並べられるよう、これから仕事に励んでいきたいと思います。まだ学園には不慣れではありますが、生徒のみなさんのお役に立てるよう頑張りますので、どうか温かく見守っていただければ幸いです」


どこかで聞いたような定型文めいた内容ではあるが、こういう場面では無難な言い回しが一番、余計な波風を立てずに済むものである。

クィアシーナはそう一言述べると、軽く頭を下げた。


「素晴らしいご回答をありがとうございました。取材はこれで終了です。ありがとうございました!」

「いえいえ、こちらこそ貴重な経験ありがとうございます」


クィアシーナは取材という生まれて初めての経験をさせてくれたことに対して礼を述べる。

その様子にラシャトは記者としての口調を崩し、先輩らしくクィアシーナに声をかけてくれた。


「はは、丁寧な子だね。今日取材した内容は、昼の事件に関しては明日新聞として出回ると思うよ。クィアシーナさんの紹介記事は今週末くらいになると思うから楽しみにしてて。お茶、ごちそうさまでした」


彼はそう言うと荷物を纏め、颯爽と教室棟の方へと帰っていった。これから部室に戻り、他の部員と共に原稿を仕上げるらしい。





ラシャトが去った後、クィアシーナが使用済みの茶器を持って給湯室に向かおうとしたとき、机を拭いていたマグノリアンが労わりの声をかけてきた。


「お疲れ様。取材は緊張したか?」

「いえ、思ったよりも楽しかったです。あ、そういえば会議室の片付けありがとうございました」

「ん? 別に大したことしてないし。それより、新聞部はこうやってここまで取材しに来ることが多々ある。だから、ラシャト以外の奴ともすぐに顔見知りになると思う」

「そうなんですね。ちなみに、新聞部以外にも、何か部活動ってあるんですか?」

「ああ。今のところ、新聞部、ダンス部、声楽部、文芸部、剣術部、弓道部、あとファンクラ部がある」



最後の部に聞き覚えがあり過ぎて、クィアシーナは思わず聞き返してしまった。



「んん゛ッ? ファンクラ部!?」

「うん、ファンクラ部。生徒会の面々を愛でる会なんだとよ。全部活動の中で一番部員数が多い」

「……って、それ、部活動なんですか!?」

「そりゃそうだろ。名前に部ってついてるじゃないか」

「ええー……」


まさかの学校公認の団体だった。


「部活動は部員が五人以上で部の予算がつく。三か月にいっぺん、生徒会と各部長とで予算決めの会議があるから、生徒会のメンバーは部長たちとは全員顔見知りだ。そろそろその時期だから、おまえも会議に参加することになると思うよ」

「了解です。ちなみに、生徒会のメンバーで部活に入ってる人っているんですか?」

「あぁ、ルーベントさんが剣術部に入ってるな。でも、生徒会がメインだから朝練くらいしか参加できてないみたいだけど。基本的に生徒会のメンバーは生徒会専任が多いよ。それとも、何か入りたい部活があるのか?」

「あー、いえ、……はは」


言えない。

ファンクラブにちょっと入ってみたいだなんて。


クィアシーナはごまかすように笑い、先程の問いをはぐらかした。


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