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14. ファンクラブなるもの

「この中で、昼休みに教室にいた人はいますか? その人たちは挙手をお願いします」


クィアシーナはホームルームで十分な時間をもらえるよう教師に頼み、教室の前に立って先ほどの言葉を告げた。


(自分でも何やってるんだろう)

おそらくクラスメイトのほとんどは、「なんか面倒なことが始まったぞ」と思っているだろう。


しかし、脅迫文を無視して犯人をさらに増長させるのも癪だ。けれども、こっそり探ろうにも、転校したばかりの自分では頼れる人も限られている。

となれば――いっそ、みんなの前で堂々と犯人探しをしてやろう、という考えに至った。しかも、敢えて他人からすれば「面倒くさい奴」と思われかねない方法で。


クィアシーナの質問に、挙手した生徒は女子五人。あとの生徒たちはカフェテリアや外で昼を食べていたようだ。


「すみません、挙手をされた方は立ち上がってください」


「何がしたいんだ」という声も聞こえてきたが、みんな素直にクィアシーナの言葉に応じて立ち上がった。


「この中で、この紙に見覚えがある人はいますか?」


クィアシーナが自分の教科書に貼られていた紙を掲げたとき、一人の生徒が咄嗟に顔を伏せたのを見逃さなかった。確か、名前はリファラだったか。


「リファラさん、あなた、これに見覚えがあるの?」


クィアシーナの確信めいた問いかけに、リファラは「あ、えと」と戸惑った声を漏らした。


「大丈夫、あなたを責めているわけじゃない。ただ、これを渡した相手を知りたいだけなの。もし見かけた人がいたら教えてほしい。この場で話しづらければ、あとで……生徒会館で聞かせて」


生徒会館を選んだのは、ただ単にその場で他に思いつく場所がなかったからだ。

しかし、生徒会を辞めろと脅されている身で、生徒会館を指定するのは、まるで自分からケンカを売っているようなものだった――そのことに気付いたのは、この騒動が終わった後、ララたちに指摘されたときである。


「ねえ、クィアシーナさん。その紙には何て書いてあったの?」


座っていたクラスメイトの一人が尋ねるが、クィアシーナは「ごめんね、中身は言えないの」と内容の開示を拒否した。


「ご、ごめんなさい! それをやったの、私!」

「え」


クィアシーナは、てっきりこのクラス以外の誰かがわざわざDクラスまで来て、教科書に貼りつけたのだと思っていた。なにせ、Dクラスの面々は穏やかな連中ばかりだからだ。


ところが、犯人はまさかのクラスメイト。しかも、自ら名乗り出てくるとは、完全に予想外だった。

そして、彼女をさらに驚かせたのは、それだけではなかった。


「ごめんなさい! リファラだけじゃない、私たちもやったの!」

「え、ええー!?」


立ち上がっていた五人が次々にクィアシーナに向かって「ごめんなさい」と頭を下げ始めた。

中には、罪悪感に耐えきれずすすり泣く子までいる。

そんな彼女たちの様子に、周りのクラスメイトは「何をしでかしたんだ?」とばかりに興味津々で視線を向けていた。


「あー、悪いんだけど、五人とも、ホームルーム終了後にちょっと時間をもらえる? ここで晒し者にするのもなんだし」


五人は皆、こくりと頷いた。


(なんて素直なクラスメイトたちなんだ……)


クィアシーナのこれまでの経験からすれば、後ろめたいことをした者ほど、こういう場面では最後まで口をつぐむものだ。

心理的に言い出しにくい場合もあるし、性格的にしらばっくれて押し通そうとする者もいる。


クィアシーナは、この場で真犯人を突き止めたかったわけではなかった。ただ、こちらにも反抗する意思がある――ということを示すために行動しただけである。


これで嫌がらせを止めてくれたら万々歳、面白がって同じことを繰り返すなら、証拠を集めるだけだ。


しかし、彼女たちはあっさり自分たちがやったと認め、謝罪までしてくれた。

根が素直というか、きっとこうしたことをするのは初めてだったのかもしれない。


気まずい空間と化した教室だったが、そこは申し訳ないが、プロである教師に丸投げすることにした。




そして放課後――


「本当に、ごめんなさい」


人気のない中庭のベンチテーブルには、クィアシーナを含めた六人が集まって座っていた。

静まり返った空気の中、クィアシーナに向けて、いよいよ“謝罪大会”が始まろうとしていた。


「私が生徒会に入ったのが気に入らなかった?」


クィアシーナはあえてクローズドな質問で確認する。

みんなが黙り込む中、リファラが代表しておそるおそる口を開いた。


「あなたが生徒会に入ったのは別に……。一年生でDクラスで、しかも見た目もめちゃくちゃ普通なのに、生徒会入りするなんて、むしろすごいと思ったよ」


(見た目が普通で悪かったな)


リファラからの急なクィアシーナへの下げの評価に、心の中で悪態をつく。


「でも、どうしても許せなかったの! 昨日のお昼、ダンテ殿下と手を繋いでたでしょ!? 今朝だって挨拶当番で殿下の隣にいたし……みんなの殿下なのに……!」


(でた、"みんなの殿下"!)


「もしかして、みんな生徒会のファンとか?」

「うん、そうだよ。五人とも、みんなダンテ殿下推しで、ファンクラブの会員」

「わお」


ダンテの人気ぶりに、思わず感嘆が漏れる。

そしてやはり、ダンテと仲の良い姿を見せつけることで、アリーチェの事件の犯人を引きつける前に、余計なやっかみの種が生まれているではないか。


「クィアシーナさん、殿下はみんなの殿下なの! あなたにどんな隠れた魅力があるのかわからないけど、お願いだから殿下と親密な関係にはならないで!」

「え、あ、うん、それは大丈夫。向こうはもちろん私を生徒会メンバーとしか見てないし、私も、私ごときがお近付きになるなんて烏滸がましすぎて無理っていうか……」


間違いなく、ダンテはクィアシーナのことなんて眼中にない。ただの囮要員としか見ていない。

仲良くしているのもパフォーマンスの一種である。そもそも、クィアシーナには彼とわざわざ親密になろうという気持ちはまったくなかった。


「ほんとに? 約束できる? 殿下に誓える?」

「うん、ほんとほんと。たとえ向こうが私に過度に接触してきても、それは新しいメンバーに対する庇護欲なだけだから」

「そうなの? 本当にそうならいいんだけど……」


五人とも先ほどよりは顔色が戻っている。しかし、まだどこかクィアシーナに対して半信半疑なようにも見えた。


「ちなみに、ダンテ会長のどこが好き?」


クィアシーナが空気を和らげようと話題を振ると、


「私は断然顔!」

「柔らかな物腰!」

「統率力!」

「顔と穏やかな性格!」

「全部!」


みんな口々にダンテのことを褒めたたえた。


(熱意が……熱意がすごい。言葉に力がこもってる……!)


彼女たちの突然の熱気に、クィアシーナは思わず身体を後ろに仰け反った。


「そうだ! クィアシーナさん、ダンテ殿下の特集ファンクラブ会誌、見る? きっとあなたも彼の魅力に気づくから!」と、リファラがカバンから一冊の薄い冊子を取り出した。


もちろん表紙には、ポーズを決めた制服姿のダンテが写っている。

そこには『今月の巻頭特集は我らが殿下、ダンテ会長! 彼の幼少期に迫る!』という文字が大きく書かれていた。

それを見たクィアシーナは、一瞬のうちに興味を全力で持っていかれた。


「お、お言葉に甘えて、見せてもらうね……」


想像もつかない中身に、ドキドキしながらページをめくっていく。

すると、どこで撮られたのか分からないダンテの写真が、さまざまな角度から収められていた。中には、明らかに背景や照明まで整えて撮影されたものもあり、彼がファンクラブの撮影に協力していたことが一目で分かった。


さらに、写真以外の記事には、彼の幼少期の面白いエピソードが並んでいる。インタビュー形式の一問一答が記載されており、ファンクラブ記者とのやり取りから彼の人柄が伝わってきた。


途中には、会員による投稿コーナーや生徒会の面々との夢小説、編集コラムまで収録されており、まるで商業誌の読み物のようになっている。


(やばい、止まらない……)


クィアシーナがしばらく黙々と食い入るように読んでいると、「よかったら、貸してあげようか?」と提案されてしまった。


「いいの!?」


クィアシーナはリファラの申し出に、冊子から顔をがばりと上げ、前のめりで確認する。


「うん、本当はファンクラブの会員以外には回し読み禁止なんだけどね。クィアシーナさんはそもそも生徒会役員だし、いいかな」

「ありがとう! これ、めちゃくちゃ面白いね。帰ったらじっくり読ませてもらうよ」

「お、クィアシーナさんも面白いと思った!? もしファンクラブに入るなら教えてね。紹介するから!」

「わかった! そのときは声をかけさせてもらうね」


生徒会役員なのに生徒会のファンクラブに入るのは滑稽に感じる気もするが、この会誌を貰えるなら、会員になるのもやぶさかではない気がする。バックナンバーを遡って、他のメンバーの特集も見てみたい。


嬉々としながら冊子をカバンにしまうクィアシーナの耳に、リファラのふいの呟きが届いた。


「……クィアシーナさんって、見かけと全然違うよね」

「ん?」

「いや……私たち、あなたのことをちょっと脅して怖がらせようとしてたの。大人しそうだし、あの紙を見たら怯えるんじゃないかって思ってて。でも、クィアシーナさんを見てたら、全然動じてなくて……しかもホームルームまで使って犯人探しを始めるし……。

それに、私たちのことを庇うみたいに、メモの内容をみんなに言わなかったよね。あの場で私たちを糾弾することだってできたはずなのに……。私……あなたのこと、勘違いしてた。今は、生徒会に選ばれるだけの人なんだなって思う」


「私もそう思った。真摯な人って感じ」

「うん、それそれ」

「そ、そうかな?」


突然、みんなから次々と褒められ、クィアシーナはうまく言葉を返せなかった。

こそばゆい気持ちに包まれながら、クィアシーナが戸惑っていると、五人が一斉に頭を下げた。


「改めて本当にごめんなさい。二度と脅したりなんかしないって誓うわ」


その様子に、慌ててクィアシーナは「頭を上げて」と告げる。


「ううん、もういいよ。もしまた私の行動で気に障るようなことがあったら、直接言ってね」

「うん。もし殿下にベタベタしてたりしたら、直接抗議に行くよ」

「はは、了解」


こうして、この件は穏便に解決した――はずだった。

しかし、このあと彼女たちはファンクラブの会合で、昼休みにクィアシーナとダンテが抱擁していたという衝撃の事実を知ることになる。


翌朝、早速五人全員がファンクラブを代表してクィアシーナに抗議に行くことになるのは、このときはまだ誰も知らなかった。


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