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13. そして事件は起きる

「きゃあッ!!!」

「なに!?」


突然、クィアシーナたちが座っていた席のガラス窓が粉々に砕け散り、カフェテリアは一瞬で騒然となった。


「二人とも、大丈夫!?怪我してない!?」

「う、うん……」

「私も大丈夫。でも……見て、もしあのまま座ってたら、多分大けがしてた……」


マリアが指さした先には、先ほどまで自分たちが座っていたテーブルがあった。

大小さまざまなガラス片が散乱し、床にも細かく飛び散っている。


(危なかった……)


クィアシーナが身震いしていると、騒ぎを聞きつけたカフェテリアのスタッフが、慌ただしく駆けつけてきた。


「君たち、大丈夫か!?」

「はい、ちょうど席を立ったところだったので、何ともありません」

「それなら良かった。ここは危ないから、少し下がって」


スタッフたちは周囲にいた生徒を素早く退避させ、手際よく割れた破片を集めていく。

クィアシーナが割れた窓に視線を戻すと、テーブル側の一枚だけが、まるで最初から存在しなかったかのようにきれいに消えていた。


現場の周りには、一定の距離を保ちながら、ざわめきつつも様子をうかがう人だかりができている。


「……な、なんか、急に割れたよね」

「う、うん……まったく予兆なく割れた気がする。怖かった……。クィアシーナ、なんでわかったの? ボールか何かが飛んできたのが見えたの?」

「ううん。上手く言えないんだけど……なんか嫌な予感がして……。驚かせてごめん」

「なんで謝るの! クィアシーナが立ってって言ってくれなかったら、私たち今ごろ顔や体中にガラスが突き刺さってたよ。ほんと間一髪だった」


ララの言う通り、本当に間一髪だった。

あとほんの少しでも席を立つのが遅れていたら、今ごろ三人とも病院送りになっていたに違いない。


久しぶりに肌で感じた危険――心臓が跳ねるような緊張と、目の前で飛び散るガラスの光景。

その中で、自分の勘が的中したことに、クィアシーナは思わず安堵の息を吐いた。


「でも、なんで突然割れたのかしら。物がぶつかったわけでもないのに」

「ここは二階だし、足場もないから、外から割ろうと思ったら、物を投げるしかないもんね」

「ほんと、何がなんだか……」


周囲のざわめきが収まらない中、クィアシーナたち三人も教室へ戻るべきか判断できず、その場にとどまっていると、「クィアシーナ!」と声が飛んできた。


「ダンテ会長、リンスティーさん!」


騒ぎを聞きつけたのか、二人が第二カフェテリアへやってきた。彼らの登場に、また別の意味でざわめきが広がる。


「いまこの場にいる人は、申し訳ないけれどここに残っていてください。これから学校職員が聴き取りを行います。現場の近くにいた人、割れた瞬間を見た人は、こちらに来てください」


どうやら、この一帯は一時的に封鎖されることになったようだ。

ダンテは職員と連携しながら、生徒たちを落ち着かせつつ誘導していく。


その最中、リンスティーが心配そうな表情でクィアシーナのもとへ駆け寄った。


「やっぱり現場にいたのね。大丈夫? 怪我はない?」


リンスティーはクィアシーナの顔や手足を注意深く見て、傷がないか確認した。


「見たところ、何ともなさそうね」

「はい、咄嗟に席を立ったので、みんな無事でした」

「無事で本当に良かったわ。やだ、窓が一枚きれいに無くなってるじゃない。涼しいけれど、これじゃ虫が入ってきちゃうわね……」

「はは、確かにそうですね」


リンスティーの言葉に、クィアシーナは思わず小さく笑った。


彼女は前の学校での経験から、こうした事態には慣れていたが、実際に身の危険があったとなれば緊張せずにはいられなかった。だが、リンスティーの軽い口調に、ようやく肩の力が抜けた。


「クィアシーナ、突然窓が割れたって聞いたけど、何かが窓に飛んできたの?」


誘導を終えたダンテがクィアシーナの元までやってきて事情を尋ねた。その真剣な表情は、いつもの柔らかな微笑みとはまるで違い、彼女は思わず息を呑んだ。


「いえ、何の前触れもなく、突然割れました。外から中へ破片が飛んできたので、外側から衝撃があったのは間違いないんですが……」


スタッフが片付けた破片の中にも、ガラスを叩き割れるような目立った物は、回収されていないように見えた。


「じゃあ、誰かの魔法か。下からじゃなく、向かいの校舎から狙ったのか……」

「魔法ですか? でも、こんな人の多いところを狙うってことは……」

「故意だね。しかもクィアシーナを狙ったのは間違いない。しかし、やることがいきなり派手だね……」


クィアシーナの予想通り、窓は偶然割れたのではなく、彼女を狙ってのものだったようだ。

今朝のカバンの土程度なら許せたが、今回は周りの生徒にも被害があった可能性がある。いくらなんでも、やり過ぎではないだろうか。


「……ほんと、馬鹿みたいに食いついてきたな。私は面白くて仕方がないよ。期待に応えて、連中をもう少し煽ってやることにしようか?」


ダンテがそっとクィアシーナの耳元に顔を寄せ、小さく囁く――その言葉を問い返す間もなく、彼の腕がふいにクィアシーナの身体を強く抱き寄せた。


突然の行動に、周囲の生徒たちからどよめきが広がる。

ざわり、と空気が揺れる。

クィアシーナの心臓も、それに呼応するように早鐘を打った。


「君が無事で良かった!」


周りに聞こえるよう少し大き目の声でダンテが叫ぶ。ちょっと芝居がかっている気もするが、抱き締めてる行為のほうが衝撃なので、誰も気に留めないだろう。


ダンテがわざと見せつけるようにしていることは、クィアシーナには百も承知だ。しかし、家族以外の異性に抱き締められた経験など皆無であり、しかもただの異性ではなく、美貌の王子からの抱擁。照れや緊張がないわけがない。


「ご、ごごご、ご心配をありがとうございます、ダンテ会長」


クィアシーナはやんわりと身体を離し、何事もなかったかのように周囲へ視線を流した。周りの者は、突然の親密な仕草に目を丸くしている生徒がほとんどだ。近くにいるララとマリアは、顎が外れそうな勢いでこちらを見ていた。


そして、その中に――明らかにクィアシーナを射抜くような、殺気めいた視線を送ってくる者もいた。

彼女の背筋に、ひやりとしたものが走る。


(これ、絶対に余計な敵を生んでる気がする……)


「ダンテ、やり過ぎよ」

「そうかな?」


リンスティーも呆れた様子で咎めるが、ダンテは彼女の言葉にどこ吹く風だ。


そうしているうちに、学校職員による聞き取りが始まり、現場に最も近かったクィアシーナたち三人も、見たままを説明した。

いつ割れたのか、不審なものはなかったかを尋ねられ、続けて怪我があればすぐ医務室へ行くよう告げられ、ようやく解放された。



昼休みは少し過ぎてしまっていたが、事情が事情なため、午後の授業は遅刻扱いにはならなかった。


すでに進められていた授業に、クィアシーナが慌てて教科書を机に出そうとしたとき……折りたたまれた一枚の紙が表紙に貼られていることに気付いた。


(なんだコレ……)と思いながら、紙を広げる。


――『いますぐ生徒会をヤメロ』


印刷物を継ぎ接ぎして書かれた文字は、どことなく不気味だ。

しかし、クィアシーナは至って冷静である。


(次から次へと、ほんとにしょうもない……。こういう証拠を残したら、バレるってわかんないのかな)


授業に意識を向けながら、今回は久々に平和な方法で乗り切ろう、とクィアシーナは心に決めた。


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