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書く習慣  作者: たぬぐん
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お題「8月、君に会いたい」

今年も8月がやってきた。

また君に会えるのが、心から嬉しい。


小学生の頃、君が住む田舎まで行く事がどれだけ楽しみだったか、君にわかるだろうか。


毎年終業式が終わった日の夕方には、家に着くなり絵の具セットやアサガオを放り投げ、今年はいつ君に会えるのかと母に尋ねたものだ。

初めの方は母も微笑ましく教えてくれたが、私があまりにも同じ質問をするものだから、何度「いい加減にして!」と叱られたかわからない。それでも私は君の所へ向かう前の日まで同じ質問を繰り返した。


今思えば、母には申し訳ない事をしたと思う。

それだけ君と過ごす一分一秒が、私には何物にも代えがたい大切な時間だったんだ。


昨日の夕飯は思い出せないけれど、君と過ごした時間は、長い時が経った今でも、僕の心に深く刻まれているよ。

また、君と流しそうめんが食べたいなあ。池でザリガニを釣るのも楽しかった。君がザリガニを分解して食べ始めた時はどうしようかと思ったよ。ザリガニはちゃんと泥抜きをしないと食べられたものじゃないからね。


一緒に遊んだポチはまだ元気にしているのかな。

よく干し柿をくれた、隣のおばあちゃんは息災だろうか。

すまないね。君が遠くに行ってしまってから、私は一度も田舎に行けていないんだ。

私にとって価値があったのは、田舎で過ごす時間ではなく、君と過ごす時間だったんだからね。


あの時はすまなかったね。

君と離れるのが本当に悲しくて、涙が止まらなかったんだ。

泣き尽くせば、涙も枯れるのかと思ったけれど、そんな事は無かった。だって私は今でも、君との淡い夏の思い出を想起する度に、涙がいくらでも溢れてくるんだから。


時が経てばそのうち悲しみも朽ち果てる、と考えた事もあったけど、やっぱり駄目だね。

他ならない私が、君との思い出を忘れたくないと思っているのだと、最近になって気づいたよ。

君との思い出が、今の私を形作っているんだ。


そう気づいた後は早かった。

今まで避けていた田舎に唐突に行きたくて仕方がなくなってしまったんだ。

両親も驚いていたよ。急に私が君に会いに行くと宣言したものだから。


随分待たせてすまなかったね。

今年の8月は、君に会いに行くよ。

君の好きだった赤い菊と、スイカを持ってね。頼むから、スイカはカブトムシの餌になる前に食べてくれよ。全くなんだってあんな山奥に墓を建てるんだか。


ようやく私にも、夏の終わりがやってきそうだよ。

ああ、でも、やっぱり嫌だね。別れの時間は。

毎年訪れる君との別れの時ほど辛い時間は、他に無かったよ。


多分今年は大丈夫だと思うから、今年こそ君に会いに行くよ。だから楽しみに待っていて。


果たして君は、久しぶりに会った私を、私だと気づいてくれるだろうか。

君と違って、私は少し背が伸びて、雰囲気も随分と変わったからね。でもきっと君は、あの頃と変わらない笑顔で私を出迎えてくれるのだと、私は確信している。


沢山話したい事があるんだ。

皆が寝静まった後、こっそり夜更かしをして語り合ったあの頃のように、また沢山お話をしよう。


数年ぶりに君に会える8月がやってきそうだ。

ああ、早く君に、会いたいなぁ


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