最後の帰り道
初の投稿でございます。
まだまだ未熟ですがよろしくお願いします。
寒い風がふきつけるコンクリートの冷たい道を
高校生の男女が肩を並べて歩いていた。
その後ろ姿はどことなく寂しげだった。
如月アキと永篠蓮の2人は、高校1年生から交際を始めた。
最初のうちは同じクラスで、隣の席になったときに
雑談を交わす程度の仲だったのだが、
雑談からの進展でだんだんと仲が良くなり、付き合い始めたわけである。
特に大したデートをするわけでもなく、
毎日学校の帰り道をただ2人で歩くだけで、
初めのうちこそ会話がなかったのだが、徐々に慣れていって、
いろいろな会話が交わされた。
喧嘩をするわけでもなく、手を繋ぐわけでもなく、
キスをするわけでもない、平凡な毎日を過ごしているうちに1年の月日が経った。
しかし、この毎日は続くわけにもいかなくなった。
蓮が転校してしまうのだ。
遠い、遠い、知らない町へ。
理由は、親の仕事の転勤というありがちなものである。
そして、今日でこの帰り道を2人で歩くのも最後なのだ。
「....キ?アキ...?」
「えっあっ...ごめん!!なっ何...?」
「今日寒いからさ、そこのベンチであったかいもん飲もう」
「あ、うん」
今までにも、この人気の少ない公園のベンチに
2人で座って、暖をとることも何度かあった。
「俺、販売機で飲み物買ってくるから待ってて」
....こうするのも、もう最後なんだね。
寒そうに縮める大きな背中を目で追いながら、
アキは心の中で呟いた。
蓮が飲み物を買ってくれるときは、必ずココアを買ってくれる。
夏には、冷たいココアを微笑みながら手渡す。
なぜ、そこまでココアが好きなのか
自分でもよく分からない。
ただ、初めてこのベンチに座った時に、
蓮がココアをくれたときから、このベンチに座った時は
決まってココアを飲んでいた。
それにつられた様に、最初は何も飲んでいなかった蓮も
一緒にココアを飲むようになった。
最後の日も、やっぱり2人はココアを飲んでいた。
葉のすっかり落ちた寂しい一本の木をぼんやり眺めていると
野良猫の首を撫でていた蓮がふいにたずねた。
「なんで猫ってひげがあんのかなぁ」
いきなりこういう素朴な疑問をするのが蓮のクセである。
「んんーバランスをとるためじゃないかな」
「おおっアキすげぇ!」
「そぉ?あ、そういや昔の猫って細い綱の上でも平気で走れるらしいよ」
「えっそうなの!?」
「今の猫はどうかわかんないけどね」
「へぇ~!アキって物知りなんだなぁ」
「いやいやぁ、この前たまたまTVで見ただけなの」
こういう、たわいもない雑談をするのも今日でおしまい。
「この前、友達で5年前のマヨネーズ食って、腹壊した奴がいてさぁ~」
「ていうか、マヨネーズって何で味ないのに、いろんなものと合うんだろう?」
すっかり、ココアも飲み干したけど、
色んな話をして、いっぱい笑って、空も夕焼けで赤く染まっていった。
...もう、本当にこれでおしまいなんだろうか。
「そろそろ帰....っアキ?えっ!なんで泣いてんの!?」
「....え?」
気付いたら涙がこぼれていた。
もう、一緒に話せないって思うと、
気持ちがいっぱいいっぱいになっていた。
「お、俺なんかした!?ゴメン!!」
「っ...違うのっ...そうじゃないのっ....」
さっきまで笑っていたアキが急に子供のように泣き出したので、
蓮は戸惑いの表情を見せた。
「....ど、どうしたの?」
「.....だ」
「え?」
「...やだ..蓮、転校なんてしないで...」
「アキ...?」
「これで最後なんてやだよ.....
もっと、蓮といろんなことしたかった......」
「.......アキ...」
蓮はしばらくの間泣いているアキを
困ったように見ていたが、
アキの細い肩に手を回すと、
ぎゅっと抱きしめた。
「...ごめん。アキ..今まで何もしてあげられなくて。
俺、ホントにダメだ。アキのこと可愛いなぁって
思うだけで、手繋ぐこともこうやって抱きしめることも、
キスすることもできなかった....」
アキは、静かに首を振った。
「...いいの。あたしだって、今まで
一緒に隣にいるだけで幸せだったもん。あたしこそごめん。
何もいってあげられなくて。」
2人はそうして静かに抱き合っていた。
「....アキ。最後にキス...してもいい?」
「....うん」
2人はゆっくりと唇を近づけて、
長い、長いキスをした。
夕日で染まった公園には、
置き去りにされた2つのココアの缶が
どこか寂しげに影をつくっていた。
読んでくださってありがとうございました。