第97話 魔物退治
ついに迫った、祭り前々日。
私は、領内でも特に辺鄙な場所に来ていた。
目的はもちろん、例の魔物狩りだ。
「どうだ、オリーブ。反応あるか?」
「いえ。まだですね。……というか、わたくし以外に護衛がいなくて本当に大丈夫なんですか?」
「当たり前だ。お前以上の護衛がどこにいる」
「そういうことではなくてですね……」
というか、オリーブと私がいて危険な状況に陥るような相手がいてたまるか。
まあ、居たら居たで、どちらにせよ、領内に危険が及ぶと判断して徹底的に殺しに行くが。
「……ん」
「どうかなさいましたか?」
「一瞬、魔力が揺らいだ」
「近くですか?」
「いや、そこそこあると思う」
正確な距離はわからないが、確かに感じた。
私から立ち上る魔力を見て、オリーブの方も警戒度を上げたようだ。
…………。
「馬鹿者。なぜ、お前まで臨戦態勢になっている」
「え? あ、そうでしたね……!」
まったく、有能なのか抜けているのか……。
「じゃあ、行きますよ?」
「ああ、頼む」
私の言葉を合図に、オリーブが手に持っていた袋に剣を突き立てた。
直後、周囲に充満する生臭いにおい。
……さて、鬼が出るか蛇が出るか。
「……! エリヌス様!!」
「来たか?」
オリーブが頷く。
確かに、強い魔力が動く気配を感じる。
場所は──
「オリーブ。──迎撃」
「かしこまりました」
激しい衝突音が、私の斜め上で響く。
飛行型の魔物か。
見た目からして……グリフォンといったところか。
…………。
「何故だ?」
グリフォンは、本来、縄張り意識の強い魔物のはずだ。
それが、なぜ、人間に見つかる場所でうろついているんだ……?
「……まあ、いいか。オリーブ。足止めご苦労。あとは──私がやる」
攻撃をさばき続けていた手を止め、オリーブは軽い動きでこちらに戻ってきた。
「なかなかの強さです。くれぐれもお気をつけて」
「ああ、わかっている。心配せずとも、すぐに終わらせる」
先ほどから垂れ流し続けている魔力。
その量を一気に増幅させ、グリフォンの注意を引く。
「お前も安心しろ。一瞬で終わらせてやる」
笑みを浮かべ、グリフォンに言い聞かせる。
そして──
──ヴォン!!
空気が大きく揺れると同時に、私とグリフォンとを囲む半球状の結界が展開される。
ま、結界とはいっても、効果の付与も何もない、簡素極まりないものだがな。
それでも、目的には十分だ。
「『地獄の門を開く時。深淵を除かば、汝、災禍の業をその身に宿さん。燃えろ。潰れろ。壊れろ』」
「グルルァアアアア!!」
「『暗黒太陽』!!」
グリフォンが飛び掛かると同時に、暗黒太陽を発動する。
これでお終──
「……あれ?」
魔法が、発動していない?
まずい!!
「『ベント』!!」
咄嗟に風魔法を発動し、グリフォンの攻撃をそらした。
……だが。
「エリヌス様!!」
「大丈夫。掠り傷だ」
胸に薄く四本の赤い筋が走る。
爪の先が当たっただけで、この威力か。
つくづく恐ろしいものだな、魔物というのは。
「グルルルル」
ノシノシと無駄に大きな体を揺らし、グリフォンが近づいてくる。
勝てると思って、近づいてきたのか?
この、私に?
「フッ。フハハハハハ!!」
やはり、獣はどこまで行っても獣だ。
「悪いな、グリフォン。終わりだ」
パチン、と一つ指を鳴らす。
そして、その直後、グリフォンの体から黒い炎が上がった。
予想通り、先ほど発動した魔法は、何故か結界術の方に組み込まれていた。
ならば、結界術の方を動かせばいいだけの話だ。
「もう一発」
手をぱっと開き、空中を握る。
黒い炎はより深い色へ変わり、それに反比例して炎は段々と小さくなっていく。
「とりあえずは、これで十分だな」
結界を解除すると同時に、重たい音を立ててグリフォンの体は地面に落ちていった。
「エリヌス様!! ご無事ですか!?」
「ああ。あとで回復魔法で治しておく。それよりも、帰ったらこれと同じ服を調達してくれ。お気に入りなんだ」
「か、かしこまりました……」
戦闘直後に暢気なことをいう私に呆れた様子で、オリーブは返事した。




