表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/132

第9話 推しが尊い

 ……正直なところ、ほんの少しだけ察していた。

 というか、ほぼ確信に近かった。

 見覚えのある顔、僕っ娘、華奢な体つき、私との年齢差。


 ──この子は、後の勇者であり、私の、エリヌス様のライバル、ダフネ様だ。


 一瞬で『そうだ』と言い切れなかったのは、彼女の顔にまだ幼さが残っているせいだろう。

 あと、想像よりも背が小さかった。

 とはいえ、オタクである私が推しを見抜けなかったとは、一生の不覚だ……。


「……失礼しました、ダフネ殿。初対面という事で、許してもらえませんか?」

「あ、ああ……。許してやるが……」


 ん? なんか、若干私に引いてね?


「え、エリヌス様、どうなさったのですか……?」

「何がだ?」

「い、いえ。一庶民相手に、そんな丁寧な言葉など……」


 ……ああ、そういうことか。

 ダフネ様は、まだ勇者でもなんでもない、ただの一般人なんだ。

 そんな相手に敬語を使うなど、貴族においても、カーディナリス家においても、初めての事例だろう。

 だが、たとえまだ一般人だとしても、推しは推し!!

 丁重に扱わざるを得ないに決まっている!!


「……子供相手なんだ。いいじゃないか、このくらい」

「え、エリヌス様が、今までに見たことないくらい優しい顔をしてらっしゃる……」


 ……そんなに普段しかめっ面してるか?


「ところで、ダフネ殿。ダフネ殿は、どういった経緯でオリーブと会ったのですか?」

「……剣を教えてもらおうと、騎士団の訓練場に忍び込んでいたら、こいつに捕まった」


 想像以上に大胆な行動をとってた。

 これ、下手に見つかれば、死罪になってた可能性もあるぞ……?

 まあ、もしそんなことになれば、私が全力で阻止するが。


「それは災難でしたね。……でしたら、明日にでも、私から騎士団に頼んで、稽古をつけてもらうようにしましょうか?」

「えっ、本当か!?」

「ええ。もちろん、オリーブもな」

「あ、ありがとうございます!!」


 推しに直接貢げるとは、なんたる至福。

 しかも、明日、実際に彼女の剣技を観れるとは!!

 最高すぎないか!?


「……ん? ちょっと待って。エリヌス……さんは、騎士団にコネでもあるのか?」

「いえ、騎士団には、無いですよ」


 そう言うと、ダフネ様の顔に失望の色が浮かんだ。


「そうか……。なら、期待するだけ損だな」

「……? どういう意味ですか?」

「騎士団の連中は、頭が固いんだ。いくら貴族ったって、そう簡単に話を聞いてくれない」


 ……?

 ……ああ、そういことか。


「ダフネ殿。失礼ですが、エリヌス様の事をご存じないのですか?」

「ああ。だが、僕のような一般人にその態度をとるという事は、そんなにお偉い家ってわけでもないのだろう?」

「……ダフネ殿。まだお気づきになっていないのですか?」

「ん?」


「エリヌス様は、かの有名なカーディナリス家の長男ですよ?」


「……え?」


 ダフネ様の顔から、血の気がサーッと引いて行った。

 ……やっぱり、名前と家が結びついていなかったのか。

 まあ、普段の私は、ここまで物腰柔らかくないしな。

 ……というか、エリヌス様のキャラを壊してしまってないか!?

 い、今からでも立て直すべきか?

 でも、そうすると、ダフネ様に敬語が使えない……。


「……ま、まあ、そういう訳だ。騎士団への話は任せてほしい」

「え、えっ、え……。あ、あ、あの、もう遅いかもですが、ぶ、無礼な態度を取ってしまい……」

「気にしなくていい。別にその程度で罰を与えるような狭量な人間でもない」

「あ、ありがとうございます……!!」


 ……ああ、推しが尊い。

 可愛らしく頭を下げるダフネ様を見て、私は心の中で悶絶していた。

 もちろん、表情には決して出さないが。


「オリーブ。パーティーの間、彼女のことを任せてもいいか?」

「はい。もちろん」

「ダフネ殿も、オリーブの傍を離れないでくださいますか?」

「は、はい……!!」


 声が裏返ってる、可愛い!!


「さて、それじゃあ、そろそろパーティーの方に戻ろう。オリーブも、さっきの様子だと、まともな人脈を作れてないのだろう?」

「は、はい。恥ずかしながら……」

「では、私の後をついて来い。いくらでもチャンスを与えてやる」


 ……さて。

 ここからは、気持ちを切り替えないとだな。

 ずっと笑顔だった表情を、普段よりも厳しいものに変える。

 ……推しの前だ、カッコイイ姿を見せねば。

 というか、私自身も、推しそのものなのだ。

 推しのイメージを汚すわけにはいかない。


「……騎士団長。防衛大臣。衛兵長。護衛隊副隊長。この四人の姿は、既に確認してある」

「そ、そんなすごい方々が……」

「オリーブ。これをチャンスにするか、フイにするかはお前にかかっているからな? 気を引き締めろ」

「!! はい!!」

「ダフネ殿も、この機会に一緒に騎士団長と話してみますか?」

「え、よいのですか!?」

「当然。ですが、くれぐれも無礼のないように」

「は、はい」


 ……二人とも、問題なさそうだな。

 それじゃ、面倒な会食に戻るとするか。

 死亡フラグ回避のためのツテと、二人のコネ。

 ミッションは少し増えたが、どちらも完璧にこなしてみせよう!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ