第62話 オリーブの剣
その場で全員の治療を済ませた後、私たちは屋敷へと戻った。
道中、私を除いた五人は、あそこが良かった悪かったと、反省会を続けていた。
そんな中で、私自身は、少しの引っ掛かりを覚えていた。
もちろん、その引っ掛かりの正体には気付いている。
だが、その正体に触れてもいいのか、それが問題だ。
そんな事を考えているうちに、とうとう私たちは屋敷に着いてしまった。
◆
屋敷に着いた後、私たちはそれぞれの部屋へ戻っていった。
ダフネ様たちの方は、武器の手入れなどもあるそうだ。
オリーブ自身もそうしようとしていたが、私が無理やり引き留め、部屋へと連れて行った。
「……どうかなさいましたか?」
部屋の扉が閉まると同時に、オリーブがそう問いかけてきた。
「一つ……あー、いや、少し聞きたいことがある」
「なんですか?」
「お前のその剣、どこで手に入れた?」
そう聞くと、オリーブの表情が僅かに固まった。
額から出た汗が、頬を伝って行っている。
「答えたくないのなら、答えなくてもいい。だが、少し気になったのでな」
「……流石は黒魔術の名手、エリヌス様ですね」
……ここで黒魔術を持ち出してくる、という事は、それなりに重大な事だな。
「この剣は、元々わたくしの物ではございません」
「……どういうことだ?」
「……わたくしの、かつての冒険者仲間が使っていたものなんです」
ああ、そういうことか、と心の中で納得をしてしまう。
「恐らく、剣を見て気付いたんですよね? この剣に籠っている魔力に」
「ああ」
剣に籠っている魔力は、私に言わせてみれば、明らかに異質な存在だった。
恨みや後悔ではない、でも、暗く、深い感情を感じる。
「エリヌス様。頼みがあります」
「なんだ?」
「この剣にこもっている魔力を、調べていただけませんか?」
こちらから頼もうと思っていたことを、オリーブの方から頼まれてしまった。
「ああ、分かった。なら、少しだけ剣を貸してもらえるか?」
「はい」
オリーブが鞘から剣を抜くと、その瞬間、剣の魔力が部屋全体を漂った。
……やはり異質だ。
そう思いながら。剣を手に取り、刃の腹を指でなぞる。
「……剣自体は、普通の代物だな」
「はい。武器屋で買っただけなので、業物などではありません」
「……となると、魔力の正体はこの剣の前の持ち主か」
「……はい」
……肯定した、という事は、オリーブは多少、この魔力について知っているな。
「少しだけ、魔力を流し込んでみてもいいか?」
「はい」
剣を握り、少しづつ魔力を流す。
慎重に、慎重に、内部を探るために。
そして、剣は私の思った通りの反応を示した。
「紋様が現れた、という事は、魔力が籠っているだけじゃないな。魔法が刻まれている」
「やはり、そうなんですね」
……言うべきか。
少しだけ迷ったが、私は言葉を続けた。
「この紋様は、黒魔術を表わしている。粗削りなものだが、確実にそうだ」
「……そう、ですか……」
「オリーブ。この剣の持ち主は、何者だ?」
この紋様は、どの黒魔術にも該当しない。
だが、紋様自体に現れている幾つかのパターンが、これが黒魔術であることを意味している。
「……彼女は、魔法と剣、両方を扱える方でした。所謂、魔法剣士。その中でも、特に才能に満ち溢れた方でした」
「だろうな。この域まで達するには、相当な努力が必要だ」
「彼女自身、常に鍛錬と研究に勤しんでいましたから」
恐らく、ゼロから新しい魔法を開発できるタイプの人材。
……本当に天才だったのだろう。
「……うん、紋様の解析は終わった」
「流石ですね」
「そして、前の持ち主の事も、少し分かった」
その言葉に、オリーブがほんの少しだけ反応した。
嬉しそうな、寂しそうな、なんとも言えない表情だ。
「この魔法は、使用者を呪う魔法だ。恐らく、持ち主が死の間際に刻んだのだろう?」
「……はい」




