第40話 推し御一行
「エリヌス」
「……んー……?」
「エ、リ、ヌ、ス!」
何度も呼びかけられ、私はようやく目を開ける。
…………。
「おはよっ、エリヌス」
「なっ、え、だ、ダフネさ……ダフネ殿!?」
思考停止どころか大爆発しそうな衝撃が全身を走り、一気に目が覚める。
ダフネ様が、私に添い寝してる……!?
へ!??!?!?!?!?!?!?!??
「オリーブに頼まれて起こしに来たぞ。随分ぐっすりと寝ていたな」
オリーブの奴……!!
グッジョブ!!
「え、ええ。昨日まで、仕事が忙しかったので」
「そうだったのか? なら、無理せずにまだ休んでていいぞ?」
「いえ、大丈夫です。十分、休まりました」
それに、寝起き早々、推しのご尊顔を拝めたからな。
疲れやらストレスやら、何もかもが吹き飛んでしまった。
「ダフネ様の方は、ご家族とのお話は終わったのですか?」
「ああ。妹と弟がとても喜んでくれた。やはり、あのくらいの年代は、冒険譚が好きなようだな。僕もそうだった。その代わり、母が随分心配してた……。相変わらず、母は心配性で困る」
そう話すダフネ様の表情は、なんとも言えない幸福感に包まれていた。
「ある程度話も終わったし、もうそろそろ夕食の準備が必要だというのでな。それで、母たちは帰っていった」
「そうですか。お見送りできなかったのが申し訳ないですね……。というか、我が家で食べていただいても構わなかったのですがね」
「オリーブもそう言っていたが、明日もご馳走になるのに、今日までは……、と言っていたぞ」
そんなに謙遜しなくても、私たちはいつでもウェルカムなんだがな。
まあ、相手が断っているのに、無理言って食べさせる道理もない。
「分かりました。それでは、下に行きましょうか。そろそろ夕食も準備できるでしょう」
「そうだな!! ……いや、待ってくれ。外に行きたい」
「? どうかなさいました?」
「仲間たちが、追いついたようだ」
◆
私とダフネ様でそれぞれ門の柱に寄りかかり、数分ほど待っていた。
その間、他愛もない世間話をしていただけだが、それだけでも楽しかった。
やがて──
「お?」
「ん? ……ああ、来たみたいですね」
遠くの方から蹄の音が聞こえ始めた。
音は段々と大きくなり、やがて、我が家の前で止まった。
「おお、待ってい……!?」
「ダフネー!!」
へ!?
馬車から出てきた足に、ダフネ様が蹴り飛ばされた。
「ヴァクシー!! 出会い頭に蹴ってくるな!!」
「うるさい!! あんたが俺たちを置いてったのが悪いんだろうが!!」
「そうですよ、ダフネ」
「ま、マルバまで……!?」
「まあまあ。皆、落ち着いて……」
「ブーちゃん……!!」
「……やっぱり、一回締め上げましょうか」
「ご、ごめんて!!」
…………。
「……コホン」
軽く咳ばらいをすると、その場の空気が一瞬にして凍り付いた。
「元気なのはいい事ですが、ここは私の家の玄関先です。とりあえず、中に入りませんか?」
「「「「は、はい……」」」」
「御者さん。請求は、後で我が家まで」
そう言って、あらかじめ用意しておいた手形を懐から出し、御者に渡した。
そして、全員を一瞥してから、私を先頭に屋敷へと入っていった。
◆
「エリヌス様」
「ああ。これで、全員集合だ。ようこそ、我が家へ」
そう言ってダフネ様一行の方へ向き直ると、ダフネ様以外の全員が私の方へ土下座をしていた。
「さ、先程は、ご無礼を働いてしまい、申し訳ございません……」
この人は……ああ、賢者の人か。
女賢者・マルバ。
類稀なる聖魔法の才能を持ち、成人とまで言われる。
懐のかなり広く、基本、どんなことがあっても怒らない。
その代わり、怒るとかなり怖い。
あと、胸がデカい。
そのおかげで、あっちではかなりの人気を誇っていた。
恥ずかしい服を着させて、怒っているかどうか微妙な表情を描く。
その絵が、また絶妙に可愛いのだ。
「構いませんよ、あの程度。今は、全員が無事に到着したことに感謝しましょう」
「そうだぞ、みんな」
「「「ダフネは黙ってろ!!」」」
仲が良いんだか、悪いんだか……
「さ、もうそろそろ、夕食の準備もできます。一回、食堂へ向かいましょうか」
「「「「はい!!」」」」
オリーブに目配せをして確認する。
どうやら、もうできているようだ。
さてさて……。
主人公(推し)御一行の話をたっぷりと聞かせていただきましょうかね!!




