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第32話 仮説と検証と召喚と

「よし!!」


 分厚い本を音を立てて閉じ、大きく息を吐く。

 これで、魔導書完全読破だ!!

 ある程度、悪魔召喚の仕組みと、使役の仕方について理解できた。

 ……そして、事態のヤバさにも気付いてきた。


 まず、セッシリフォリアが悪魔を召喚した件。

 あいつ、マジでヤバいな。

 頭がいかれてる。

 悪魔召喚の条件を見るたびに、そうとしか思えなくなってきた。

 ……そんなに代償を払って、何をやるつもりなんだよ。


 そして、二つ目。

 私が使役した、例の悪魔だ。

 魔導書によると、使役の乗っ取りというのは、不可能ではないらしい。

 不可能ではない、が、それ相応の代償が必要なんだとか。

 それも、召喚の時の比にならないほどの。

 著者も弟子を使って下級悪魔で実験してみたそうだが、上級悪魔を使役する方が楽らしい。

 よって、現実的ではない、と。

 …………。


 私、なんであんなに破格の代償で使役できたんだ?


 勉強すればするほど、余計に分からなくなっていった。

 悪魔が望む代償は、基本的に悪魔の気分や好みによって変化する。

 ……魔力を欲していたのか?

 魔力そのものみたいな存在の悪魔が?


 ……益々訳が分からなくなってきたな。

 まあ、その辺も速攻で解決させるか。


「……つってなぁ……」


 三つ目のヤバい事。

 私とあいつを結ぶ者がない。


 普通、悪魔を使役するときには、代償として捧げるものの中から一つだけ取り出して、それを使役者が身につけるそうだ。

 それが悪魔と人間を繋ぐ架け橋であり、連絡手段のようなものになる。


 だが、私はその過程をすっ飛ばしている。


 つまり、悪魔との連絡が取れないのだ。

 例えるなら、私が今置かれている状況は、事前の話も手紙も携帯電話も無しに、家にいたまま、友達と会う約束をして、遊びに行かなくてはならないという感じだ。

 ……しかも、惑星レベルの単位で。


 無理ゲーだろ、これ。

 いや、流石にさ……。

 ……でも、だ。


「試してみるだけでも、価値はある」


 様々な本で勉強し、私は一つの仮説を打ち出していた。

 正しいかどうかは、やってみれば分かること……!!




「『来い、悪魔』!!」




 牢屋の壁に背をつけたまま、何もない空間に手を向け、大声で叫ぶ。

 そして、しばらく続く沈黙。


 ……失敗、か?


「ううん、大成功だよ。流石、エリヌス伯爵だね」


 背後から、突然抱き着かれた。

 …………。


「仮説の検証ができたなら、それで十分だ。とりあえず、礼を言う」


 私の立てた仮説は、こうだ。

 私はこの悪魔を使役した時、魔力を渡した。


 ならば、魔力を媒体に呼び出せるのではないか?


 こんな使役方法をするのは後にも先にも私だけだろうから、再現性はない。

 だが、成功は成功だ。


「……なんか冷たいはんのー。つまんない」

「知ったことか。それより、せっかく呼び出せたんだ。命令を聞いてくれ」

「えー、やだ」

「やだって……」

「命令、じゃなくて、お願い、ならいいよ?」

「……ハァ。分かった。なら、私の()願いを聞いてくれ」

「ワーイ!! 張り切って聞いちゃいまーす!!」


 正面に回り、両手を上げて悪魔は喜んだ。

 なんなんだ、こいつは。


「お前、これ(・・)壊せるか?」


 そう言って、私は指輪を叩いた。


「……悪魔が入ってるね。中級かな?」

「らしい」

「ふーん。無理」

「無理だと? 命令を……」

「だから、命令は聞かないってば。お、ね、が、い!! でしょ?」

「……お願いは聞いてくれないのか?」

「うん。無理。そもそも、悪魔が入ってるものって、なかなか壊せないんだよ? 今だって、その悪魔が出てこようとするのを抑えるのに必死だし」


 ……そうか。

 まあ、名前が重要な悪魔なのに、無名な時点で、何となく察してはいた、が……。

 ……ん?


「お前、抑えてるって……?」

「うん。伯爵殿が、その悪魔の主人に逆らう発言をしたからね」

「……ああ、そういうことか。……ん? なんだ?」


 なぜか、私の方を見つめてくる。

 しかも、無駄にキラキラした瞳で。


「ねえ、褒めて? エリヌス伯爵が殺されないように、ちゃんと働いてるよ?」

「……ハァ。分かった。褒めてやる。で? 何か対処法とかはないのか?」

「うーん、今はないかな。だって、私から指輪には干渉できないもん」


 ……なるほど。


「なら、指輪以外(・・)には干渉できるんだな?」

「……大正解」


 悪魔は、意味あり気に笑った。

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