第28話 してやられた
……ほんと、笑えるくらい綺麗に引っかかってしまったな。
それだけ、セッシリフォリアがやり手だったってことか……。
獄中で、私は笑いながらそんな事を考えていた。
◆
あの後、様々な衝撃で放心状態だった私に、背後から魔法を撃ちこまれた。
どうやら、セッシリフォリアが側近の一人を室内に隠していたようだ。
……正直、まったく気が付かなかった。
使われたのは、恐らく拘束魔法の一種。
身体の自由を奪われた私は、国王の呼んだ衛兵たちにあっさりと捕まった。
国をう奪おうとした大逆人どもの首謀者として。
今回の件で、セッシリフォリアはさらに領地を与えられ、爵位も『公爵』となるそうだ。
……多分、最初からそれが目的だったのだろう。
まんまとしてやられた、という訳だ。
にしても、どこの筋から情報を仕入れたんだろうな。
父がこの国を乗っ取りたいと考えていただなんて。
もちろん、私は知っていたのだが。
……いや、知っていたというのは少し違うか。
知ってはいたが、知らされてはいなかった。
……前世の知識、というやつだ。
あの時──セッシリフォリアの手紙をもらった後、すぐに思い出した。
なぜ、エリヌス様が伯爵位だったのかを。
それは、父が部下たちを使って、国盗りを行ったせいだった。
それ自体は失敗に終わったのだが、首謀者として責任を問われた父は、尋問官やら有力貴族やらに金を掴ませ、爵位を伯爵位に下げる程度の被害に収めたのだ。
……まあ、そのおかげで、エリヌス様は家を嫌い、より野望の炎を燃え上がらせたのだが。
でも、思い出した時には、時すでに遅し。
父は直接的に国盗りに関与しようとし、あまつさえ、私まで取り込んで、本格的に国を乗っ取ろうとしていた。
恐らく、私が家を出る前には計画は出来上がっていたのだろう。
セッシリフォリアの息がかかった貴族が大勢いるところに身を置かせ、さらに、私自身に黒魔術の研究をさせてから、私という武力を用いて王宮とその周囲を壊滅させる。
そうすれば、簡単に国盗り成功だ。
まあ、二人とも、私がすんなりと承諾するとも思っていなかったようだがな。
実際、その通りだったわけだし。
でも、私が裏切っても事が上手く進むように、セッシリフォリアは画策していた。
父からもらった手紙を証拠に、父が首謀者であるように仕立て上げ、その息子である私も首謀者の一人に祭り上げられてしまった。
不覚だ。
それに、あの悪魔がしたことも奴に上手いこと作用していた。
国王に許可をもらって黒魔術の研究を行っていたこともあり、あの街の惨劇が私の仕業だと勘違いされてしまった。
本当に、あの野郎はよくやりやがる。
悔しいが、それは認めねばなるまい。
だが、私だって、転んでもただで起き上がるような質ではない。
尋問にも、眉一つ動かさずに堪えた。
どれだけ傷つけられようと、虚偽の自白など絶対にしなかった。
おかげで、現在絶賛瀕死状態なのだが。
それでも、私は絶対に認めない。
鞭を撃たれようが、何をされようが、私の野望が──エリヌス様の野望が潰えるような真似は絶対にしない。
待ってろよ、セッシリフォリア。
次は、貴様の番だ。
何年後か、必ず貴様を引きずりおろして──いや、踏み台にしてやる。
待っていろ。
◆
私が捕まってから、どのくらい経っただろうか。
二週間は余裕で越えているだろう。
「エリヌス殿。────────様が面会に来られました」
「……あ?」
尋問官の声が、よく聞こえない。
この頃、飯もまともに食べてないしな。
それに、全身の傷が疼く。
「手錠はそのままに、わたくしの後をついてきてください」
「ん……ああ……」
ついてこいって、言ってたな。
まあ、いいや。
鬼が出るか蛇が出るか。
なんでもいいや。
◆
「やあ。久しいな、エリヌスよ」
「……セッシリフォリア、か……?」
半分しか開いていない右目だけで、目の前にいる人物を察知する。
「まあ、そこに座れ。少し話をしたい。……おい」
「はい」
セッシリフォリアの側近の声が聞こえたかと思うと、何かの魔法をかけられた。
その瞬間、みるみるうちに全身の傷が治り、意識もはっきりとしてきた。
「……回復魔法か。随分と優しいんだな」
「その状態では、まともに話すこともできんしな。……さて、エリヌスよ。私と取引を使用ではないか」
「……取引?」
「ああ。もしお前が言う事を聞くなら、すぐにでもここから出してやる。もちろん、条件付きでだがな」




