第131話(サイド:ダフネ) モヤモヤ
……モヤモヤする。
日中から感じていた心の違和感が、晩ご飯を食べ終わってから一層強まったように感じる。
……胃もたれをしたのだろうか。
まだ若いと思っていたんだけどな。
もしくは、風邪でも引いたのだろうか。
せっかくカンナさんとの手合わせが決まったんだから、万全の状態でやりたいんだけどなぁ。
「……大丈夫なのかな、カンナさん」
エリヌスからは危険な状態だと聞いていたのだが、全然そんな風には見えない。
来た時にあったほんの僅かな嫌な感じも、さっき会った時には無くなっていた。
……大方、エリヌスたちが解決したのだろう。
「…………」
不謹慎かもしれないが、面白くない。
なんだ、エリヌスの奴。
僕を除け者にして。
マルバと一緒だったのは少し安心できるが、それでも僕を呼ぶべきだろ。
……もしかして、僕はエリヌスに信用を──
──コン、コン、コン。
「えっ。あ、はい!! 開いてます!!」
突然響いてきた音に思考を遮られ、慌てて返事をする。
「失礼いたします。えっと、ダフネ様でございますか?」
「はい。え。ええ!? カンナさん!?」
「ふふっ。夕御飯ぶりですわね」
突然の来訪に点になっていた眼が、一瞬にして入口に立っているその人の方へ向いてしまう。
先ほどまでとは違う、寝間着姿。
美しさと凛々しさ、可愛さが完璧な濃度で混ざり合ったような格好。
そして、そんな服に見劣りしないほどの美貌。
女である私でさえ、何度見ても目を奪われてしまう。
「あ。あ、えっと、ど、どうぞお入りください……!!」
「ふふっ。失礼いたします。それと、そんなに畏まらなくて結構ですわよ」
「い、いえ、そんなわけには……」
仮にも相手は貴族。
しかも、父親はエリヌスよりも偉いうえ、私を勇者に推薦してくれた張本人。
……きな臭い人物ではあるが、それでも無礼な態度をとるわけには……!
「大丈夫ですわよ。エリヌスにも、私のことは呼び捨てにするように言っておりますから」
「……そう、ですか」
そういえば、エリヌスの奴、やけに親しげにカンナさんと話していたな。
カンナさんの方も、エリヌスを呼び捨てにしていたし。
……お見合いをした仲らしいし、当然かもしれないが。
「あら。そんなに睨まないでくれるかしら。少し怖いですわよ」
「えっ。す、すみません!! そんなつもりは……」
肩をすくめている様子も可愛らしいが、その表情からは一切の恐怖が見えない。
むしろ、目の奥がらんらんと輝いているようにさえ感じてしまう。
「まあ、お気持ちはわかりますわ。貴女からすれば、私は恋敵でしょうし」
「……へ?」
恋、敵?
「あら、違いますの? てっきり、貴女もエリヌスのことが好きなのかと」
きょとんとした顔で、カンナさんはそんな突拍子もない発言を投下してきた。




