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第128話 ちょっとしたお礼

 作業開始からおよそ二時間が経過した頃。


「ん」


 待ちに待ったある気配を感じ取り、私は期待のこもった単音を吐き出した。


「……お疲れ様、マルバ。もう結界を解いていいよ」

「え? そ、それって……!」


「カンナに刻まれていた魔法は、全部消し終わった」


 その瞬間、マルバは心底嬉しそうな顔をして、その場にへたり込んだ。


「本当にお疲れ様。急に頼んでしまって、すまなかった」


 再びねぎらいの言葉をかけながら、マルバに手を差し出す。


「お役に立てて良かったです。……本当に、良かったです……!!」

「……ありがとうな」


 マルバがいなかったら、今回の作業は困窮を極めていたことだろう。

 本当に運が良かった。


「さ、マルバ。約束通り、好きな本を一つ上げようか。どんな本がいい?」

「えっと、そうですね……。……魔法の種類についてまとめた百科事典のようなもの、というのは、強欲ですかね?」


 百科事典か。


「いや、そんなことはない。いい選択だ」


 そう言って私は、少し大きめに指を鳴らした。


「……これ、ですか?」

「ああ、それだ」


 私のもとへ飛んできたのは、ここにあるほかの本と比べてもかなり小さい部類に入る物。

 まあ、少なくとも百科事典には見えないな。


「その本は、自分の考えている内容に一番近い魔法についての情報だけが書かれる、少し不思議な本だ。自分の思考に合わせて内容が変わってくれるから、かなり便利だぞ」

「そ、そんな本、聞いたことがないですよ……!? 凄すぎませんか!?」


「いやあ、それほどでも」


「え?」

「え?」


 あれ、もしかして気づいていなかったのか?


「背表紙、見てみて」

「え……? ……え!?」


 おお、やっと気づいたか。


「見ての通り、その本の著者は私だ」


 ちょっと前に、ネットサーフィンの要領で魔法を調べられないかと作ってみたのだが、まさかマルバの役に立つとは。

 本そのものに刻んである魔法の構成に、少々苦労したが、その甲斐があったな。


「そ、そそ、そんな貴重もの、もらえませんよ!?」

「気兼ねする必要はない。一度作った以上、ある程度のメソッドはあるからな。いくらでも量産できる」

「……あ、相変わらず、凄すぎるお方ですね……」

「ありがと」


 マルバたちの役に立てるなら、それだけで値千金だ。


「それじゃ、マルバ。もう部屋に戻ってくれて大丈夫だよ、わざわざ手伝わせてしまってすまなかった」

「いえ、気にしないでください! 素敵なプレゼントもいただけて嬉しいですし!!」

「それなら良かった」

「……あ。そういえば、カンナさんはどうするんですか?」

「うーん、まあ、魔法の解除も終わったし、すぐに部屋に送り届けるよ」

「せっかくですから、お手伝いしましょうか?」


「いや、これは私にやらせてくれ」


 そう言って、私はカンナの方へと歩み寄り、起こさないように慎重に抱きかかえた。


「ふぁ……!! えっ、ちょっ、おひ……!?」

「……ふむ。マルバ、私たちは大丈夫だから、部屋に戻っていいよ」

「あっ、その、えっと、はい……!!」

「わざわざありがとうね」

「い、いえ、こちらこそ、貴重(・・)なものをありがとうございました!!」


 ぺこりとマルバはおじきし、そのまま駆け足で図書室から出ていった。

 ……さて。


「……カンナ。いつ起きたんだ?」

「……え、エリヌスに抱きしめられた時、ですわ……」


 私の腕の中で、カンナは顔を真っ赤にして、深紅の鼻血を垂らしていた。

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