表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/132

第106話(サイド:オリーブ) エリヌス様は

 主のいない食卓は、異様な空気に包まれていた。


「き、聞きましたよ、皆さん。魔王軍幹部の件。物凄い活躍だったそうですね!」


 エリヌス様に頼まれた以上は、と思い、この重苦しい空気を切り裂こうとする。


「まあ、な」


 聞いたことのないくらい暗い声で、ダフネ様が言った。

 それに合わせて、他の三人も小さく頷くような動作をした。


「この調子でいけば、すぐに国一番の冒険者になれますよ。恐らく、実力はとっくに届いていますので、あとは知名度が追いつくのを待つだけだと思いますよ」


 これは別に、嘘ではない。

 わたくしの知る限り、ダフネ殿たち以上の実力を持つ現役冒険者はいない。


「知名度、か。……そうだ、忘れていた。僕たち、エリヌスに頼みたいことがあったんだ!」

「おまっ……!! あんな大切なことを忘れてただと!?」

「まったく、何のためにお一人でここまで来たんですか……」

「まあまあ。全員そろっての方が意味はあるだろうし」

「ごめん!! ごめんって!! ごめんなさい!!」


 エリヌス様に、頼みたいこと?

 ……正直、乗り気ではない。

 今のエリヌス様は、ギリギリの状態で動いている。

 これ以上の重責は……。


「……なあ、オリーブ」

「はい? どうしましたか?」


「エリヌスのところに、行ってもいいか?」


 唐突な問いに戸惑いつつ、なんと返すべきかを考える。


「……正直なところ、承諾しかねます。ダフネ殿は重々承知していますでしょうが、今のエリヌス様はあまり調子がよろしくありませんので」

「だからこそだ。……気づかないのか? エリヌスの部屋から、ずっと魔力が漏れ出ている。微量だが、確実だ」


 その言葉に、慌てて魔力探知を始める。

 …………。


「……確かに、本当に微量ですが、感じます。常にエリヌス様と接していたので、気づきませんでした」

「常に魔力が……。となると、魔力制御ができないほどに弱っているのでしょうか。普通の方でしたら何もしなくても制御はできるのですが、エリヌス様ほどの魔力量でしたら、勝手に漏れ出す、というのもあり得ます」


 専門家のマルバが言うのであれば、そうなのだろう。

 それにしても、俺が気づけなかったとは……!!


「……四人は、そこで待っててくれないか?」

「え?」


 ダフネ殿の提案に、思考が凍り付く。


「なにか分からないけど、嫌な予感がする。ヴァクシー。剣を」

「……はいよ」

「ありがと。三人とも、警戒は怠らないように」

「わかりました」

「これだけ広かったら、多少は狙撃……できるのか?」


 目の前でどんどんと準備を進めていく四人に、わたくしは我慢できずに口を挟んだ。


「一体、何をするつもりですか!?」

「……万が一に備えて、だ。……そうだな。オリーブ。良かったら、一緒に来てくれ。そっちの方が、いいと思う」


 言われなくとも、勝手に行くつもりだった。

 ……でも。


「……一つだけ、忠告です。何があろうと、わたくしの主人を傷つけたら──殺します」


 ダフネ殿たちに初めて向ける、本気の殺意。

 それが伝わったのか、ダフネ殿以外は一瞬だけ目を伏せ、そのまま頷いた。


「それじゃあ、決まりだな。行こう、オリーブ」

「……はい」


 エリヌス様の部屋に、何があるというのか。

 少しの不快感と違和感を覚えつつ、ダフネ殿の後をついて歩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ