第99話 飲めや歌えや
台本、ヨシ。
服装、ヨシ。
「あー、あー」
声、ヨシ。
すべて、ヨシ。
……よし、行くか。
◆
「よく集まってくれた、我が領民よ」
目の前の群衆に向かって、声を張る。
「既に聞き及んでいるとは思うが、先日、我が領地出身であるダフネ殿が、魔王軍幹部討伐という快挙を成し遂げた!! 我ら人類の大きな脅威を、取り除いて見せたのだ!! よって、その喜びと功績を讃え──」
一瞬の沈黙、そして。
「──祭りを開催する!!」
その声を合図に、大きな歓声が響いた。
◆
「お疲れ様です、エリヌス様」
裏で待機していたオリーブに、黙って上着を渡す。
正装だというのはわかるが、こういう服は暑苦しくてしょうがない。
「オリーブ、例の服は?」
「準備しております。どうぞこちらへ」
「ああ」
◆
……ヨシ。
「なかなかいいんじゃないか?」
「はい。完璧でございますよ」
今日の私は、一味違う。
なんてったって、今日はお祭りなのだ。
収穫祭の時と同じように、平民の服を身にまとい、皆と同じように楽しまねば!!
「オリーブ。お前も今日は羽を伸ばせ」
「はい。ありがとうございます。エリヌス様も、普段の疲れを思う存分晴らしてくださいね」
「ああ、当然だ!」
◆
「大将!! ぼんじり五本!!」
「あいよ!! って、エリヌス様ですかい!? そんなら、モモも一本おまけしておきましょうか」
「おお、本当か!? ありがとう!!」
「いえいえ。にしても、やりましたね、あのダフネちゃんが」
「だな。本当に素晴らしい。私も鼻が高い」
焼き鳥を頬張りながら、店主とそんなやり取りをする。
こういう日本になじみ深い食べ物を食べていると、なんとなく気持ちが生前に戻って、少しだけ貴族という立場から外れたような気分になれる。
……まあ、日本の頃を思い出してもしょうがないのだが。
「……大将、ごちそうさま。あとは酒でも飲みながら食べさせてもらう」
「はい、毎度ありがとうございやした!!」
少し歩けば、酒の出店も見つかるだろう。
……度数強めのがあればいいのだが。
◆
「あっはっはっはっはっ!! だ、だめだそれは!! おもしろすぎる!!」
「でしょう、エリヌス様!? 俺の渾身のギャグなんすよ!! それなのに、ほかの連中ときたら、なぁ!!」
「てめえのギャグがサムいだけだ、バーカ!!」
「んだとコラ!!」
目の前で取っ組み合いが始まったのを見ながら、私は一人、ずっと笑い転げていた。
本当に面白すぎる!!
──騎士が夜にい『ナイト』困る!!
思い出したら、さらに面白くなってきた!!
あははははは──
──ビシャッ。
「「「「あ」」」」
その場の空気が、一瞬で凍り付いた。
喧嘩のはずみで飛んだグラスが、私の頭に思いきり酒をぶちまけたのだ。
「……おい」
手元のグラスを握り、怒気を孕んだ声で言う。
そして。
「やってくれたな、コノヤロー!!」
「ぎゃはははっ!! エリヌス様が怒った!!」
グラスの酒をぶちまき返し、周囲はとうとう収拾がつかなくなってきた。
もうこうなってしまえば、誰にも止められない。
酒のかけ合い、罵倒のし合い。
そこら中からてんやわんやの大騒ぎが聞こえてくる。
怒声も、笑い声も、モノが倒れる音も。
色んな音が、どたばたと聞こえる。
あーあ、ホント──
──今日がずっと、続けばいいのに。




