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第99話 飲めや歌えや

 台本、ヨシ。

 服装、ヨシ。


「あー、あー」


 声、ヨシ。

 すべて、ヨシ。


 ……よし、行くか。





「よく集まってくれた、我が領民よ」


 目の前の群衆に向かって、声を張る。


「既に聞き及んでいるとは思うが、先日、我が領地出身であるダフネ殿が、魔王軍幹部討伐という快挙を成し遂げた!! 我ら人類の大きな脅威を、取り除いて見せたのだ!! よって、その喜びと功績を讃え──」


 一瞬の沈黙、そして。


「──祭りを開催する!!」


 その声を合図に、大きな歓声が響いた。





「お疲れ様です、エリヌス様」


 裏で待機していたオリーブに、黙って上着を渡す。

 正装だというのはわかるが、こういう服は暑苦しくてしょうがない。


「オリーブ、例の服は?」

「準備しております。どうぞこちらへ」

「ああ」





 ……ヨシ。


「なかなかいいんじゃないか?」

「はい。完璧でございますよ」


 今日の私は、一味違う。

 なんてったって、今日はお祭りなのだ。

 収穫祭の時と同じように、平民の服を身にまとい、皆と同じように楽しまねば!!


「オリーブ。お前も今日は羽を伸ばせ」

「はい。ありがとうございます。エリヌス様も、普段の疲れを思う存分晴らしてくださいね」

「ああ、当然だ!」





「大将!! ぼんじり五本!!」

「あいよ!! って、エリヌス様ですかい!? そんなら、モモも一本おまけしておきましょうか」

「おお、本当か!? ありがとう!!」

「いえいえ。にしても、やりましたね、あのダフネちゃんが」

「だな。本当に素晴らしい。私も鼻が高い」


 焼き鳥を頬張りながら、店主とそんなやり取りをする。

 こういう日本になじみ深い食べ物を食べていると、なんとなく気持ちが生前に戻って、少しだけ貴族という立場から外れたような気分になれる。

 ……まあ、日本の頃を思い出してもしょうがないのだが。


「……大将、ごちそうさま。あとは酒でも飲みながら食べさせてもらう」

「はい、毎度ありがとうございやした!!」


 少し歩けば、酒の出店も見つかるだろう。

 ……度数強めのがあればいいのだが。





「あっはっはっはっはっ!! だ、だめだそれは!! おもしろすぎる!!」

「でしょう、エリヌス様!? 俺の渾身のギャグなんすよ!! それなのに、ほかの連中ときたら、なぁ!!」

「てめえのギャグがサムいだけだ、バーカ!!」

「んだとコラ!!」


 目の前で取っ組み合いが始まったのを見ながら、私は一人、ずっと笑い転げていた。

 本当に面白すぎる!!


 ──騎士が(ナイト)にい『ナイト』困る!!


 思い出したら、さらに面白くなってきた!!

 あははははは──


 ──ビシャッ。


「「「「あ」」」」


 その場の空気が、一瞬で凍り付いた。

 喧嘩のはずみで飛んだグラスが、私の頭に思いきり酒をぶちまけたのだ。


「……おい」


 手元のグラスを握り、怒気を孕んだ声で言う。

 そして。


「やってくれたな、コノヤロー!!」

「ぎゃはははっ!! エリヌス様が怒った!!」


 グラスの酒をぶちまき返し、周囲はとうとう収拾がつかなくなってきた。

 もうこうなってしまえば、誰にも止められない。

 酒のかけ合い、罵倒のし合い。

 そこら中からてんやわんやの大騒ぎが聞こえてくる。

 怒声も、笑い声も、モノが倒れる音も。

 色んな音が、どたばたと聞こえる。


 あーあ、ホント──


 ──今日がずっと、続けばいいのに。

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