里親交代
3人が魔法の杖販売店に入ると、女店主が手を
振り迎え入れる。
「杖に詰めるもの詰めたよ、……でどうする?」
「何が?」
「いや~、杖を手にしたなら魔法、使ってみたくない?」
女店主の誘いに2人がキラキラした目をすると、後ろにいた男がにやけ顔で杖を出す。
「じゃあワイが――」
「お前はやめろ、2人が死ぬ、ドラゴン級の化け物が繊細な子供を教えられるか?」
「出来るぞ~、ワイはこれでも生け捕りとか出来るんだぞ~」
「生命維持装置にぶちこんだ首はカウントしないぞ」
「…………」
「ほら見た事か……お前は実践向き過ぎるんだ、
とりあえず2日後に来い」
女主人に言いくるめられると、男はしょぼんとした顔をして店を出ていく。
「良かったの?」
「流石にあれは――」
「良い? 2人とも、奴は表向きはチャランポランのトンチキだけど裏ではかなりヤバい奴だ、近づき過ぎない事を進めるよ」
女主人が申し訳なさそうな顔をする2人に忠告すると、店の奥にある何かを取りに行く。
女店主に追い出され、1人ショッピングモールを歩いている男の後ろに、黒スーツを着た人達8人が隠れながら着いてくる。
しばらく歩き、空きテナントしかなく、人が誰も通らない区画に着くと近くにあった椅子に座る。
「おい、良い加減出てきたらどうです? 執行部……いや、今は暗殺部隊ですかね」
懐から杖を出して挑発すると、前後左右から25人の黒スーツが出てくる。
「やぁ皆、感動の再会の奴もいますし……初めましての奴もいるんですね」
「ヴァゴシス・ラルクに告ぐ、直ちに秩序側につくと誓え、俺たちは貴様の殺害許可が降りている」
「これだからお役所仕事務めの頭の硬いトンチキは困るんですよ、まずは相手の機嫌を取るなり何なりしてから――」
ラルクは酔っていたのか、黒スーツの忠告に
いちゃもんをつけ始める。
だが、いちゃもんをつける途中で女黒服に頭に
杖を突きつけられる。
「あなた、随分と余裕そうね、帽子なんか
被っちゃって、だれが主導権を握っているか
わかっているのかしら」
そう話し帽子を取ると、黒髪で左目が溶けて
無くなっている顔があった。
「全く、新人教育がなってないですね……酒が旨い店知ってんだが皆で行くか?」
口では軽く話しているが、ラルクから発せられる殺気に女以外は全員同じ事を考えていた。
(禁忌に触れてしまった、断ったら全員殺される)
「旨い物食いながら話せば成功する交渉も――」
頭に杖を突きつけている女は、殺気を反抗と捉えたらしく、ラルクを殴りつける。
「おい、何反抗してるんだ? 私は一緒に来いと――」
殴って少しすると、女の体は自分だけが時の中に取り残されたように止まる。
「我慢してたがお前生意気だな、目障りだ」
ラルクが女の額に杖を置くと、女の体中から血しぶきが出る。
「こうなりたくなかったら……わかるよな」
にっこりしたラルクの質問に、全員が首を縦に振る。
それを確認すると、ラルクは床に落ちた帽子を深々と被り、黒服達を連れてショッピングモールを歩き始める。