6話「申し訳なさでいっぱいです」
「……すみません、急に声を荒くして」
申し訳なさでいっぱいだ。
彼はいつも思いやりを持って接してくれているのに、私はこんなで。
「あ、いえ、大丈夫ですよ」
「ごめんなさい」
「それで、本題は、様つけに関してでしたよね? 変といいますか嫌といいますか……そんな感じですかね?」
「はい……」
言ってから、嫌とかではないのですけど違和感が少し、と付け加えておく。
私は彼の気持ちをごみ箱に捨てるようなことはしたくない。
だからこそ言い方には色々悩む。
でも、言いたいことを言えないような関係になるのも嫌で、それはそれで彼に対しても失礼だと思うから――だから気持ちはきちんと伝えたい。
「言ってくださってありがとうございます。では、アリシーナさんとかにしますか?」
「あ、はい」
少し考えるような顔をしてから、彼は続ける。
「それ以外でしたら、アリリンとか?」
「ええ……」
まさかのワードが飛び出した。
音は可愛いと思うが……私には似合わないような、そんな気がする。
「あ……駄目ですよね、ふざけているみたいで」
「普通にさんづけくらいで大丈夫です」
「分かりました! じゃ、アリシーナさんですね!」
ぱあっと晴れやかな笑みを浮かべるパルフィは怒っていないみたいだった。
「すみません細かいことを」
「いえいえ! 気になさらないでください。それに、何でも言ってほしいです!」
「あ……でも、迷惑では」
「僕はちょっと馬鹿ですので、察せないこともあるかもしれないので、言いたいことがあれば言ってもらえる方がありがたいです!」
「ありがとう、ありがとうございます……本当に」
言いたいこと、伝えたいこと。そういったものを伝えさせてもらえて聞いてもらえる。それがどれだけ嬉しいことか、ありがたいことか、今はよく分かる。それはとても小さなことで平凡なこと、けれどもとても大切なこと。互いの想いや心を聞くというのは、人と人が関わるうえで欠かせないことだ。
「――そろそろお開きとしましょうか」
気づけば夕方が来ていた。
「今日はとても楽しかったです。アリシーナさん、よければまた会いに来てください」
「はい!」
「また何か、美味しいお茶を用意しておきますね」
「本日は、本当に、ありがとうございました。パルフィさんと色々喋ることができて楽しかったです」
別れしな、私たちは握手を交わす。
見つめ合う瞳に恋愛感情があるか否かは定かでない。
けれども視線を重ねるだけでほっとできる、いつの間にかそんな二人になっていた。
夕焼けも私たちをそっと祝福してくれているかのよう。
「じゃあ! さようなら!」
「また来ます!」
挨拶を交わして別れる――。
そしてその帰り道、私は事故に遭ったのだった。