3話「彼は私を悪者にはしませんでした」
「ところでアリシーナ様、貴女は最近婚約破棄されたと聞きましたが」
パルフィの口から遠慮のない言葉が出てくる。
「あ、はい……。恥ずかしいことですけど……」
そう言うしかない。
だってそれ以外に言えることなんてないのだ。
でも、婚約破棄されるような問題のある人って思われるのはちょっと嫌だなぁ。
そんなことをちらりと思ったりした。
しかしパルフィは私を悪者のようには扱わなかった。
「そのようには思いませんよ。なんたって、婚約破棄してきたのはベルガル王子でしょう? 彼相手に上手くやるのは難しいですよね、聡明であればあるほど」
そっとフォローし、柔らかな表情を向けてくれる。
「彼のことをご存知なのですか?」
「あ、ええ。はい。詳しくではないですけれど、でも、女性関係に少々問題があるということは知っています」
「詳しいですね」
「いえいえ、噂が流れているのですよ。恐らく、近隣諸国の王家の者たちは大抵知っているのではないでしょうか」
「ベルガルの女遊びは有名だということですね」
「そんな感じですね、はい」
意外だった。
そこまで情報が流れていたとは。
でも、それだけ情報が流れているのなら、もしかしたら私の味方をしてくれる人も世にはいるのかも……?
「あ! そうでした。少し、良いですか?」
「何でしょうか」
「もしよければなのですが……今度、僕の家でお茶しませんか」
「い、家? ですか?」
「実は僕、この国にも別荘を持っているのです」
「別荘ですか!」
他国に別荘を持っている、という話は、今まであまり聞いたことがない。ある程度地位や資産のある人であれば大抵別荘の一つくらいは持っているものだが、それも大体は国内だ。他国での常識がどのような感じなのかは知らないけれど、この国においては、よその国に家を持つというのは珍しいことだ。
「こちらの国にも家があるのですね」
「はい。……と言いましても、まぁ、滅多に使わないのですけどね」
「そうですか」
「でも安心してください! これから綺麗にしますから! 綺麗になったらぜひ遊びに来てくださいよ」
パルフィは最初のイメージより積極的な人だった。
とにかくぐいぐい来る。
楽しそうなのは良いことだ、しかし、すぐに答えを出すことはできない。
「少し考えさせてください」
「えっ、嫌でしたか」
不安げな色を瞳に浮かべるパルフィ。
そんな目をしないでよ、申し訳なくなるじゃない。
「いえそういう意味ではなく」
「ではどういう意味で……?」
「ええと、ですから、少し考える時間をいただきたいのです。その……色々いきなりで、頭がパンクしかかっているので」
言葉で伝えるって難しい、そう思うこともたまにある。
今などはそれの典型的なパターンだ。
「頭の整理ですね」
「はい、そのような感じです」