2話「道はすれ違い、しかしその先に」
私たちの道は交わらなかった。
そして今日、すべてが終わった。
壊れたのだ。
何もかも全部。
「ええ!? アリシーナ様出ていかれるのですか!?」
「はい、そうなんです」
「そんな……寂しくなります」
「そう言っていただけるだけでも嬉しいですよ、感謝します。そして、今まで本当にありがとうございました」
一番親しかった侍女にはきちんと別れを告げて。
「アリシーナ様……こちらこそ、ありがとうございました」
「さようなら。ずっと愛しています」
私は城を出た。
ベルガルはもう好きにすればいい。婚約者を捨てたのだからあとは自由。色々な女と遊んで、そうやって生きてゆけば良いのだ。
もっとも、もっと早く私を切り捨てるべきだったのだが。
そうすれば私だって何も言わなかったのに。
そんな風にして実家へ戻った私。
手に入れるはずだったものはすべて失われて。
もう何も持っていない状態になってしまった。
でもいいのだ、これから別の道を模索するから。
そう思っていたのだが――。
「初めまして、貴女がアリシーナ様ですね」
「え」
実家へ戻った数日後、家に一人の青年がやって来て。
「僕、昔、一度貴女にお世話になったことがあるのです」
「え……あの、すみません人違いでは」
「いえ! 間違いではありません!」
「そ、そうですか……」
その赤髪の青年はパルフィと名乗った。
「少しで良いので、話を聞いてはもらえませんか」
「……話って?」
まさかの展開。
これはさすがに想定外。
最初こそ怪しいと思っていたけれど、言葉を交わすうちに「悪い人ではなさそうだな」と思えてきて。
だから、もう少しだけ、彼を知りたいと考えるようになっていった。
でもそうよね。
関係とか信頼っていうのは長さだけではないんだもの。
それに、何事も挑戦!
何が未来へ繋がるかなんて分からない。
「昔の件に関してです! 話せばもしかしたら思い出してもらえるかも、と」
「ああ、そういうことですか」
「駄目でしょうか……?」
「いえ。話くらいなら大丈夫です。あ、でも、うちで話す形で大丈夫でした?」
「ええ! それはもちろん!」
「じゃあ、そうしましょう」
これがパルフィとの始まりだった。
その後彼から聞いた話によれば。
幼きある日彼は一人で木に登って遊んでいて枝から落ちそうになって困っていたそうで、その時私が下から声をかけ、さらに助けたそうなのだ。
確かにそんなこともあったような……。
でも、あの時助けたのは、小さい男の子だった気がするのだけれど。
「本当に、あの時の方なのですか?」
「はい!」
「けど近所にお住みではないですよね」
「ああ、はい! そうです! ……実は、僕、隣国の王家の人間なので」
その言葉に吹き飛びかける。
「えええ!!」
信じられなかった。
まさかの告白。
「う、嘘……じゃ、ないんですよね……?」
「はい」
パルフィの目に偽りの影はない。
彼の瞳は澄んでいる。
そしてそこから放たれる視線はどこまでも真っ直ぐ。
嘘をついている人には見えないなぁ、というのが思うところだ。
「でも……ごめんなさい、とても信じられなくて……」
「あの時は父についてこの国へ来ていたのです。でも隙間時間に一人になってしまって、退屈だったので少し木登りをしていたら、あのようなことに」
「そ、そうだったのですか……」
「慣れないことをするのは駄目ですね、やはり」
「それは大変でしたね……」
沈黙が訪れてしまう。