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第五話 Aランク冒険者と苗字無き冒険者、それぞれの責務

「アッサーーー!」


「ううん」


 ―僕の朝は早い。野生の告時鳥が鳴く時間帯にメランは新たな住居、すなわちバー≪迅雷≫の二階の一室で目覚めた。あくびをしながら堅いベッドから這い出すと、眠たい目をこすりながらも部屋の隅の簡素な棚から服を取り出し、寝間着から着替えた。そして一階の洗面台へ向かい顔を洗う。幾分かシャキッとしたところで朝食の準備だ。といっても今の段階では食材を用意し献立を考えるだけでいい。ギルドマスター兼酒場のマスターのタスマー・シュテンは家から毎日≪迅雷≫へ通っているため、基本的にはメランとノエルが当番制で各種家事を行っている。ノエル曰く


「メランの生活力の高さ、あまりにも僥倖よーっ!」


 とのことらしい。なんであれノエルさんに必要とされるのは嬉しい。


 とはいえ僕が早朝から起きている理由はそれだけでは無い。シードも、身体能力も毎日訓練することで強くなる。ギルドの外に出て裏庭の修練場(とはいっても広い土地に的などが数種類用意されているだけの簡素なものである)にて短剣の素振りを行う。例のラリッタケの摂取により正気を失い同族を殺したゴブリンとの戦いにて規格外(らしい)の魔法の才を見せた僕だが、同時に近接戦闘の拙さも露呈したのだ。寄られた際に弱いままではいくら魔法が強くても強さが安定しない。そういう訳で僕は今日も元気に練習に明け暮れている。攻め手の多さが持ち味の短剣は見かけによらず奥が深い武器種であるため、様々な状況を想定して短剣を振るい続ける。他のギルドメンバーもここで修練を積むため、僕は早朝と深夜の誰もいない時間で自己研鑽に努めることにしている。これは誰に言われたわけではなく僕なりのメンバーへの配慮である。


 さて、一通り近接訓練を終えた後は魔法の特訓である。どうやら僕は他の黒魔導師とは様々な面から悉く逸脱しているらしく、それ故に自己流で特訓を行っている。そもそも僕は論理魔法を使えないため、シードが黒魔法であることすら怪しいのだ。とりあえず威力や速度、魔力量を挙げるための反復練習や魔法発動の際の思考の洗練化などをメニューに取り入れ、日夜自らの力を磨いている。また、オリジナルの不定形魔法に名前を付けることにした。イメージの補強に役立つと考えたのだ。


 そうこうしている内に二人分の朝食を作る時間である。市場で仕入れた告時鳥の肉と数種類の野菜を使ってスープを作り、パン(ギム草を粉にした後に焼くことで作られるらしい不思議な国民食である。ふわふわでおいしい)を焼き(どうしてもう一度焼くかは不明であるがふわふわでおいしい)、ナバの木の実(黄色くて細長い栄養たっぷりの果実。かつて王国が征服した南方の島で栽培させているらしい罪深い一品。だがおいしい)を用意して、自室の向かいに住むノエルを起こす。これが僕の新しい生活である。食事当番ではない日も早く起きて修練に励むことは変わらず、余った時間はギルドの掃除をしている。この新しい生活を僕は気に入っている。ノエルと半同居状態であることもそうだが、何より夢に向かって使うことのできる自由時間があることが嬉しい。


 そしてギルドの業務が開始されると、僕も冒険者として仕事に励む。トワナムの各所から来る依頼(討伐や採集、警護やペット探し…後ろ二つは冒険か?)に対応する日もあれば、自由にトワナム周辺の土地を探索し調査を行う日もある。毎日が忙しく楽しい限りである。ノエルのお気に入りということで、ギルドの男たちに白い目で見られる時もあるが、逆にノエルのお気に入りということで表立って悪戯はされない(ノエルさんはどれだけ恐れられているんだ)。こうして素晴らしい日常を謳歌していたある日のこと……


 ―「おーい、メランはいるか?」


 ブレアが勢いよくギルドに入ってきた。偶々掃除のためにメランはギルドに留まっており、二人は久方ぶりの再開を果たした。ブレアの後ろに見慣れない人形のように整った顔立ちと可愛らしい服装の少女がいた。メランがそちらに視線を向けると


「ああ、前言ってた妹のアンジェだ。年も近いだろうし仲良くしてくれな!」


「は、初めましてっ。アンジェ・ブラント、Dランク冒険者です。こう見えて白魔法が得意です!よろしくお願いします。」


 どうやら彼女が、以前ノエルが言っていたこのギルドのもう一人の魔導師のようだ。姉妹揃って才気溢れる冒険者であり、前衛と後衛と言うことで相性も良さそうだ。


「僕はメランです。こちらこそよろしくお願いします。それでブレアさん、何かご用でしょうか?」


「依頼だ。一緒に来て欲しい案件がある」


「まさかのご指名ですか!謹んで承ります!」


「そんなに気負わなくていい。大方ただの気にしすぎだと思うから」


 そう言いつつもブレアの表情は重い。


「先日アンジェが白魔法でトワナムの近くに新たな非推奨探索領域の発生を確認したんだが、少し入って調査したところ、ここ周辺の土地としては有り得ない地質をしていた」


 非推奨探索領域、通称ダンジョンはある日突然出現する大規模な魔物の巣である。その仕組みは謎であるが、特に貴重な宝が眠っているわけでもそこに生息する魔物が外に出る様子でもないので、無視が推奨されている。ダンジョンは多くの場合周辺の地質や植生を反映しており、生息する魔物も周辺のランクに依存しているはずだが、話を聞く限り何らかのイレギュラーが働いている可能性もある。という訳でメランに白羽の矢が立ったようだ。


「それは大変ですね。まだ経験が浅い僕で本当に大丈夫でしょうか?」


「もちろん、メランが強力な黒魔導師らしいということは聞いている。だが今回お前を連れて行く理由はそれだけじゃない。」


「といいますと?」


「自惚れるわけでは無いが、アタシは今このギルドで最も優れているとされている冒険者だ。アタシには一度は全ギルドメンバーと共に任務を行い、その様子を観察、時には助言する責務がある。もしメランが本気で最高の冒険者を目指すのならば、後進育成も重要になってくるぞ」


「はい、肝に銘じておきます。では、僕とブレアさん、アンジェさんでダンジョン探索に当たるということでよろしいでしょうか」


「うむ、よろしい」


「あの、私のことはアンジェでいいですよ?ランクも下ですし…」


「ランクは関係ないと思うけど…うん、分かったよ。改めてアンジェ、よろしくね」


「はい、共に励みましょう。先ほどお姉ちゃんが言っていたとおり私は白魔法、つまり回復と補助が得意です。魔法の知識については自信があるのでメランさんの力になれるかもしれません。ついでにメランさんの不思議な魔法について色々聞かせてもらいます。可能なら解剖したいなあ」


 メランは最後の方こそ聞き取れなかったものの、まあ善良な子であろうと判断を下した。こうして、即席の3人パーティは突如発生したというダンジョンへと向かうことになった。

 アンジェは空腹をごまかす魔法や暗視の補助魔法を使えるとのことで、準備は最低限で済んだ。それを聞きメランは、


(後でこっそり魔法をかけてもらい徹夜で訓練しよう)


 というようなことを考えていた。


 ―ここはトワナムの小さな魔装具屋。最近店主の覇気が無いことで有名である。

 そんな店の居住スペースにて、


「一体なんだこれは!! 」


 周りの家々が震えるほどの怒号が響き渡った。


「しばらく帰ってこないと思ったら、あいつ一丁前に冒険者として活動してやがる。全く誰の許可を得て動いているんだ! そもそも親の許可なしで冒険者になることは規約違反ではないのか!」


 目に強い怒りを浮かべた男、アズルは街報(新聞のようなもの)を読み、叫んでいるようだ。メランがCランク冒険者であることこそ隠されているが、新米冒険者メランの活躍が確かに記されている。男はしばらく半狂乱で叫んだ後、理性を取り戻し、


「どうせ大した人材では無い。親権を振りかざして脅したら勝手に追放するだろう。明日にでも訪ねるか」


と言いながら不気味な笑みを浮かべた。嵐は近い。


当たり前ではない日常を噛み締めながら犬は新たな巣で牙を研ぐ。見守る目はやがて期待の目へと変化していく。羽化の日はそう遠くない。


ここまで読んで下さり本当に、本当にありがとうございました。もし、「続きが気になる」、「面白かった」というような方がおられましたら、是非とも評価やブックマークをよろしくお願いいたします。今後ともどうかよろしくお願いいたします。

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