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第三話 一人じゃない、二人でもない、その輪はやがて…

 しばらくしてメランが落ち着いたことを確認するとノエルは話を再開した。


「では改めて、倉庫で武具を選んできてねー」


「杖を選んできたらいいのでしょうか?」


「そう思う気持ちも分かるけれど、まずは君が思うままに装備品を選んで。能力はシードという別名からも分かる通り、適性検査で分かる「能力」はあくまで才能、種であって、実際には努力を重ねることによりシードに関係ない方面で活躍する冒険者もいるの。だから、シードに従って純粋な黒魔導師を目指すか、重装備を着込んで魔法は選択肢の一つとして運用するような前衛を目指すかは君の自由だし、そこに正解はないの。それに私の勘だけど君に関しては魅力的に感じた装備を選んだ方がいい気がする」


 そう言いながらノエルはウインクして席を立ち階段を上がっていった。ギルドマスターと今回の件の調整をするようだ。


「分かりました」


 メランも立ち上がり倉庫へと向かった。カウンターからさらに奥に進み右側の扉を開けると、床に無造作に装備品が積み重なっていた。このギルドの一員になれたならば建物全体を掃除しようと堅く心に誓いながらメランは部屋を見回す。ずっと店の手伝いをしてきたメランは見るだけで武具の素材や製作者の腕がある程度分かるのだ。メランは倉庫内で3番目程の業物を拝借しようと考えていたが、一本の短剣がメランの目に止まった。全ての光を吸い込むように黒光りする刀身が非常に美しく感じたのだ。その瞬間メランのこざかしい考えは吹っ飛び、その短剣を夢中で手に取っていた。柄を握ると自分がこの短剣を振るい凶悪な悪魔と戦う姿が脳裏に浮かんだ気すらした。


 メランはしばらく妄想に耽っていたが、我に返り同時に焦りを覚えた。というのも武具選びの速度、準備の正確さも試験の評価に含まれている可能性に思い至ったのだ。防具はまだ選んでいないので、慌てて一通りの防具を検分した。そしてチェーンメイル上下やその上に着る赤いローブなど彼なりに優れた性能を持つと判断した防具を拾い上げた。


 周囲に誰もいないことを確認した後、装備に積もったホコリを払い素早く着替えた。今回の装備のコンセプトは近接戦闘と遠距離戦闘の両方を視野に入れた後衛寄りの魔法戦士である。ローブを纏ったメランは小走りでロビーに戻ったが、そこにノエルの姿は無かった。先ほどの想定が杞憂であったことに安堵しつつ席に戻ろうとすると、


「お、新入りか?」


 と軽装に身を包んだ女性に話しかけられた。少し年上に思われるその女性は年齢に見合わぬ覇気を纏っており、メランはその勇ましい姿に見とれたが、気を取り直して返答した。


「このギルドの身元引き受け制度を利用する予定でこれから試験なんです」


「そういうことなら大歓迎だぜ!なにせこのギルドは慢性的な人手不足だからな!」


「皆さんそれ言いますね…」


「いくら強くても活動の制限はどうしようもねえからな。優秀な人材は皆王都か前線に向かいやがる。ギルド名に皮肉を込めることが精一杯さ」


「それはどういう?」


「くっくっくっ。この先は正式な仲間になってからだぜ。まあ、たいした話じゃないがな」


「がぜんやる気がでました。激励ありがとうございます」


「お前面白いな!気に入ったぜ………なあ少年、話は変わるが少し忠告させてくれ。身元引き受け制度を使うことにはデメリットもある。分かるか?」


「父さんに二度と会えない可能性があることですか。それなら僕の覚悟は決まっています。ついでに、僕の名前はメランといいます」


「承知したぜメラン。もちろんそのこともあるが、それだけではない。アタシにとっては冒険者になってくれた方が嬉しいが、一人の追い詰められた少年に引き返せない一本道を無理矢理選ばせるのは気分が良くないから伝えておくぜ。まず、この制度を適用するとメランはここに住むことになる。決して環境がいいとは言えないぜ。虫もいるしベッドも硬い。」


「虫がいるのは酒場としてどうなんでしょうか、という話は後にして特に問題ありません。今まで住んでいた家も狭かったですし、虫退治も頻繁にやってましたので得意ですよ。」


「それはすごいな!もし試験に失敗しても住み込みのギルド職員としてやっていけると思うぜ。さてさて、次の懸念点としてメランは苗字を失うことになる」


「それって問題なんですか?」


「苗字を失うと、制度上では奴隷や孤児と同じ扱いになるんだ。学園に通いたい時や冒険者をやめて別の職業になりたいときに非常に困難な思いをするだろう。旧態依然的な価値観を持つ輩はメランを軽んじるだろうし、結婚などでもきっと苦労するよ。アタシはメランが結果さえ示してくれれば身分なんて関係ないと思うけど、そうじゃない奴も多いからな」


 目の前の女性が本当に自分を心配してくれていることがひしひしと伝わる。だからこそメランは飾らない思いをぶつけることにした。


「それでも僕は冒険者になりたい。僕は多くの人を救う英雄になりたいんだ。もちろん僕は僕を虐げるような人でも助ける。その姿勢を続けたらきっとみんな僕の頑張りを認めてくれると僕は思うんだ」


「なるほど献身はいつか自分に返ってくるという考えか。メランはもう立派な大人だな。それなら迷っている暇はないな!目標は戦神越えか?」


「戦神?」


「あらら、知らないか。強さ、実績ともにここ数百年でトップクラスのSランク冒険者だよ。20年くらい前に突如魔物たちが人類に宣戦布告して大きな戦いが起きたんだ。もし戦神がいなかったら人類は1年で滅亡していたと言われているぜ」


 生まれる前の出来事、ましてや冒険者に関する情報なので、メランは戦神という存在を初めて聞いたが、厳かな異名を持つその冒険者のことをもっと知りたいと感じた。


「僕の目標は母さんですが、確かにその戦神という人も気になります。良ければどのような人か教えてもらえますか。」


「アタシが幼い頃に姿を消してしまったためほとんど伝聞にはなるが、寡黙で鎧兜を着けていたため、その正体は愚か、年齢、性別すら不明らしい。1000体以上の悪魔の部隊を数分で全滅させたとか、刃渡りが王城の高さ以上の剣を使っていたとか、4本腕だったとか、全種類の魔法を使えたとか、何せ荒唐無稽な逸話ばかり残っている。まあただ一つ確かなことがあるな」


「確かなこと?」


「戦神はその想像もできないような力を持って魔王を討伐し人類を救った英雄であるということだ」


 ピロリン 単純なメランの憧れリストに戦神が追加された。


「僕もそんな冒険者になりたいなぁ。いやきっとなるんだ。なってみせる」


 噛み締めるようにメランは自分に言い聞かせた。その様子を見て女性は


「その意気だ。応援しているぜ!」


 と激励した。ふとメランは目の前の人について何も知らないことに思い至った。


「そういえばあなたは?」


「ああ、言ってなかったか。アタシはブレア・ブラント。このギルドの稼ぎ頭であり唯一のAランク冒険者さ。普段は妹と一緒に仕事をしているのだが、生憎今日は一人なんだ。また今度妹も紹介するよ。」


「まだ若いのにAランク!すごいですねブレアさん!」


 ピロリン 単純なメランの憧れリストにブレアが追加された。


「そんなにすごいものでもないさ。才能と機会に恵まれただけだ。まだSランク冒険者には遠く及ばない」


「それでもブレアさんを当面の目標にして精進します!」


「こんなにひたむきな後輩に慕われちゃあアタシも頑張らないとな」


 ブレアはまんざらでもなさそうだ。ブレアはそれから軽くギルドに関する基礎事項を教えてくれた。例えば冒険者と任務は基本的にFランクからAランクの6段階に分かれており、自らのランクを超えた任務を受けることは原則できないこと。複数の任務をこなす、もしくは大きな任務の解決に携わることで冒険者ランクが上がっていくこと。Sランクは国を救うレベルの活躍を見せた冒険者に特別に与えられる称号であること。Aランクの時点で上位の魔物である悪魔を容易に討伐できるほどの実力であること。


 色々聞いているうちに時間が過ぎ、ノエルとギルドマスターが降りてきた。メランは色々教えてくれたブレアに礼を言い、二人の元へ向かった。精悍な顔立ちが歴戦の冒険者であることを感じさせるギルドマスターはメランを一目見るなり、


「どんな家出少年が訪ねてきたのかと思ったら、なかなかどうしていい顔立ちじゃあないか。ただ逃げ場所が欲しい腰抜けというわけではないようだな。メラン、君の身元引き受け制度の申請を許可しよう」


 とメランの受験を認めた。というわけで試験内容が説明された。


「この近くの山でゴブリンがコロニーを作っているようです。まだ被害報告は出ていないのですが少々気になることがあるので、調査および可能ならば討伐を行いましょー」


「気になること?」


「ゴブリンは複数十数匹でコロニーを形成するのですが、それにしては目撃されたゴブリンの数が少ないんですよー」


「なるほど。何だか重要な情報そうだね」


「普段とは違うことは中身がどうであれ重大な情報です。では回復薬等を持って出発しましょうか。私はあくまで査定役ですので手伝うことはできませんよ」


「ノエルさんは自分の身を守れるの?」


「おいたしてくる酔っ払い冒険者を捻るほどにはねー♡」


 メランはノエルだけは怒らせない方が良いと内心に深く刻み込んだ。

 こうして初めての任務にして、メランの冒険者入りを見極める試験が始まった。


牙を磨いた犬は森を駆け回る。初めて見る全てに興味を示し貪欲に成長する犬に新たな飼い主は必要ない。自由になった犬を見守る優しげな目は少しずつ増えてきている。

ここまで読んで下さり本当に、本当にありがとうございました。もし、「続きが気になる」、「面白かった」というような方がおられましたら、是非とも評価やブックマークをよろしくお願いいたします。今後ともどうかよろしくお願いいたします。

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