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第十四話 決着

 まずは靴の強化を解く。これにて曲芸じみた動きは出来なくなるが恐らく問題ない。これにて二つ程魔法を使う余裕が生まれる。


「黒刃」


 左手を伸ばすと掌に黒い塊が生じる。それを握りしめると黒刀化する前の短剣よりも少し長い程度の剣が生じた。こちらは核となる短剣が無いため、黒刀と比べると武器としてのランクはかなり目劣りするが、手数の確保のためなので仕方が無い。


 メランは砂龍に再び近接戦闘を挑む。文字通り付け焼き刃ではあるが、砂龍も人化状態での剣戟に慣れているわけでは無い。砂の刃と黒き刃が激突する。お互いの武器のスペックはほぼ互角のようでお互いに弾かれた。しかし、そこでメランは一歩先へ進む。仰け反りを生かして右手を高く振り上げ、黒刀を勢い良く振り下ろしたのだ。切っ先は辛うじて後退する砂龍を捉え、手傷を与える。続けてメランは黒刃を投げる。ある種の攻撃魔法であるそれを、砂龍は砂の棘を周囲に生やすことで対処する。前述したように黒刃と砂龍が生成する砂攻撃は同格である。幾つかの棘を断ち切った後に黒刃は弾かれた。メランは宙を舞う黒刃を受け止め、棘が折られた部分を進む。足の強化が解けているため、さすがに鋭い棘を踏みしめることは出来ないと判断したのだろう。再び砂龍の目前まで来たメランは被弾覚悟で両手の剣を振る。上下左右から降り注ぐ斬撃に対応するために、砂龍は防御のための砂を全身に分散せざるをえない。メランは防御や反撃度外視でたたみかける。右手を振り上げ、左手を振り下ろす。右手を斜めに振り、左手は切り上げる。右手は横薙ぎの攻撃、左手は斜めに振り下ろす。縦方向では同じような場所に位置する両手の距離を詰めるようにそれぞれ動かす。両手がかち合った瞬間に強く前へ押し込む。魔導師とはほど遠い形相ではあるが砂龍は防戦一方である。引き抜いた瞬間を見計らって砂の刃がメランを貫くが防御魔法のお陰でダメージはない。柄頭で砂の棘の根元を折ると、砂が突き刺さったままであることも無視しメランは踏み込んだ。腕を十字に交差しながら進み、すれ違いざまに切りつける。


 砂龍は追撃に備えて振り向く。するとメランは魔法の準備を行っていた。そう、メランにはあと一つ魔法を使う余地がある。メランの背後に4本の魔方陣が現れ黒く尖った穂先が姿を現す。


「黒槍」


 メランは発射と同時に走り出した。砂龍は棘を生やし応戦する。それを読んでいたメランは既に跳躍している。砂龍の懐へ潜り込み、着弾に先んじて攻撃を加えるようと試みる。一人での同時攻撃を狙うつもりのようだ。しかしそれを黙って受ける砂龍ではない。メランが砂の棘を越えたことを確認すると砂龍は地面から追加で一本の長い砂の棘を生やし、攻撃寸前のメランを串刺しにする。地面との接続が絶たれているため、砂龍は自由に砂を使うことが出来ず、少ない砂の量で大きな効果を挙げる必要があるのだ。そうして放たれた一撃は確かにメランの動きを止め、防御魔法をも解く程のダメージを与える。砂龍に3本の黒い槍が突き刺さるが砂の膜に阻まれ致命傷には至らない。メランの同時攻撃は失敗してしまった。メランは苦し紛れに右手の黒刀を投げる。黒刀は前述したように黒刃よりもスペックが高いため、砂の膜を越えてに砂龍に刺さる、が大したダメージでは無いようだ。勝利を確信した砂龍は続けて右手を高く掲げ、砂の刃を振り下ろす。


 そんな絶体絶命の状況で、それでもメランの表情は崩れない。メランは左手の黒刃を両手で握り直すと、全身全霊の魔力をそこに注ぎ込む。黒刃は伸びも肥大化もしない。そう、黒刃はあくまで黒刀での近接戦闘を補助するための魔法であり、長さやスペックは黒刀に遠く及ばず、魔力注入による能力上昇機能も無いのだ。しかし、黒刃は確かに黒刀とリンクしている。では黒刃に魔力を注入した場合は?


 答えは「黒刀に魔力が注がれる」である。そう、異変が起きるのは砂龍に刺さった黒刀の方なのである。黒刀にメランの規格外な魔力が注ぎ込まれ、際限なく肥大化する。砂龍は異変に気付き、しかしメランへのとどめを優先する。砂龍の掲げられた右手が振り下ろされようとする-直前に一本の黒い槍が砂龍の脳天に刺さる。メランは3本を直線に飛ばし、1本を山なりに飛ばしていたのだ。全ては二度目の一人同時攻撃のため、メランは槍の着弾と同時に叫んだ。


「オーバーロードーーーッ!!!!」


 限界を超えた魔力注入に耐えられなくなったことで短剣を黒刀化していた魔法が解け、全ての魔力が解放される。メランの正真正銘、最後の一撃。

 ―黒き閃光が炸裂した。


 棘攻撃による砂の使用が原因となり砂の装甲は弱体化していた。槍と爆発の同時攻撃によりそれぞれへの対処が遅れ防御がおろそかになった。自らを貫く黒刀から放たれた閃光は内側からの衝撃であり防御があまり意味を成さなかった。これら全ての要因が重なり遂に砂龍は致命的なダメージを受けた。


「グォォォォオオオッッッ!!」


 あと一歩の所で逆転された砂龍は怒り、悔しさ、憎しみなどの全てを詰め込んだ咆哮を放つ。その僅かなダメージでメランも倒れた。お互いにギリギリであったのだ。しかし先に絶命したのは砂龍、いつかのように再び起き上がる様子も無い。


 マリーはメランの元へ駆け寄り叫ぶ。


「先輩ィィィィィィッ!! しっかりしてください。先輩に死んで欲しくないっす!!」


 返事は無い。マリーは絶望の声を上げる


「あああああっ。こんなことになるくらいなら無理言って私も闘わせてもらえば良かった。まだ私はあなたに色々なことを教えてもらいたいのに。せっかく見つけたのにっ」


 するとどこからか魔力で構成された黒猫が現れメランの上に乗る。嘆くマリーを尻目に黒猫はメランの中に消えた。メランの傷がみるみるうちに塞がる。唖然とするマリーをあざ笑うかのようにメランはすぐに目を覚ました。


「勝ったようだな。また力が溢れてくる」


「ちょっと待って下さいっす! さっきの猫は何ですか!?」


「ああ、インスパイアキャット。回復の黒魔法だ。生命力や魔力を封入できる、いわば保険だな。今回は俺が気絶した際に出てくるように命令しておいたんだ」


「そう!! では!! なく!! いつの間にあんなものを? 心配したんですよ!?」


 マリーは涙目である。自分の説明不足で大切な後輩を傷つけてしまったことを悟ったメランは誠意を持って説明を試みる。


「心配掛けて済まない。もっと説明しておけば良かったな。あの魔法はどういう訳か攻撃魔法と同様のカテゴリーらしくてな。一度発動すれば維持に魔力や集中は必要としないから交戦中は完全に存在を忘れていた。発動したのは雨で砂嵐を消している間だ」


「大体分かったっす。私は今回の戦いで先輩に助けられてばかりの身のため追求はこれくらいにしておくっす。引き分けっすよ。」


「ああ、先日火龍と戦ったときに先輩が独断行動をする怖さと疎外感を味わったばかりだというのにいざという時に生かせなかった僕も悪い。これでチャラにしてくれると嬉しい」


「もとより怒りより嬉しさの方が高いっすよ。それより先輩、晴れたっすね」


 砂龍が起こした砂嵐とメランが起こした黒き雨は戦いが終わり両者倒れた時点で消滅し、龍の巣には日差しが戻っていた。メラン達は砂龍の魔の手からアクトンを守ったのだ。着実に英雄へと近づいていると感じ、メランは、より精進しないと、と決意を新たに決めている。マリーもまた冒険者としての目標を定めたようだ。


「近接戦闘ですら黒魔導師の先輩以下なのは少々不甲斐ないっす。目指せ、先輩越えっす!」


 二人は和やかな雰囲気でアクトンに戻り、町長に報告した後、宿屋で一泊、そして帰る段取りとなった。宿屋で最低限の事後処理(書類作成や食事、入浴など)を済ませると二人は疲れの余り、アンデッドのように眠りこけた。


 ―トワナムのギルドでは話が核心に迫っていた。


「どういうこと?」


「相互監視だな。俺はお前が息子に酷い命令、計画を発令しないか監視する。お前は俺が勝手にダンジョンを潰したりしないか見張る。完璧じゃあないか」


「そんなことして何になるの?こっそりメラン君を説得するつもり?

 ならば私もあなたの悪評をメラン君に流し続けるわよ」


「勘違いして欲しくないのだが、俺は魔物が戦争に勝って世界を支配しようがどうだっていい。例えそうなっても生き延びる自信があるし、糞人間どもに肩入れする理由もない」


 そう達観した眼差しでノエルに告げるアズルからは世界への絶望を感じる。しかし、その冷めた目は一瞬で熱を灯し、今回の対話で最も言いたかったであろうことを口にした。


「だが、そのためにメランを殺すな。意に沿わぬことをさせるな。不必要に傷つけるな。これらを破った瞬間に俺は人類を救う「英雄」になる」


「そこまで肩入れするなんて、あなた、メラン君の何なのよ」


「父親だ。全てを捨て、世界を敵に回しても守り通すと決めた、たった一人の息子だ」


「思いと行動が全く釣り合っていないわ。それが私に付け入る隙を与えたのよ」


「何とでもいえ、俺には俺なりの考えがあるんだ」


「じゃあ、別の質問。赤児のメラン君を拾った、もしくは攫ったのがあなたなのだとしたらメラン君の母親の話は嘘なの?」


「全くの嘘ではない。メランの母親という訳ではないが、魔軍との戦いで戦死し、名すら残らなかった「英雄」がいたことは真実だ。俺はメランの母親としてその人の人生を借りた」


 今までの話からアズルの正体について分かってきたことがある。人類の中でトップクラスに知識や頭脳に優れ、同時に魔王討伐戦に参加するほどの武力を持っている。かつての魔軍との戦いで先陣を切った集団が冒険者ギルドであったことを含めて、アズルの正体はある人物に符合する。


「もしかしてあなたの正体って…」


「違う、しかし近い、とだけ言っておこう…」


 言い切る前に否定された。この辺りに彼が表舞台から姿を消し、郊外の街でメランを育てていた原因がありそうだ。話は契約へと戻る。


「口約束だけじゃ、どうしようもないわ」


「いや、お互いが行動で示す形の契約だ。堅苦しいものは必要ない」


 その言葉を受け、ノエルは考え込む。書面での契約に何か不都合があるのだろうか。もしくは、口約束で具体的な条件を有耶無耶にすることを企んでいるのだろうか。


(まあ、抜け道は後で考えるとして、今は時間が無いから普通に申し出を受けましょう)


「それもそうね。私達側からすると、受ける以外に道は無いようだから、その話乗るわ」


「理解が早くて助かるぜ。俺は本部から派遣された冒険者としてこのギルドに所属する。任務は普通に行うし、必要以上にメランやお前に絡んだりもしない。そしてお前の、魔族側の規約違反を確認すれば、俺は一瞬で人類の救世主となる」


「ええ、私たちも別にメラン君を好き好んで傷つけたいわけでは無いのよ。あなたが私たちの行動を明確に妨害しない限りはメラン君に過度な危害は加えない」


 こうしてアズルと魔軍との間に奇妙な契約が成された。その意味合いを正しく知る人物はアズル・エリュトロンのみである。彼は何を思い、何を行うのだろうか。この先の物語には彼の動向も重要になってくるだろう。


「で、変装するの?」


「んなもん必要ない。鎧兜で顔と声を隠す」


「魔族の私が言うのはおかしいかもだけど、その姿を想像すると相当に怪しいわよ」


「まあ見とけって。余りの似合い具合に惚れるかもよ?」


「絶対無いわ。私にはメラン君がいるもの」


 そう返すとアズルは興味深そうにノエルを見つめる。


「な、何よ」


「いや、随分真剣味を帯びていたなと思って。お前、まさか個人でメランに肩入れを?」


「勘違いしないで。「その時」が来たら、私は絶対に、容赦なく、確実にメラン君を真なる魔王に覚醒させる。それは規定事項よ」


 ノエルもまた強い決意で敵地に一人潜入しているのだ。


 ―翌々日、何も知らない二人がギルドに帰ってくると、そこには見知らぬ冒険者の姿があった。全身を黒い鎧と兜に身を包んだ男はノエルと何かを話している様子だった。二人の帰還に気付くと鎧戦士は何か言い残し、去って行った。メランはノエルの元に駆け寄る。


「ただいま、さっきの人は?」


「ああ、メラン君お帰り。彼は本部から派遣されたAランク冒険者≪黒騎士≫よ」


 そういうノエルの表情は堅い。


「あの男がどうかした?」


「素晴らしい活躍を挙げているこのギルドを補助するという名目でやって来たのだけど、私にかなり言い寄ってくるの」


 いきなりの嘘である。しかし効果は案外高いようで、メランの黒騎士に関する好感度は初対面にしてゼロ以下である。


「近々あの≪黒騎士≫との任務があると思うわ。気を付けてね。まあ、何はともあれお疲れさま。今日は宴よ」


 こうしてメランの初遠征は大成功に終わった。迅速な報道により彼のドラゴンスレイヤーとしての名声はより高まり、史上最速クラスでのランク昇格も噂されるようになった(実際には今回の任務はC→Aランクへの昇格試験としての性質を有しているため噂は現実に負けている)。彼と魔物、アズル、そして国家の思惑も絡み、彼の存在は世界中に広まっていく。その先に待ち受けるは黒き白夜か、それとも漆黒の極夜か。今は誰も知らない。


ここまで読んで下さり本当に、本当にありがとうございました。もし、「続きが気になる」、「面白かった」というような方がおられましたら、是非とも評価やブックマークをよろしくお願いいたします。今後ともどうかよろしくお願いいたします。

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