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第十二話 砂に負けない移動法、或いは受付嬢ノエルの受難(中編)

「あれだな。まだ距離があるのに随分強く主張している」


「みたいっすね! 腕が鳴るっす!」


 二人は砂龍の巣に接近していた。事前情報通り砂龍は砂漠の一部分を占拠し、砂嵐で縄張りを確保しているようだ。龍族はやはり規格外である。


「もう少し接近してから僕が魔法を唱える。一通りの準備が済んだら突撃してくれて構わないよ。」


「はいっす! 雨の魔法と強化魔法っすよね?」


「ああ、ドラゴンスレイヤーの力見せてやる」


 あれだけ文句を言っておきながら結局例の異名を気に入ったらしいメランは軽口を叩きながらも脳内でシミュレーションを掛けていた。

(火龍は火炎と物理攻撃が脅威であったが、砂龍はどのような攻撃を繰り出してくるのだろうか? 即興の強化魔法が必要になるかもしれない。僕はマリーの命を預かっているんだ。考え得る限り全ての状況を予想しておかなければ)


「この辺りで良いっすか?」


「え、ああ、そうだな。始めよう。」


 気を取り直して決戦の準備を始める。まずは補助魔法である。


「シュバルツ・ポーター」


 メランのローブは既に魔法がかかっているので今回はマリーの補助である。マリーの武道着が黒く染まった。


「どうやら、ダメージを食らう程、黒が退色するらしい。時間経過で再び黒へ帰るようだが、一応念頭に置いていてくれ」


 続けて砂嵐を消す。巣近くの高台に陣取り、思うは雨。


「塗りつぶせ、エンダースコール」


 世界の終焉を思わせるような無数の黒い雫が空から降り注ぐ、砂に落ちた黒き水はジュッと音を立てて砂を溶かしている。シュバルツ・ポーターを纏うものはメランの黒魔法によるダメージを受けないという効果があるため、二人にはダメージはないが、並の魔物が相手の場合、この魔法を放ちしばらく放置するだけで力尽きてしまうだろう。砂嵐が止むまでの間にメランは準備を完了させる。少し経つと、砂嵐は消滅し砂龍の姿が露わになった。火龍よりは小さい気がするが気を抜くわけにはいかない。


「いくぞっ!」「了解っす!」


 戦闘が始まった。砂に足を取られることもなく瞬時に砂龍の懐へ潜り込んだマリーは挨拶とばかりに腹に強烈な一撃を叩き込む。突然の巣の消失に呆然としていた様子の砂龍は、その一撃をもろに食らう。奇襲の成功を確認した後、メランも援護射撃を開始する。


「白喰鳥、チャージ」


 鳥を模した数十発の魔力の塊がメランの背後に出現。メランは左手の人差し指でターゲットを指差すと放出の句を呟く。


「リリース」


 鳥は砂龍の周りを飛び回り黒き弾丸を放つ。貫通力に特化した弾丸は、微量ながら、しかし確実に龍鱗を越えて本体にダメージを与える。飛び回る鳥を撃ち落とすことは困難である。また、そちらの対処に気を取られるとマリーに自由な行動を許すこととなる。まさに正しく援護射撃である。砂龍はたまらず砂中に潜った。初めて見る行動である。メランには対処法が分からない。突如マリーは横に跳んだ。すると、マリーが立っていた場所から大口を開けて砂龍が飛び出した。彼女は回避する方策を有しているようだ。この調子なら問題ないように思われるが、油断は禁物である。鳥に封入した残弾数が減ってきているようだ。


「マリー!少し離れろ!」


 と指示を出した後、メランは鳥たちに最後の命令を下す。


「バーストっ!」


 鳥たちは一斉に砂龍へ突進し、爆発した。白喰鳥は弾丸にして弾頭でもある。大きな傷を負った砂龍は忌々しい鳥が消滅したことを確認するとマリーへの攻撃の手を緩め、回復に集中しようとする。


「マリー!」


「分かっているっす!」


 マリーは再び砂龍の懐へ潜り込み、ラッシュを浴びせる。砂龍はキレのない爪や尻尾による攻撃を繰り出すが、マリーはそれらをすれすれで躱し拳を叩き込む。天性の格闘センスという触れ込みは伊達では無いようだ。もちろんメランも次の魔法の準備に移っている。


「ヒドゥンビット、セット」


 黒い水晶のような物体が6つ現れ、すぐに透明となった。砂龍の周りをふわふわと浮かぶ。砂龍は破壊を試みたものの、見えないものを砕くことは難しいようで、なかなか上手く行かないようだ。しびれを切らした砂龍は咆哮による破壊を試みる。そう、ブレアに致命的な隙を与えたあの技である。しかし、この技の誘発こそがメランの狙いである。


「退避っ!」 「承知っす!」


 メランは握りしめた右拳を相手に向け、手首を左手で押さえた。夜を煮詰めたような黒が拳の先に生じ、増幅し、膨らむ。


「鏡像弾雨」


 やがて限界を迎えたのか黒が直線上に飛び出した。今まさに叫ぼうと状態を反らした砂龍の胸を貫く。それだけでは終わらない、光線は砂龍の背後のビットに衝突、反射し再び砂龍を貫く、その先には別のビット。高威力のレーザー攻撃が幾度も砂龍を貫くが、消費魔力は非常に少ない。とはいえ、戦闘中に光の反射を考慮してビットを配置するような芸当は並の魔法使いには出来るはずが無い。論理魔法は詠唱時間というデメリットがあるため、コンボ前提の魔法はほとんど存在しない。この時代ではメランのみが可能な攻撃様式である。起死回生の一手を封じられた砂龍は勢い良く倒れ込む。しかし絶命する様子は無い。次はどのような攻撃が来るのかメランが思案していると、マリーの悲鳴のような叫びが聞こえた。


「ああ、あいつ逃げる気っすよ!」


 どうやら砂龍は地中に潜り逃亡を図ったらしい。


(街の近くに巣を作るかもしれない。ここで逃走を許すと厄介なことになる。しかし、攻撃は間に合わない。どうすればいい、どうすれば食い止められる)


 脳をフル回転させ手段を思案するメラン。即興で魔法を発動する時間も無い。既に名前まで付けており、イメージが容易い不定形魔法から状況を打開できる物を選ばないといけない。一転危機的状況に追い込まれたメランだが、ここからが彼の本領発揮である。一つこの状況下で有用な可能性がある魔法を思い出した。精査している時間は無い。


「ファトアルス! 塗り変えろ!」


 これはメランが砂に足を取られないために作った魔法であるので、自分を始点とせず円形に広がるような使い道は考えていなかった。だが、可能性があるのはこの魔法のみであるように思われる。果たして…


 ―場所は変わり、トワナムのギルドである。


「20年程前に魔王を名乗るある悪魔族が人類に宣戦布告してから約7年、魔軍の幹部は英雄たちに軒並み倒され、遂に人類と魔王は直接対決と相成った。魔王は人類の予想よりも数段弱く、誰一人の犠牲も無く討伐された。魔王は、指揮やカリスマ性に優れた魔物であり、実戦の話になると弱かったのだと結論づけたが、実際にはそうでは無い。人類の思わぬ強さ、勢いに敗北を悟った魔王は、戦いが始まる前に転生魔法を使っており、代償としてその魔力の大部分を消失していたのだ」


 まるで見てきたかのように13年前の魔王戦について話すアズル。彼は言葉を続ける。


「魔王は転生先に高位の龍族を選んだ。人型を取ることが出来、適応能力に優れた龍族は、人類との戦いにおいて悪魔族よりも好都合だと考えたのだろう。転生魔法は、能力などを引き継ぐことは可能だが記憶を引き継ぐことはできない。よって転生先が次代の魔王として君臨するためには、早い段階での確保、教育が必要だった。そのために魔王は戦争末期に龍族の生殖を制限した。そして、自らの死の直後に最上級の龍族同士の番に一匹だけ子を産ませるよう命令した」


「あっ、あっ」


 ノエルは言葉を失う。このままでは全て暴かれる。逃げたところで根本的な解決にはならない。既に詰んでいる。


「魔王の死後、誕生した龍の子は力を継承した証である黒い魔力を持つことがすぐに確認された。変幻自在の黒い魔力と龍族特有の高い適応能力が合わさることで最強の魔族が生まれるという予感に震え、魔族達は歓喜した。そういうわけで魔軍の残党は直ぐに次代の魔王を迎えに上がったが、既に手遅れだった。龍の子は何処に消えていたのだ。当然魔軍は焦っただろうよ。何せ計画の要が消失したのだから。魔軍の残党は龍の子を≪黒き星≫と呼称し、人類との再戦においての最重要案件に据えた。その一環が冒険者ギルドの支配だ」


 ようやく話が核心に迫る。ノエルはただうなだれて審判の時を待つ。


「かつての冒険者ギルドには受付嬢という存在も身元引き受け制度も無かった。これらは、何らかの形で≪黒き星≫が人型を取り、人間の国に落ち延びている場合に、その存在を確保するための手段だろう。前者は≪黒き星≫を都合良く誘導するため、後者は≪黒き星≫をギルドに縛るための制度だ。俺はどうやら子育てに失敗してしまったようだから、メランは能動的に身元引き受け制度を利用したが、そうでは無い場合でも色々理由を付けて≪黒き星≫をギルドに縛るつもりだったのだろう。ここまでで何か反論はあるか?」


「どうして魔軍はわざわざ冒険者ギルドを支配したと?」


「冒険者ギルドは国境を越えて世界中に広がっているが、その運営体制は杜撰だ。それぞれのギルドと、プレイス王国にあるギルド本部との交流はほとんど無い。ここのマスターも本部が既に支配されており、お前がその尖兵であることは知らないだろう。しかし、それにも関わらず人々のギルドへの信頼は非常に高い。特に「子供が突然妙な魔法を発現した」というようなケースでは、一般家庭は真っ先に冒険者ギルドを頼るだろう。また、≪黒き星≫が奴隷商人の手に渡っていたような場合も、ギルドなら大手を振って子供を救出、保護できるだろう。この場合も身元引き受け制度が利用できる。まあ、冒険者ギルドを乗っ取ったのは、ギルドの権威を用いて人類を諜報するという役目もあったのだろうが」


「あまりにも遠回りすぎるわ。非現実的よ」


「冒険者ギルドを利用する利点は他にもある。ダンジョンは魔王の残滓が無秩序に魔物の巣を形成しているというのが冒険者ギルドの、すなわち一般的に知られている見解だが、それも嘘だ。他ならぬ冒険者ギルドが無害だとして放置しておき、いざ戦争が始まるとあそこから敵が湧き出す仕組みになっている。ダンジョンの生成や管理もギルドの、いやギルドを牛耳る魔物たちの管轄だろう。そしてダンジョンにはもう一つ重要な役目がある。そうだろ」


 遂にノエルは観念した。


「そこまで分かっているのなら降参よ。その先も予想が付いているんでしょ」


「ああ、各地のダンジョンにはギルドが≪黒き星≫を保護した際に、≪黒き星≫を育成もするという役目も兼ねている。例の火龍が最深部にいたダンジョンはメランの発見に呼応して現れた。主が龍族のダンジョンが、だ。明らかに作為的だ。メランはあのダンジョンを攻略することで当人も自覚するほど大きな強化を受けた。その現象はなんというのだったか」


「「同族殺し」よ」


 わざと知らないふりをするアズルに心底怒りを覚えながらも、悔しそうにノエルは答える。まだまだ彼女の苦難は続く。


 二回目ともなれば慣れた物で、犬は新入りをリードし散歩を進める。一方で女神のメッキが密かに剥がれ始めていた。


ここまで読んで下さり本当に、本当にありがとうございました。もし、「続きが気になる」、「面白かった」というような方がおられましたら、是非とも評価やブックマークをよろしくお願いいたします。今後ともどうかよろしくお願いいたします。

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