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第九話 鎖との対峙

旅行準備で投稿が遅れました。申し訳ございません。

 ―ここはトワナムから遠く離れた地、かつての人と魔物の戦争で魔物の王が居を構えた魔王城である。魔王が討伐された後に放置された悪の総本山に怪しい影が二つ。玉座に座る影と、主に傅き淡々と報告を上げる影。


「52号がやられたようです」


「ほう、其を成したのは何者だ」


「近傍のギルドに所属するAランク冒険者の剣士と、Cランク冒険者の魔導師のようです」


「前者はともかく後者は一体何者だ。Cランク冒険者程度に龍族の鱗を破ることは出来ないであろう」


「かの者は≪黒き星≫の可能性があります」


「それは本当か!我々が魔王様の死から暗躍してきた成果がようやく出るのか!」


「可能性は高いかと。私は引き続き諜報に参ります」


 そう残して影の一つは消えた。残された影は歓喜を隠しきれない様子で高笑いをした。


 ―舞台は戻ってダンジョンの最奥部。メランは座り込み、一人呟いていた。


「火龍を利用してブレアさんに傷を負わせた存在がいる。目的は不明だが許せない」


 母親のような英雄になるというメランの大目標は変わらないが、ここで新たに一つの小目標が生まれた。


「この一件の黒幕よ、聞いているか。お前は、いつか必ず僕の黒で潰してやる」


 そう呟いた少年の目には強い怒りが浮かんでいた。


 少し休んだ後メランは立ち上がりアンジェとブレアの元に急いだ。アンジェは懸命に魔法での治癒を続けている。


「火龍は倒した。状況は?」


「何とか間に合いました。恐らく死ぬことは無いと思います。メランさんが私に勇気をくれたお陰です」


 そう言いながらもアンジェの顔は暗い。少し迷っていたようだが、覚悟を決めたようで言葉を紡いだ。


「ただ、これほどの傷を負ってしまうと、冒険者としての未来は…」


 そう呟くアンジェの目には涙が浮かんでいる。メランはこの二人の結末を悲劇にしたくはないと感じた。自分に出来ることは本当に何も無いだろうか。自分の魔法で治癒はできないのか。何か応用できる魔法は無いか。肝心な無力な自分のままで良いのか。


「認めない」


「メランさん?」


「そんな結末認められない。僕が許さない」


「メランさん…」


(考えろ、「癒やしの黒」の可能性を諦めるな。どれだけ無茶な解釈でもいい。可能性を拡張しろ。今の僕にはそれが出来る力があるはずだ。思考を止めるな。思いを絶やすな。記憶を、知識を、経験を、力を、全てを総動員して目の前の二人を救う手段を考えろ)


 そして気付いた。答えは単純だ。今まで通り魔力を変形するだけで良い。


「インスパイアキャット」


 魔力を生命力に変換し、黒猫をイメージとした魔力塊に封入。黒猫はテクテクと歩いてブレアの中に飛び込んだ。少しずつブレアの傷が消失していく。メランは大好きな猫に癒やしのイメージを託すことで、未だ誰も成し遂げていない黒魔法による回復を可能とした。普通の回復魔法とは原理が違うもののれっきとした治癒効果を他者に与える魔法である。


「えっ、えっ」


 さしものアンジェも驚くことしか出来ないようだ。


((今の自分にできることはやった。どうか目覚めてください))


 二人はブレアの周りで祈るように立ち尽くしていた。すると、


「あれ、アタシは確か…」


 遂にブレアは目を覚ました。傷もそこまで深刻では無い。目の前の二人を見て、状況を認識するのに少々時間がかかったようだが、やがてよろよろと立ち上がり弱々しく二人を殴りつけた。


「っこの馬鹿どもがっ。来るなと言ったろう」


 単純に感謝したい気持ちと命令違反を叱らないといけない義務の板挟みになったブレアはとりあえず二人に愛の鉄拳をお見舞いした。


「補助魔法が消えたとアンジェから聞きました。一大事だと思い命令違反を犯しました。全ての責任は僕にあります」


「いいえ、私が悪いのです。補助魔法が消えた時、どこかでメラン君なら一緒に言いつけを破って助けてくれるかもしれないと期待したんです。私が焚きつけたも同然です」


「いいや、僕が悪いね」 「悪いのは私です!」


 庇い合う二人の姿に感じる者があったのかブレアは笑って言った。


「二人が来なかったらアタシは死んでいた。素直に礼を言うぜ。今回の一連の出来事を知るのはアタシたちだけだ。上手いこと誤魔化せるだろう。一緒に考えようぜ」


「ブレアざぁあん!」 「お姉ちゃぁぁん!」


 二人はブレアに飛びついた。ブレアは一瞬戸惑ったものの、すぐに二人を強く抱きしめた。今度こそ一件落着である。話し合いの結果、メランがダンジョンの道中で治癒魔法に目覚めたため、後衛二枚態勢で主の攻略に挑んだという筋書きが作られた。変なところで律儀なブレアは、途中で自分が倒れ、メランが止めを刺したと言う結末部分は変えるべきでは無いと強く主張したため火龍討伐戦の功労者は正しくメランとなった。ブレア曰く、


「冒険者にとって何より大切なのは実績だ。アタシは後輩から実績を奪うような真似はしたくない」


 らしい。こうしてメランは後年入団数ヶ月にして火龍討伐を成し遂げたルーキーとして語り継がれるようになった。彼の英雄譚は始まったばかりである。


「ところで、メランはいつ着替えたんだ?」


 ブレアは単純に不思議なようで質問する。


「火龍の骸が動いて襲いかかってきたときに試してみた新技です。火龍の攻撃を完全に防いだ優れものですよ」


「…今なんて?」


「僕の新技です!火龍の炎や爪を防ぎました」


「また進化してやがるのか。一体メランはどこまで成長するんだ」


「いや、お姉ちゃん反応薄いよ!! これは本当にすごいことなんですよメランさん! 回復魔法と補助魔法の両方を使える黒魔導師なんて前代未聞ですから!! ぜひ解剖させてください!!!」


「はは、解剖は遠慮したいな。まあ、これで可能なことが、救える人が増えたのなら僕は嬉しいよ」


 三人は主部屋前の広場に戻ると、戦いの傷を癒やすために少し休息を取った。帰りも数ロックかかるので、アンジェが持っていた携帯食料を食べ、交代で一人ずつ仮眠をとることにした。


 ―時はブレアが寝る番である。アンジェは改まってメランに向き直った。


「今回は本当にありがとうございました。私一人ではきっとお姉ちゃんを死なせていました。いくら感謝しても感謝しきれません」


 アンジェはメランをじっと見つめ夢見心地で呟く。その様子に、少し前までとは違った種類の想いの存在を感じ取ったメランは


「いいや、僕一人だけでもきっとブレアさんを死なせていた。お互い様なんだよ。そうかしこまることはないさ」


 と距離を置こうとするが、


「これは私の想いの問題です。あなたが今回の件をどういう風に捉えているかは、この際関係ないのです」


 と言いながら構わずアンジェは少しずつ距離を詰める。その顔は、例え暗視魔法がかかっていなくとも十分に分かるほど紅い。メランは慌てて後ずさるがすぐに壁際まで追い詰められた。


「もしあなたが私に勇気をくれなければ、お姉ちゃんは助からず、私も精神もきっと壊れていました。私の心を、お姉ちゃんの命を救ってくれたのは紛れもなくあなたです。私があなたに心を捧げることになんの不思議がございましょう?」


「いや、ここはダンジョン内部で、しかもブレアがすぐそばで寝ているんだぞ。ムードも何も無い。後にした方がいいだろっ」


「あら、私はあなたに何かするとは言っていませんよ?何を想像されたのでしょう」


「何もしないというのなら、じわじわと距離を詰めるのをやめろっ」


 生活力、雑学、魔法の腕、どれをとっても並の大人以上の実力を持つメランだが、これまでの人生で「そういった経験」は無く、恋愛方面ではただのうぶな子供である。


「あなたに深く感謝しているのは本当です。私の想いどうかお受け取りください」


 そう言うと同時にアンジェは動く、メランの左頬に柔らかな感触が触れた。ビクッと肩を上げた後に、何かを確かめるかのように頬をなぞり、あたふたするメランの様子を見て微笑むとアンジェは離れた。


「今はこれだけで勘弁しておきます。これから覚悟してください」


 という言葉を残して。


 ―今度はアンジェが仮眠を取る時間である。


 アンジェが寝入るのを確認した後、ブレアはメランの方を向いた。メランはデジャヴを感じたので、こっそり逃げる準備を整える。


「今回はアタシを助けてくれて本当にありがとうな。お前を連れてきて良かったぜ。いくら感謝しても感謝しきれねえ」


 やっぱり姉妹かとメランは奇妙な納得を覚えつつ、先んじて距離を取る。先程までの弱々メランでは最早そこにはいないのだ。


「そうかしこまらないでください。あなたの命を救ったのはアンジェです。僕はその手伝いをしただけです。」


「これはアタシの思いの問題です。メランが今回の件をどういう風に捉えているかは、この際関係ないんだ」


 話しながらも、メランはブレアの言動に違和感を覚える。姉妹で似ているとは言えいくらなんでもデジャヴが過ぎないか。そういった視点から先程の会話を振り返ると恐ろしい事実に気付いた。


「ブレアさん、もしかしてさっきのアンジェとの会話聞いていました?」


 ブレアは悪戯っ子のように笑うとメランの恐ろしい予想に答えた。


「バレたか。アタシは眠りが浅いからな。大体は聞こえていたぞ」


 恥ずかしさのあまり倒れそうなメラン。何とか気を取り直してもう一つの気になることを尋ねる。


「アンジェさんはそのことを?」


「もちろん知っているぞ。おおかた牽制のつもりだろう。あいつはああ見えて強かだからな。でキスはどちら側に?アタシは反対側にしてやるぞ」


「ふざけないでください。からかうにも限度がありますよっ。自分を大切にしてください!」


 と言うとブレアは心外そうな顔をしてメランの勘違いを解いた。


「いやいや、この想いまで冗談扱いされたらショックで泣いてしまうぜ」


「えっ?」


 ブレアは一瞬でメランの目の前に移動すると、目の前の細い体を抱き寄せ、左頬に静かに口付けた。


「アンジェも左にしたんだろ。これはアタシなりの宣戦布告さ」


 ブレアは捕まえた獲物を離そうとしない。結果アンジェが起きるまでの間、メランはブレアに抱きつかれたままだった。そしてアンジェは目を覚ますと、すぐさま二人の様子を見て驚愕、激怒した。


「二人とも何をしているのですかっ!?」


「え、愛情表現だが」


 けろっと答えるブレアの様子に何を言っても無駄だと感じたアンジェはメランの方を見て、


「メランさんも拒絶してくださいよぉ」


 と泣きそうになりながら主張する。メランは気まずそうに


「いや、力が強くて抜け出せなくて」


 と弁明するが、ブレアは楽しそうに


「えぇー、ショックだぜ。最後の方はメランからも手を回してくれたじゃないか」


 と更なる燃料を投下する。メランは疲労もあってその後すぐに寝てしまったため、二人の間でどのようなやりとりが起きていたのかは知らない。メランが起きると二人の顔には見慣れぬアザができていた。しかし先程よりも晴れやかで仲が深まった様子でもあった。


 一行がダンジョンから出ると既に朝日が昇っていた。彼らはほぼ丸一日ダンジョンに籠もっていたようだ。魔物は全滅しているとはいえ上り坂、帰りの道のりもなかなか大変であった。


 そうしてギルドに戻る頃にはすっかり始業時間。報告などの役割分担について話しながら街を歩いていると、ギルドの前に見慣れぬ、いやメランにとっては見慣れた人影がある。


「おい、メラン」


 メランにとって聞き慣れた声が、十三年間ずっと聞いてきた声が聞こえた。


 犬は恩人のために必死に報いる。その結果多くの人間に愛されるようになる。臆病な元飼い主はそれを許すことが出来ない。

ここまで読んで下さり本当に、本当にありがとうございました。もし、「続きが気になる」、「面白かった」というような方がおられましたら、是非とも評価やブックマークをよろしくお願いいたします。今後ともどうかよろしくお願いいたします。

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