日本刀とハンドガン
目を開けばあたり一面が真っ赤に染まっている。耳は銃声や断末魔だけを拾い入れる。鼻は鉄錆のような匂いを受け入れる。皮膚はべったりと他者の体液がこびり付いている。
「いい加減にして欲しいよ」
左手には鞘に収められた日本刀右手には小さなハンドガンを持つ少女が血の海をローファーで優雅に歩いて行った。
「おい、ガロノス良い加減に私を訳のわからん戦争や討伐部隊に入れるのはやめろ」
昼食を取るにはまだ少し早いかという頃、重たそうな扉を勢いよく開ければ優雅に紅茶を飲む男に銃を向けた。だが、それを見た護衛騎士、執事、メイド誰一人止めたり取り押さえることをしない。たった今命の危険に晒されているのが国のトップであるというのに。
「やぁおはよう。夜紅今日は少しお寝坊さんかい?」
そして武器を向けられている当の本人が一番厄介だった。見た目はすこぶる良い割に中身はふわふわしていてどうにも国を治めるには向いていないようなタイプだ。そして何より人の話を全然聞かない。
「いいか主人を持たず淡々と任務をこなすのが私の仕事だ。それが何だ他の仕事を受けれないくらいに荒い人使いをする。良い加減にそろそろ解放しろ!」
「えぇー任務を与えれば誰にでも何でもしてくれるならずっとここにいたって良いじゃないか。俺たちの仲だしもうこのままここに務めればいいのに」
「なにを馬鹿なことを!!!」
夜紅は良くいえば何でも屋いわば善人。逆にいえば言われれば殺しだってやる裏の人間つまり悪人だ。もちろん裏社会で顔が割れれば命の危機に晒される為常に狐の仮面を被っている。だが幼馴染のガレノスの前では無意味な事でもはや仮面や性別を隠すためのマントなんてものは必要なかった。
「だって、裏で生きていればどんなに必死に隠しててもいずれ正体がバレる。なら全てを知っている僕の元で働けばそんなリスクもなくキチンと仕事も行える。悪くないんじゃない?」
そしてガレノスがふわふわな脳内で国の頂点に立っていられる理由は肝心な所でキレる頭も勘も持ち合わせているからだ。さらには口も上手く駆け引きが得意だ。そして夜紅もまんまと乗せられるのは幼馴染としての優しさだった。
「分かった。私が折れてやる。そのかわり報酬と普段の生活水準は高めに頼むよ」
「うん。りょうかーい。あ、お昼の後に早速仕事をお願いするよ。食事後にメイドさんが諸々準備してくれるはずだからヨロシク」
にっこりと笑うガレノスは百人の女性を一度に虜にするだろうが夜紅にとってはこれも交渉の手段としてしか見れない。これが幼馴染が故のというやつだ。大人しく扉の向こうに踵を鳴らしながら消える夜紅を見送り最後の紅茶を飲み干す。
「ねぇねぇ、セバス今日の夜紅も凛々しくて可愛かったね」
「左様でございますな。大人びた美しい女性でございます」
「はぁー早く俺の元で大人しく幸せになればいいのに」
「はーお腹いっぱい。もう下げて大丈夫よ」
近くのメイドに食事を終えた皿を下げさせれば次は丸縁眼鏡のメイドが着替えの準備ができたからと全身鏡の前に立たされて三人がかりでされるがまま身支度をしていた。
「ロゼ、そういえば仕事の内容ってなに?」
「今回はスライム討伐ですね。概要はこちらに」
本来スライム討伐は下級の任務で冒険者なら皆倒せてしまう簡単な内容の為夜紅の元に回ってくる事はないのだが渡された書類を見たところどうにも数が多く倒してる間に倍の数が増えるという連鎖が起きているらしい。その為上級任務に昇格したという。
「なるほどねぇ、じゃあちょっと行ってこようかな。皆着替えさせてくれてありがとね」
日本刀と太もものベルトにハンドガンを挿し黒いセーラー服と肩程度の長さの髪を靡かせながら城を後にした。