4つのサイコロ
きっと神様たちはこんな感じで世界を眺めているのかもしれない。作者の想像回です。
肌寒い風が吹き始めた頃。夜もふける夜空の下、一軒のバーの下にいかつい漢たちが集っていた。
宙に3個のサイコロが投げ放たれる。次第に回転数を上げ、空中に数秒とどまった後、それぞれの目を出し始めた。
「ハハハ。どうなると思う?」
グラスに入った氷をカラリと揺らし、不敵な笑みを浮かべ、顎を傾げ挑発をする氷の巨人ロキ。
「いや? 未来はまだ分からないぞ?」
真っ赤な燃え盛るような髪をかき揚げ、薄ら寒い冷酷な笑みを浮かべる邪神セト。
「まあ、結果次第では世界を順番に壊そうや。」
ワインの瓶を叩き壊し、破片を宙に浮かせ次々に口へと頬張っていく破壊神シヴァ。
「あのお。そろそろおれ帰っても良いですか。ヒッ。やっぱ何でもないです。」
みんなに囲まれてビクビクしている最高神がいた。なんか格が違いすぎてすみません!
「おい。もうちょいゆっくりしていけよ!?」
「思考破壊して欲しいなら言え。」
首筋に氷のナイフを突き付け、うっすらとなぞられ血が滲みだす。
「あのう! ほら。何か動きがありましたよ!? ね、ほら!」
何とか刺激をする事なく、注意をそちらに向けて頂く事にした。
*****
ちょうど同じ頃。この国ではまだ夕方になったばかりであろうか。
職務室の机に突っ伏している令嬢がいた。腕枕をし、首筋を痙攣させていかにも凝っていそうな肩を弱々しく持ち上げている彼女。
しかし、どうやら、考え事は仕事の事ではないようだ。
「ああ。私はどうやらおかしくなってしまったようだ。」
小声で誰にでも聞かせるわけでもなく、言葉は紡がれる。
どうして、この年にもなって恋を知ってしまったのだろう。今まで通り、変わらぬ日々が続くはずであったのに。
昨日、偶然社交界のパーティーに一緒に参加した、令息の柔らかく温かな手の感触が今でも手に残っている。
夏の陽射しに照りつくされるひまわりのように。この気持ちは温かくなっていくばかりだ。
しかし、今さら自分の気持ちに素直になるのって難しいのだ。年齢に限らず不得手な事ってやっぱりある。
それに相手も相手だ。まさかあんな奴に恋焦がれる日が来るとはな!
だって。今まで自分の興味を持ちそうにないタイプで。
異世界から転生して来たという少し頭が残念なメイドに教えてもらうと、それはショタの分類に当てはまるらしい。
でも、年齢がってわけではなく、細かく言うと、童顔で小柄で華奢な体型は合法ショタというらしいのだ。
別に嫌いなわけじゃない。ただ、異性との恋愛に興味がなかっただけなのだ。
その令息は社交界では軟弱者で腰抜けと大変な悪評がたっている。
みんなにはそう見えるのだろうか?
彼の良さがみんな理解してくれていないようで、私はとても悲しい。なぜだろう。他人の評判でこんなにも心動かされるとは。私もまだまだ未熟だな。
涙目でふて寝をかましていると、メイドがドアを激しくノックしてきた。
「お嬢様、本日お送りした書類のご返事で、ロミオッチ様が直々来られています!」
「なんだと!? ふむ。髪型とドレスはこんな感じで問題なさそうか?」
「ええ! お綺麗ですよ! お嬢様!」
「では、行ってくる。」
「陰ながら応援しておりますわ!」
私はまるで今から荒れ狂う獅子に挑むような思いをしながら、応接間へと向かう。
「お待たせしました。エストレア・ヴァン・ジェリオッテと申します。わざわざご足労いただき大変ありがたく存じます。」
「急に尋ねて来て申し訳ないです。どうしても、あなたに私の気持ちを直接お伝えしたくて。」
「まあ。」
「何からどうお話ししたらよいのやら・・・。」
頬を僅かに紅潮させ、彼は幼げな顔を真剣に引き締めて見せる。
か、かわいい。息を忘れてしまうほどに。
「わ、私は、あなたの事をとても誠実そうで、優しそうで素敵な女性だと思っており、」
「あの。私のうわさ話は気にならないのでしょうか!」
「みんなにはあなたの良いところがまだ見つけきれていないのです。冷血で鉄仮面の令嬢ましてや悪役令嬢だなんて、言語道断です!」
普段の彼からは想像もできないような勢いで彼ははっきりと言い切った。
「そ、それにみんながあなた様、ジェリオッテ様にどういった印象を持っているかなんて、関係ないのです!」
世間の評判や肩書きに惑わされない、確かな自信を持ち合わせた眼力で彼は決意を示したのだった。
*****
「なあ。サトゥー。お前もこいつらが上手くいくかどうかで賭けろよ。」
そして、サイコロはまた一個投げ出され、ゆっくりと宙を舞い、一つの目を表していくのだった。
新キャラ紹介♪
エジプト神話 戦争と砂漠の神セト
インド神話 破壊神シヴァ
北欧神話 氷の巨人ロキ
侯爵令嬢:ジェリオッテ
侯爵令息:ロミオッチ
3人ともサトゥーが何となく気に入っているそうです。




