ツンデレvsヤンデレの幼馴染み対決に俺を裏切った筈の元カノが参戦したら、そこは修羅場でしかありませんでした。
「東矢!」
「とー君!」
『どっちと付き合うの!?』
放課後の教室、2人の美少女に詰め寄られる幸福者、それが俺若林 東矢。高校2年生、加えて言うなら学園一の不良児。
現在、そんな俺の両隣でバチバチやり合っているのは2人の幼馴染み。
「ねぇ東矢!いつになったらどっちを彼女にするか決めてくれるの!」
俺を東矢と呼び捨てにする勝ち気な女の子が倉橋 泉。
茶髪をポニーテールで纏め、クラス……いや学園で超がつく人気者だ。
びっくりするくらいスタイルが良く、モデルにもスカウトされる程の自慢の幼馴染み。
そしてもう一人──
「とー君……まさか他に好きな人が居るの……?もしかしてまだあの女を……!!」
純黒の髪を真っ直ぐに伸ばした大人っぽい女の子が葵 遼香。
こっちはこっちで超がつく美人で、若干暗い雰囲気があるがミステリアスな所がまた良いと、これはクラスの男子の言葉だ。
実際スタイルだって泉に負けてない。
胸は若干泉の方が大きいか……?
2人は昔からの知り合いで、家だって俺の両隣だ。
小さい頃はよく3人で遊んだっけな。
中学くらいから思春期真っ只中な俺が勝手に距離を取って、高校生になって落ち着き出してまた話すようになった、そんな2人。
が、それがどうしてこんな風に詰め寄られるのかと言うと──
「1週間前言ったよね!?あたし達2人、どっちか選んでって!」
「そうだよとー君!私……もうあんな女に奪われるくらいならせめて泉ちゃんでも良いからどっちか選んで欲しい……!じゃないと……私……何するか分からないよ……?」
ちょっと遼香さん?昔からそういう事言うの怖いんだからね?
──はぁ……とりあえず少し説明しようか。
俺には約2ヶ月前、恋人が居た。
彼女とはそれ程長い付き合いじゃなかったが、俺は本気であの子に恋をしていた。
それなりに良好な関係を築けていたと思ってたんだけどな。
ある日のデート終わり、いよいよファーストキスをしようかと言う場面で、彼女が近付けた俺の唇を手で抑えて一言。
『あ、ごめんあれ嘘告だからさすがにキスは無理』
そう言って恋人関係はその日で幕を閉じた。
いやそもそも恋人では無かったのだ。
今思い出しても泣ける……!!
うぅ……俺、あの子にファーストキスを捧げるつもりだったのにぃ……!
まぁ過ぎた事は仕方ない……
それに今の俺には過去の女の事を考えてる余裕はない。
「ふ、2人の気持ちはマジで嬉しいよ!だけどそんないきなりどっちか選べって言われてもさ……」
俺は両手をブンブンと振って泉と遼香、2人に笑顔を向けた。
2人の気持ちは本当にめちゃめちゃ嬉しい。
だってこんなに可愛い幼馴染みが俺の事を好きだなんて言ってくれてるんだぞ。
だけど、今の俺には2人の気持ちを受け止めて、さらにどっちかを選ぶなんて出来ない。
……やっぱりさ、あの"無理"は結構きつかったんだよ。
「元カノがまだ好きとかそういう訳じゃないんだ……ただ単純に今はやっぱまだ彼女を、とかはしんどい……かな……」
「とー君……」
「ごめん東矢……」
2人が謝る事じゃない。
この告白だって傷付いてるであろう俺を思いやっての事だろうしな。
俺達3人が俯いて静まり返っていると、その静寂を破るように教室のドアが開かれた。
「あー♡東矢君ここに居たんだぁ~!ね、ちょーっと一緒に来てくんない?♡」
甘ったるい猫なで声で俺達の前に現れたのは清楚な見た目のクソ女。
見た目は一見大人しそうだがスカートは短め、髪は毛先を若干遊ばせている清楚系ギャル。
校則フル無視の格好なのに清楚さが残る俺の元カノ。
「……何の用だ──九条……」
「なに九条って~!前みたいに芽理愛って呼んでよ~♡」
九条芽理愛、俺の告白現場に居合わせるには最悪の相手だな……
……両隣の幼馴染み2人が今にもブチギレそうだし。
「ねぇ東矢。だーれ?この子。て言うか邪魔だからどっか行って貰ってくんない?」
「とー君、泉ちゃんの言う通りだよ~。そう言う訳なので九条さん?出てって貰える?」
ふ、2人の目が笑ってない……!
と言うか絶対気付いてるだろ!俺の元カノだって!
九条は俺の両腕を取って睨みを利かせる2人を意にも介さずスタスタとこちらへ歩いて来た。
そして九条も笑顔(恐怖)で俺の眼前まで迫った。
「東矢君。この女達、誰?」
それは先程とは違い低く冷たい声だった。
「え……誰ってお前も知ってるだろ2人は──」
「知んないって。ってか良いから来てって」
九条が俺に引っ張る腕も無いので、胸ぐらを掴もうと右腕を伸ばした瞬間──
「あのさぁ、東矢に触んないでくれない?」
「死にたいんですか……?」
泉と遼香が、跡が付きそうなくらいに強く九条の右腕を掴んだ。
おぉ、なんだこの修羅場っぽい雰囲気!?
「いたっ……!」
「はぁ?あんたに痛がる権利とか無いから」
「とー君はもっと痛かったんですよ……?」
ぐぐぐ……とさらに力を強める2人を見て、俺は思わず声を荒げてしまう。
「や、やめろって2人とも!!」
『……!』
俺は両腕を引っ張って九条から2人を引き剥がした。
「分かったよ、行くからもう九条も2人を刺激しないでくれ」
「……そ、そう。付いてくるならそれで良いわ。行くわよ……」
俺が九条の方へ歩き出そうとすると、両腕にはまだ2人がしがみついていた。
「とー君……駄目。行かないで」
「そうだよ!あたし、そいつに付いていくならもう知らないよ!?東矢の事嫌いになるよ!?」
んなこと言って嫌いになんてならない事を俺は知ってる。
だから悪いな──
「先帰っててくれ。九条、どこに行くんだ」
「あはっ♡良いねぇ、こっちだよん♡」
俺の腕を引っ張る九条と共に教室を後にする。
横目でチラリと見た泉と遼香の顔は本気で怒っているように見えた。
※
「ここは……」
俺が連れて来られたのは屋上。
かつて九条が俺に告白をした場所だった。
俺は腕を引っ張るのを止めた九条を睨んだ。
「お前、本当に何のつもりだ。はっ、まさかまた告白でもするつもりか?」
恨みを込めて嘲笑うように俺は言った。
もう騙されたりしない。
ここまで来たのはあのままじゃ泉と遼香が本気で喧嘩しかねなかっただけだしな。
後はこいつの目的を聞いたらそれでおしまい。
その筈だった──
「……私の事、恨んでる……?」
「……!」
それは俺のよく知る九条芽理愛の声色。
甘えたような気色の悪い声じゃない、表情だって自然なものだった。
──俺が恋した、九条芽理愛がそこに居る。
「何とか言ってよ……」
何も言葉に出来ないでいると、彼女は上目遣いで俺の頬に触れてきた。
心臓がどくん、と跳ねたのに気付く。
……騙されるなよ俺。
こいつは男を騙して付き合うような女だ。
こんな奴に対する答えなんて決まってるだろ。
「恨んでるに決まってるだろ。人の気持ちを弄びやがって……!」
「……」
九条は何も言い返しては来ない。
……どうしてだよ。
お前は俺を裏切ったんだろ……
──そのお前がどうしてそんな悲しそうな顔してるんだよ……!
「……私さ」
「……?」
ぽつりと呟いた九条は、俺の耳元に口を近付けた。
そして誰も居ない屋上で、誰にも聞こえないように囁いた。
「私、東矢君の事……ずっと好きだから──」
耳元に寄せた唇は気が付くと俺の唇と重なっていた。
俺にはそれを避ける事も拒む事も出来なかった。
捧げると決めていた相手とのファーストキスに、思考力なんて一瞬で奪われてしまっていたんだ。
数秒が経った後、九条は俺から離れて教室に入って来た時と同じような雰囲気で笑った。
「ププっ♡どー?裏切られた相手にお情けでキスして貰った気分はー??じゃあね、バイバーイ♡」
九条はそう言ってスキップをしながら屋上を出て行った。
俺は彼女に何も言い返す事が出来ず、ただその背中を見つめるだけだった。
夢に見たファーストキスが涙の味だったから──
※
若林東矢君はこの学園ではちょっとした有名人だった。
美人な幼馴染みが2人も居る、ただそれだけでじゃないよ。
彼ね、ある事件が原因で退学一歩手前だったの。
その事件の原因がこの私、九条芽理愛。
私は昨年の生徒会選挙で生徒会長に立候補した。
この学園で生徒会長っていうのはかなり強力な権限を持ってるの。
私にはやりたい事があったから一年生ながら立候補したんだけど、上級生に目を付けられて裏から手を回されて落選しそうになってしまった。
上級生のイジメは壮絶で、私はもう学校になんて行きたくないってくらい追い込まれちゃったんだ。
──そこを救ってくれたのが東矢君だった。
東矢君ってば無茶苦茶でさ、ほとんど喋った事も無い筈の私を自分を顧みずに助けてくれたの。
理由を聞いたら「クラスメートを助けるのは当然だろう?」だってさ。本当カッコいいよね。
でも結局生徒会長にはなれなくってさ、私のイジメは無くなったけれど標的は東矢君に移ってしまった。
東矢君のおかげでその上級生達も生徒会長にはなることは無かったんだけど、その時の行動をそいつらに撮られてて今だって退学になる可能性がある。
──だったら私が出来る事は一つしかない。
「……ほら、見てたんでしょ。言う通りにしたわよ」
三年生の教室、そこに集まっていたのは数名の女生徒。
その中心に居る女が桜庭 美弥。
私達を追い込んで弄ぶ最悪の女だ。
「きゃはっ、本当に言われたらキスしちゃうとかきっしょ~!」
机の上に座り、女王のように高らかに笑う女に同調するように周りの女達も笑い出す。
……約半年、私はこいつらの指示通りに動いて来た。
東矢君に告白をしたのも、東矢君とのキスを拒んで心を折ったのも、さっきキスをして最低の回答をしたのも……全部こいつらの指示。
東矢君からしたらもう思い出したくもない最悪の相手からのキスだ。
……心が痛くてたまらない。
けれど、例え東矢君には心が傷付いてもあの幼馴染み2人が居る。
退学にさえならなければきっと大丈夫。
だから──
「もう十分でしょう!?東矢君は私なんかからキスされて凄く傷付いてた!だからあの動画を──」
「あぁ、これ?」
桜庭はスマホを取り出して私に見せ付けてきた。
「ほんっとムカつく……こいつが出て来なかったらウチが生徒会長で今頃楽しい生活になってたのに……!!」
「今すぐそれを消してよ!!」
「はぁ?消して下さい、でしょ?ってかなんでタメ口なの?」
「っ……消して……下さい。お願いします……」
「口だけー?誠意が見えないなぁー??」
「……」
私は床に膝を付いて頭を下げた。
大丈夫、東矢君の為ならこれくらいどうって事ない。
「……どうかお願いです。もう東矢君を解放してあげて下さい……」
「きゃははっ!んーどうしよっかなーー!!」
桜庭の周囲もニタニタと笑い、女王の言葉を待つ。
「ん、そうだ!こういうのはどう!?」
喋り出した桜庭は周りに大袈裟な手振りで自分の意見をアピールした。
「あんたさ、あの男を階段とかどこでも良いから突き落として来なよ。別に殺さなくて良いからちょこーっと痛い目遇わせるの。そしたら許してあげる!!」
その言葉に周囲は堰を切ったように笑い出した。
異様な光景だ。
人一人を死ぬかも知れないような目に遇わせるなんて……!
「ま、待ってよ……!そんなの出来る訳……!」
「あっそ、ならこれ学園に提出するだけだし」
「……っ!」
どうすれば良いの……!?
もう私には無理だよ……!
これ以上東矢君に、私の大好きな人に酷い事なんて出来ないよ……!!
お願い……誰か助けて──
「はぁ……なるほど、そういう事」
「やれやれ困った上級生さん達ですね」
ガラガラと突然現れたのは2人の美少女。
あれは、東矢君の幼馴染み……?
「泉ちゃん、とー君にはこんなの見せられないね」
「だね。遼香も絶対黙ってなよ──」
「分かってる。だって──」
2人は目を丸くしている桜庭達を睨み付けて口を揃えて言った。
『──ここからは修羅場だから』
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