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番外編 転入生 4

番外編です。

4話目になります。

本日4話同時に投稿しているので、こちらを先に見た方は1話目からどうぞ。

「君は、この世界に時折降り立つ《神に招かれし者》、だと思う」

「………へ?」


 いや、ちょっと待って? ヘミスフェアー先生、なんか情報過多だと思うよ?

私、自分の体が死んでるかも、という事実と、この場所が夢じゃないという事実と、それからもし夢じゃないんだったら私はなんでゲームの世界にいるの? という事実と、色々頭の中が整理出来ない状況なんですけど?

 それらのことが受け入れられたとしても、その神に招かれし者とか、意味判らないんですけど?


「神に招かれし者というのは、今の生とは別の者として生きた記憶を持っている者のことを言うんだ」


 別の者として生きた記憶? えええ? ということは、本当に私って……。


「まぁ、混乱しそうなことを立て続けに言ったから、間違いなく君は困るだろうが…。もう一つだけ伝えよう」

「……ん?」

「君も貴学院を卒業して、成人も迎えた。だから、私も遠慮することはやめようと思う」

「……?」

「君に婚約を申し込む。正式に男爵に婚約の申し込みをするのは、君から返事を聞いてから、と考えてはいるが…」

「………はっ! 今何かとんでもない空耳が!」

「おい。大事な話を空耳で誤魔化そうとしていないか?」


 私は先生の言ったことを頭の中で繰り返してみたけど、やっぱり空耳なんじゃないのかな、と眉間に皺を寄せながら考えてしまう。だってついさっき聞いたばかりの話の余韻が残ったままで聞いているのだから。

いやいや、ないでしょう。あくまでも教師と学生という立場でしか話をしたことがなかったし、お互いそういう感じもなかったと思うし。て言うか、私そんなこと思ったこともないのに。


「…いや、だって! 無理無理無理無理!!」

「酷いな、無理を4回も繰り返すとか! それより断りの返事にしちゃ、雑すぎるだろ」

「だ、だって! 私先生のことそんなふうに考えたことなんて、全然…ない、し…」

「別にそれは分かっていたことだから、気にしなくていい。ただ、今後君のことを振り向かせるという話だし、その為には手段をえら…んん、最善を尽くすよう努力するさ」


 慌てた私が思い切り顔を左右に繰り返し振りながら無理を連呼したことが、先生の機嫌を損ねたと思う。低く唸るような先生の声に一瞬ビクッとしてしまう。

なんとかそれに答えた後、不穏な言葉が聞こえた気がしたけど、聞かなかった振りをした。先生が私の頭に軽く手を置いて、なぜか撫でている。つい、叔父さんにも小さい頃よく頭撫でてもらってたな、と思い出していた。


「……ということは、ですけど。ヘミスフェアー先生は私が先生を拒否するとか、拒絶するとか一切考えてない、そういうことですか?」

「まぁ、最悪は既成事実でも作ろうか、と」

「……既成事実……だと!?」


 私は先生の衝撃的な言葉を聞いて、頭がパーンと弾けた感覚がした。それから、今まで情報過多で混乱していたことがどうでもいいというくらいに、遠く遥か彼方に飛んでいった。

さっき聞かなかった振りした言葉より過激なのでは? 本当、なんか異世界に転生したかも、それがゲームの世界かも、とかもうねーどうでもいいよねーって思うでしょ!? いきなり結婚申し込まれて、挙句の果てには既成事実とか言われたら!!!

 私は目を薄ーくして、先生のことを大人としてそれはどうなのか? と思いながら見ていた。


「…先生って、不良教師だったんだ…」

「不良教師って、一体どういう評価だ? 学生に手を出したら拙いだろうが、もう君も卒業したしな。口説いてる相手の同意があってのそれなら、問題ないと思うが」

「いや、だからって! 私言いましたよね!? 私の気持ちはまだ十三歳くらいの子供なんですってば!!」

「そうか、だったら君の気持ちが大人になるまで待てばいいのか?」

「え?」

「言っただろう? もう遠慮はしない、と。だが、無理強いはするつもりもない。だったら、待つだけだから」


 訳が分かりませんが? と、言いたい。言いたいけど、攻略対象だけあって無駄に美青年な先生は、自分の顔の良さを分かった上で私を見てくる。そして思い出したけど、私…先生をたくさん攻略するくらいには顔がすっごく好みだった…。

 攻略するつもりがなくなったこととか、先生の年齢が叔父さんと同じくらいとか色々あり過ぎて、先生に対して男の人とか、異性とか、そういうのを考えてなかったよ。でも、ゲームでは先生を攻略した回数は、他の攻略対象よりも多かったのは事実だったのを改めて思い出して、困っている。

 気が付けば先生は、私の手をそっと先生の掌にのせていた。まるでエスコートをしようとしているみたいだな、と思った。その途端に先生は膝を折り、腰も折り、私の指先に優しくキスをした。

 いくら中身がたかだか十三歳のローティーンだからって、知識がないわけじゃない。漫画だってそういうことを描写してるのを見たことがあるし! でも、まさか自分がそういうのされるとか思わないじゃない!! それに日本人の記憶があるから、そんなことに…慣れてるわけないしー!!

 自分の顔が異様に熱く感じられて、間違いなく赤面してしまっているのが分かった。うん、すごく恥ずかしくなった時にも同じような感じになったことがある!

顔を上げた先生は、とても生真面目な顔をしてたと思う。そして私の目を真っ直ぐに見て、こう言った。


「フローラ嬢、私と結婚してほしい。君の為にならこの命を投げ打ってもいい。君の真っ直ぐで真面目なところを好ましいと思った。

気付けば君を目で追うようになっていた。君が友人となった令嬢達と良好な関係を築くために彼女らを気遣い、いつも笑顔でいたことを知っている。

何より君には裏がない。そして清らかだと感じられる。私の理想だとも感じている。どうか、私と結婚を考えて欲しい。君が不安になるようなことがないよう、必ず君を守るから。だから、どうか…」


 私はただの小娘でしかない。誰が見なくたって分かる。何の力もなくて、特別な能力もないような、ただの子供でしかないような私のことを、先生は一人の人間として、大人として、扱ってくれてるのが伝わってきた。

それと同時に私を女の子じゃなくて、女性として、見てくれていて…本当に、気持ちを…向け、てくれてる…のが、伝わってきた。すごく、困る。どうしよう…本当困る。どんな顔すればいいの? 視線を彷徨わせそうになる。でも、先生から目を逸らせない。


「……先生、あの…私は、まだ…そういうことを、考えられなくて…だから、えっと……どう言えば、いいのか…分からなくて…」


 私の戸惑いは充分判っているんだと思う。私がすぐに答えを出せるはずがない。だって、先生は貴学院で教師をしてるけど、本来は伯爵家の次男だったはず。つまり男爵家の私よりも家格が上の令息。私が…というよりも男爵家が断れない婚約の話、とも言える。先生は待つと言ってくれてるけど。


「君は断ろうと思って言葉を選んでる?」

「! そ、ういう…ことじゃ、なくて…」

「じゃあ、まだ望みはあるんだな」

「え?」


 私はまた戸惑う。だって、先生は私に断られるかも…って怖がってる? だって望みはあるんだなって…すごくホッとした顔で言うんだもの。さっきは私に断られるなんて頭にないみたいな物言いをしてたのにだよ?


「君が考える時間はたくさんある。今すぐでなくていい。ゆっくり考えてくれればそれでいい」

「で、でも! あの…私…誰かを、す、好きになるとか、本当によく…分からなくて。だから、答えが出るまでに時間が、かかるような気が…してて」

「気にしなくていい。私が今までずっと一人だったってことは、君に会うための時間だったってことだから。君と出会ってしまった今は、もうそれだけで寂しくない」


 私はただの子供だから、と病院にいた頃のような感覚が抜けないまま夢の世界に暮らしてきてた。だけど、そうじゃないよ、この夢みたいな場所は本当にある現実の世界なんだよ、と先生は教えてくれた。そして、それ以上に私のことをただ大好きだよ、とも伝えてくれてる。

 私に出せる答えなんて全然分からない。分からないけど、一生懸命考えないといけないんだってことだけは分かった。だから、先生にこう答えた。


「先生、分かりました。今すぐには…答えなんて出ないし、出せないけど、がんばって考えます。どう考えてもこの答えしかないってなったら、お返事します。だから、お時間ください。その代わり本当にいっぱい、それから一生懸命考えます。こんな答えしか今は返せないけど。

先生、気持ち…ありがとうございます」


 そうして私と先生は中庭から貴学院の馬車乗り場へと向かい歩き出した。二人共何も言わない、ただ並んで歩くだけの時間だったけど、なんだか心がフワフワしていた気がする。



 §§§



 そうして私は先生と直接顔を合わせる機会がなくなると思っていたけど、そんなことは全然なかった!

先生は週末ごとに私を誘い出し、街へ出かけたり、お茶をしたり、色々な場所へと連れ出してくれて、とにかく私に会いに来てくれた。先生の言う遠慮しないというのは、こういうことだったのかな? と思うようになった。

そして私は先生と会うことが当たり前になっていって、先生の都合や私の都合で会えない時があると、とても寂しく感じるようになっていった。その事に気付いた私はやっと自分の中にある気持ちを理解した。

 だから、私は先生に伝えることにした。卒業から半年ほど過ぎた頃だった。


「先生、半年…かかりましたけど、なんとか答えが出ました。だからお返事させてください」

「ああ」

「先生がいつも会いに来てくださって、色んな場所に出かけたりしましたけど、とても楽しかったです。でも、先生が忙しくて会えなかった時ありましたよね。私も忙しい時もありましたし、だから先生と会えない時に気付いたんです。先生に会いたいって思ってる自分に。

先生、まだ…有効ですよね? 結婚の申し込み」

「勿論だ!」

「良かった! 私も先生と一緒にこれからの時間を過ごしていきたいって思います。だから、結婚のお話しですが、お受けいたします」

「……よ、良かった。この半年の間ずっと不安だった。君はとても可愛いし、素晴らしい人だから。他の男に攫われてしまうんじゃないかって、いつも不安だった…」

「先生も不安だったんですか?」

「当たり前だ。私なんてただの教師でしかないんだから。君のような魅力的な人間じゃない」

「そんなことないですよ? 私にとっては先生はとっても素敵な人です!」

「…あ、ありがとう」


 そうして私と先生は婚約をした。私の結婚の準備もあり、すぐには結婚とはいかなくて、でも義両親が先生と競うように結婚の準備の為に色々と衣装や宝飾品を揃えてくれて、少し戸惑いもあったけど、でも私はこの家の子供としていられることに感謝したのだった。


 婚約から一年後、先生と無事結婚して私達は幸せに暮らしている。時折貴学院の生徒が訪ねてくることがあり、そんな時には生徒の相談にのる夫と訪ねてきた生徒の為にお菓子を焼いて出している。

きっとこの世界のヒロインらしくないヒロインだった私が出来るたった一つのことだ。

 ゲームのフローラが作った焼き菓子は食べた人達にちょっとした勇気や元気を与えるものだった。そのゲームと同じではないけれど、私はお菓子を焼く。そんなお菓子を食べて帰っていく彼らが次に訪ねてくる時には悩み事はいつも解決しているようだった。

 そうして私達は子供にも恵まれ穏やかに静かな日々を過ごしたのだった。



 今でも時々思い出すのは、あの日病室を見た最期の日のこと。きっと眠る様に息を引き取ったんだろうと思う。

 前世のお父さん、お母さん、お姉ちゃん、もう会えなくて淋しいけど、今は幸せだからね、皆も元気に笑っていてね。私も毎日笑ってるよ。

私、今家族がいるんだよ。とっても幸せになれたよ。だから、安心してね。

こんな私の気持ちが届くといいな。


 あなた達が私の家族で良かった。私があなた達の家族になれて嬉しかった。

こちらの家族になってくれた男爵家のみんなも、今の家族の先生も子供達も、私の幸せだよ。

私ずっと幸せに生きてたんだって分かったよ。

この世界に生きていることの意味なんて、分からないままだけど、幸せの意味は分かったよ!

だから…ありがとう!!

お読みいただきありがとうございます。


これで本作品は終了になります。

最後まで気に掛けて、読んでくださった方々に感謝です。ありがとうございます。


キーワードに「異世界転生」を番外編の投稿と同時に追加しました。

やっと追加…出来ました。


終わりにあたり、ここまで読んでくださった方、評価をしてくださった方、本当にありがとうございました!

☆に色がついてるとそれだけで意欲が湧くものなんだと初めて知りました。


もしまた機会があって、作品を投稿できましたら読んでいただけると嬉しいです。

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