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カラー侯爵邸にて 2

まだまだカラー侯爵家の面々が動いてます。


誤字報告ありがとうございます!

 トレイシーとマーガレットの婚約をあっさりと調え、トレイシー、マーガレット共に穏やかに気持ちを育んでいる間、二人を見守るようにカラー侯爵家ではトレイシーを除く家族全員が動いていた。

初めは夫婦間だけだった。父であるロナウドはカラー家が自身が関わる商業ギルドの伝手から、情報を集め始め、母であるローズは社交界での自身の立場を利用し情報を集め始めた。

ローズの動きは二人の兄達の婚約者にもすぐに伝わった。そこからは案外早くに二人の婚約者を含めた協力体制が整えられた。


「お義母様、マーガレット様と言えばデリック様も妹のように大事にされている御令嬢ですわね。でしたら、私にとっても大事な義妹になる方ですから、是非ご協力させていただきませんか?」

「私も是非! レジナルド様も同じことを仰っておりました。私にとっても義妹になる方ですもの、協力を惜しむなんてこと考えられませんわ」

「まぁ、ビオラちゃんにプリムラちゃん…。なんて優しいのかしら。本当にありがとう。無理はしなくていいのよ。

でも…そうね、だったらアイビー伯爵家やその縁戚にあたる方々の噂話だけでいいから、聞くことがあれば教えてくださるかしら?」

「そのようなことでよければ、お任せくださいませ」

「それくらいなら、是非!」

「ありがとう。嬉しいわ」


 トレイシーの兄達、長兄のデリック、次兄のレジナルドの婚約者であるビオラにプリムラは社交界でも花にたとえられる令嬢だった。

目を惹くような華やかな容姿ではないものの、令嬢としての立居振舞の美しさや、多くの令嬢に慕われていること、様々な点で美徳のある令嬢と有名になったのはカラー家の嫡男と次男の婚約者となってから。


『カラー侯爵家と縁を繋ぐ者は婚約者に愛されるから、それが自信となって内から輝くようになる』


 いつからかこの国の貴族達の間では実しやかに噂されていることの一つだ。だから、カラー侯爵家の子供達と年齢の近い令嬢令息達で、王家との縁を望まない者達にとっては高嶺の花でありながらも誰もが近付きたいと望むのがカラー侯爵家である。

 この国には侯爵家だけでなく公爵家もある。勿論王族に連なる貴族であり、爵位では王家の次に高い地位にある。それにも関わらずカラー侯爵家は多くの貴族から慕われている。が、カラー家の人々にはあまり興味のない話のようだ。

 カラー家の人々は基本的に恋愛体質と言っていいのだろう。結婚は余程の事がない限り政略結婚はない。たとえそうだったとしても、それをひっくり返すくらいには、仲睦まじくなってしまうところがあるようだ。

そしてこの相手と決めてしまえば、それが幼い頃に決めた気持ちですら生涯通して貫くだけの重たい愛情を抱えることにもなるのだが、「結婚してしまえば問題ないから」と実際に結婚しているためか、その辺りの事情はカラー家では問われない…らしい。

 つまりは、身分差というものがあったとしても、「愛情があるなら、キッチリ勉強もするでしょ?」というのが前提で、しっかり貴族として生きていけるだけの教養も知識も学ぶことになる。

過去には平民から侯爵家に嫁いだ者もいる。それがどれほど大変なことかは少し考えればわかることだが、平民だからと悪し様に言われるようなことがないように、と侯爵家を挙げて教育をしたというのは語り草だった。後に侯爵夫人となったその人物は、当時の貴婦人達の間でも一目置かれるようになったとか。

 だから、誰もがカラー家に夢を見るのかもしれない。但し、婚約者として認められた後の教育はかなり厳しいものになる…ということは、きっと誰もが見ていないのだろうけれど。

実際に厳しい教育の途中で、婚約者が寄り添って支えて励ましている為、誰もがなんとか乗り越えているわけだが、きっとそれも誰もが知らないことだ。

 そうして今代は、カラー侯爵家の長男と次男の二人には既に婚約者がいて、その二人が揃って、美貌を誇ることはない。でも、誰の目からも貴族令嬢らしい美しさを持っていると感じられるわけだが、彼女達はそこではなく、婚約者の隣に立った時に一番相応しいものを望んで、努力をしている。そして、三男にも婚約者が決まったというタイミングだったこともあり、彼女達は未来の義妹を守らなくては、と思ったようだ。

カラー侯爵家は家族仲が良い。それは婚約者も含まれている。このことも有名なものらしい。


 さて。カラー侯爵家の婚約者二人を含めたマーガレットを守る為の体制が整った直後から、アイビー伯爵家やその縁者、関わる者については社交界で聞こえてくる小さな噂話から、商人が拾ってくるような噂話、また実際に伯爵邸や縁戚関係の使用人から漏れ聞こえる話、精査すれば掃いて捨てるような物も含んだ情報が集まっていた。

 そこから分かったことは、現時点でアイビー伯爵の嫡男に対し、相応しくないという言葉がないこと。幼い頃から優秀な人物ということもあるのか、アイビー家の瞳の色に拘り過ぎればアイビー伯爵との関係が拗れる懸念があると判断しているらしいこと。

アイビー家の瞳の色を持つ者が伯爵家の中にいればそれでいい、ということのようで、将来瞳の色を持つ者が婚姻等で伯爵家から離れることは問題ないそうだ。実際に伯爵当主の弟は放蕩が過ぎて絶縁されている。噂によれば、乗っていた船が嵐で沈み、その時に亡くなっているらしい。

 ただ妖精が祝福をした証を持つため、遺体が見つかっていないが故に本当に死んだかどうかは怪しいと思う者もいるようだが。

 親類縁者から出ている意見としては「アイビー家の瞳が嫡男のそれでは頼りない。もっとはっきりとした瞳をした者を養子でもいいから伯爵家に加えるべきだ」ということだった。


「なるほど。…要するに、マーガレットと同じような瞳を持つ者がいれば、マーガレットでなくとも問題はない、ということかな」

「現時点で分かることは、そういうことだと思います。父上、他にも少し聞きかじったことで、気になったことがあったので、調べてきました」

「レジナルドが? 何を聞いた?」


 カラー侯爵家の長男を除く全員がリビングに集まっていた。長男は婚約者のビオラの屋敷に招かれている為欠席という次第だ。

 夫妻が座る三人掛けのソファとローテーブルを挟んで反対側の三人掛けのソファに座るのは次兄のレジナルドと三男のトレイシーだった。父親であるロナウドが集めた情報から簡単に結論を口にしたところで、レジナルドが口を開いた。

しかもレジナルド自身が調べたこと、と言えば誰もが気にかかることだろう。当然のようにロナウドもレジナルドに問い返した。


「アイビー伯爵前当主のことです」

「…前当主、というとあれか。女遊びが酷かったという」

「はい、その件です」


 アイビー伯爵の前当主と言えば、現当主とマーガレットの父親でもある現当主の弟の父親のことだ。

結婚前にかなりの浮名を流した人物で、結婚をしてからはそういう話は聞かなくなったが、実際にどうなのかは分からない。前当主が声を掛けなくとも女性たちが集まってくる、そういう人物だったようだ。

 前当主の話を聞いたことで、ロナウドもレジナルドが伝えようとしていることに、気が付いたようだ。


「他領でマーガレットと同じ瞳の少年を見かけたという友人がいたんです。で、その少年のいる領に行ってきたんですよ。友人の治める領地ですから、友人に会うついででしたけど。

そこで分かったことなんですが、前当主と商人の娘との間に庶子がいるそうなんです。その庶子というのがアイビー家の瞳を持っていて、尚且つその子供…つまり友人の見た少年だったんですが、アイビー家の瞳を持っていた、ということでした」

「それはいい報せだな。アイビー家の瞳かどうかが重要なら、貴族だろうが平民だろうが関係ないはずだ。

最善はアイビー家の瞳の問題が出ないことだが、少なからず現時点で話が出ているのだから、マーガレットが真っ先に狙われると想定して動くべきだな」


 マーガレットは社交界では表立って姿を現してはいない。下位貴族の男爵家の令嬢という立場もある。

コキア男爵家は決して貧しいわけでもないが、裕福と言える程でもない。贅沢さえしなければ、貴族らしい生活を過ごしていけるだけの恵まれた環境にはある。

それでも、カラー侯爵家のような高位貴族とはやはり事情は変わってくる。

 全貴族が招待される絶対に参加が謳われている王城での夜会が一年に二回はあるが、下位貴族には参加の免除が特例としてある。コキア家は特例の対象範囲に入る程度には、裕福ではない貴族だった。それもあって、マーガレットの存在は知っている貴族というのは、限られている。

知っている貴族と言えば、カラー侯爵家、アイビー伯爵家、他にもコキア男爵と付き合いがあるのは領地と隣接する子爵や伯爵二家くらいだ。マーガレットを隠しているわけではないから、他の家でも知っている可能性はないわけじゃないが、少なくともマーガレットと直接会ったことがある家はないはずだ。

 一番の理由として、コキア男爵が娘のミモザを悪意ある噂から守ることと、マーガレットにも向けられるだろう侮蔑的な視線から守るために表に出していないのが現実だった。

本当なら知られたくはない相手としてアイビー伯爵家があるわけだが、現当主の弟がマーガレットの父親だということは母親であるミモザも、また父親であるブランドンも認めているため仕方がない状況もあった。

 ミモザが身籠った時点で本来なら結婚するはずだったのだが、ブランドンの賭け事で作った借金の額があまりに酷かったことで、放逐されてしまった。

その為二人の結婚は叶わなかったことと、前当主が放逐した者の子供など身内と考えるつもりもない、と言ったことでマーガレットはコキア家で愛情を込めて大切に育てられた経緯もあったため、ブランドンに対しても前当主にも複雑な感情を持ちつつも、ある意味感謝する部分もあるか、とロナウドは考える。


 少し考え込んでしまっていたのか、ロナウドの隣に座るローズがロナウドの手にそっと彼女の手を置いていた。それに気付いたロナウドはローズへと顔を向け、微笑んだ。

それから次男へと顔を向けて、カラー侯爵当主として言葉を紡ぐ。


「レジナルド、今回の件は表立って動けない話だ。少し面倒だとは思うが、レジナルドが直接動いてくれないか?」

「勿論です。父上やデリック兄上よりは自由が利きますから私が動きますよ」

「助かる。それじゃ、まだ動きがないが…念のために手紙を書くから、届けてくれ。出来れば定期的に接触もしてほしい」

「分かりました」


 それまでずっと口を開くことのなかったローズが言葉を紡いだ。


「ロナウド、マーガレットちゃんの為にありがとう。レジナルドもありがとう。

トレイシー、婚約してから考えられる問題をこうして皆が考えているから、貴方は何も心配しないでマーガレットちゃんを守ってあげてね。今問題なのはマーガレットちゃんの心のほうよ」


 ロナウドはローズの重ねられた手を自身の手を返し、妻の手を握ることで応えた。またレジナルドはにっこりと笑い母親に返す。そしてトレイシーが母親に応えた。


「はい、お母様。マーガレットのことで皆が気に掛けてくださって、本当にありがとうございます。きっとマーガレットが安心して笑えるようにしてみせます」


この場にいる誰もがトレイシーの言葉に微笑ましく感じた。

十五歳と十歳の二人の婚約は、二人が思うよりも多くの人達に歓迎されるものだったのだとトレイシーは感じている。そして、家族のおかげで後に二人が引き裂かれる可能性が潰されることになるのを、知ることになる。

お読みいただきありがとうございます。

今回も活動報告にカラー一家のことをちょっと書いています。

気になった方は覗いてみてください。

前回同様、本編に関わりはないので、見なくても大丈夫です。

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