最終話 エピローグ③
少し、頑張ってみようと、そう思える。
怖さばかりを感じてしまっている次の四月からのこと。どうにか前向きにとらえられないか。
そもそも、三月までやっても問題ないバイトを二月で終わらせたのは、四月から働くためぶ、少し休みたい、そう思ったからだった。卒業旅行もそう。断ったのは「休みたかった」それだけだった。自分勝手な行動だ。だけどそれは、当時の自分が、四月から働くことを覚悟した結果と言えなくもない。
自分が選択したこと。じゃあそれに対して、別の選択肢があるとすれば、何か。
一つ思い至るのは瀬川くんの言葉。
予備校に行く。
会社へ行くのをやめて、予備校に行って、大学へ行く。会社に行きながら受験の勉強をするというのも一つの道だろうか。現実的に可能かは分からないけど、もう一度考える時間を作ることはできるのかもしれない。
ただ開き直っているだけのような気もする。その先に何があって、どこにたどり着くのかも想像できない。そこに意味があるのか。
だけど、それを覆す可能性を見せるのは、アルバイト先の福岡さんの言葉だ。『学の四年目で、ようやく面白いと思えることを見つけた』。そのときは他人事として感じていたけど、もしかしたら、自分に当てはめてもいいんじゃないか。可能性として、今は何も考えられなくとも、何かが変わっているかもしれない。
もちろん、それがどれだけの人に迷惑をかけるのかという問題もある。就活を手伝ってくれた学校の人、会社の人、直接的にも間接的にも、想像できる範囲にはおさまらないだろう。
それに結局のところ、そうすることでまた後悔するかもしれない。そのままの変えずにしていた方が良かったと思うかもしれない。どれだけ違った道を選んでも、結局たどり着くのは同じ場所かもしれない。
だけど、とまた思う。もう一つの福岡さんの言葉。
年が変わっても環境が変わらなければ変化を感じない。
きっと働くようになれば、環境は大きく変わるのだと思う。でも、今の自分にとっての「環境を変える」は、前の自分が作った道から逸れることなんじゃないだろうか。
屁理屈だ。
だけど、なんとなく、そこから何か得られるものがある気がした。後悔するかもしれない。後悔しないに越したことは無いけど、それも一つの経験じゃないだろうか。今の、市川さんに対しての思いのように。
瀬川くんは、ここ数日、いや、もっと前から悩んでいて、自分でもどうすればいいか分からなかった。煙草も喧嘩もあったのかもしれないし、それに至った経緯をはっきりとは聞けていないけど、挫折があった。でも、それを乗り越えようとしている。それは、お母さんだったり、朝井さんだったりのことがあったから。
瀬川くんは、卒業式での僕の行動に助けられたと言ってくれた。朝井さんも、話を聞いてくれたことに感謝をしてくれた。二人は、僕の言葉に少なからず何かを感じて、行動を起こせたと。
見てくれる人も、感謝をしてくれる人もいる。例えもう会うことのない人でも、何もなかったことにはならない。ここ数日で、本当にそれを感じた。
嬉しいことでもあり、しっかりしなければと思えること。
今のこの気の大きさは一過性のものかもしれないけど、利用してみる。自分の今の感情を行動に移してもいいんじゃないか。
実際にどうするかはとにかく、まずやれること。叔母さんに相談してみる。この思いをそのまま吐き出してみる。そういえば、瀬川くんに自分で同じようなことを言っていたなと思い出す。
このまま戻って、やっぱり泊めて欲しいと言ったら、どう思われるだろうか。困りながらも笑顔で迎えてくれて、嫌とは言われないような気がする。でも、迷惑だろうとも思う。勝手な行動だ。
でも、変えなければならない。今までの様に、ただ黙って行動していくよりも、叔母さんに話を聞いてもらった方が、違う道なんだ。
フッと風が凪いだ。
だけど、空も太陽も雲も海も、変わらない。
厳密には、雲の流れや太陽の陰り、風の強さ、波の大きさ、いくつも変わっているものはあるだろう。だけど、そんなことを考えればきりがない。
とりあえず、ここでみんなにお土産でも買おう。
そうして踵を返し、足を踏み出した。
それを後押ししたいのか妨げたいのか、携帯が震えた――。




