表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モラトリアムの檻  作者: ナナイ
3月1日(火)
59/66

第58話 3月1日(月)⑤

 瀬川くんや朝井さんのことが気になりつつも、教室を出て、そのまま校舎を出た。空は、朝に見たときと変わらない曇り空だった。ただ、冷たい風は気持ちよかった。


 校門の周辺には、すでにホームルームを終えてきた生徒たちの人だかりができていた。時折大きな声がとんだりもして、何かから解放されたように、タガが外れたようにはしゃいでいる。そんな喧騒だった。携帯やデジカメで写真を撮っている人たちもいた。


 もう、卒業式でおきたことなんて忘れている人ばかりなのだろうか。そうでないにしても、意識するようなことでもないのか。


 僕は、自然と瀬川くんと朝井さんの姿を探していた。人だかりには、三年だけでなく、他の学年の生徒や教師もいるようで、探すのは骨が折れそうだ。

 そうやってきょろきょろしていると、


「ミズホちゃん」


 不意に、名前を呼ばれた。

 顔を向けると、カシャっと何かの音が響いた。見ると、大柄な鶴木くんがデジカメを構えていた・シャッターの切られた音だと理解する。それから、隣に岸くんが寄って来て、ブイサインをつくった。伺うように岸くんを見てしまうが、動揺している様子は見て取れない。いつかの僕の様に、押し殺しているのかもしれない。周りも、別に忘れているわけではない。ただ、そうなっているだけなのかもしれない。


 僕が岸くんに合わせてぎこちなくも表情を緩めると、再び、カシャっとシャッターが切られた。二人の楽しそうな表情は印象的だ。やっぱり、辺り一帯もそんな雰囲気が広がっている。岸くんも、今はそうすべきだと感じているのだろう。


「それ、持ってきたの?」


 上手く写真が撮れたのか、手元のデジカメを見ながら近づいてくる鶴木くんに尋ねた。それに答えてくれたのは岸くんで、


「あれ、俺のだよ。せっかくだし」

「そっか。じゃあ、僕がとろうか」

「お、サンキュー」


 カメラを受け取って、岸くんと鶴木くんが並ぶ。と、そのとき、


「あ、俺らも入っていい?」


 明るい透った声とともに、別の三人の生徒が寄って来た。


「お、じゃあみんなで撮るか」


 寄って来た友人たちを見て岸くんが言い、僕はあらためてカメラを構える。


「あ、先生、写真撮ってよ。ミズホちゃんもこっちに来てさ」


 岸くんが近くにいた先生を捕まえて僕を招いたので、「お願いします」とカメラを預けてみんなの方に混じった。そうして六人で並ぶ。二人は高校から、一人は中学からの友人だ。岸くんが提案し、断った卒業旅行のメンツはこの六人だった。


 シャッターが切られ、岸くんはお礼を言ってカメラを受け取ると、その絵を確認しつつ、


「じゃ、写真は今度渡すから」


 そう言って、みんなをひきつれて人混みの方へ姿を消した。岸くんは友人が多い。付いて行こうかとも思ったが、やっぱりやめた。そういうのは得意じゃない。


 そうして、再び瀬川くんと朝井さんを探して足を進めた。途中、クラスメイトだったりに声をかけられて軽く言葉を交わしたりもしたが、そう友達は多くないため、あっさりと人だかりを抜けることができた。そして、校門を出た。しかし見つからない。


「県立東戸ノ上高校」という大きな印が刻まれた校門の外では、すでに帰路についている生徒人たちもいた。名残惜しそうに校舎を振り返っている生徒もいる。ただ雰囲気にのまれているだけはなく、思うことがあるようにも感じた。


 多分僕は、もうここに来ることはないだろう。嫌いだからではなく、単純に目的がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ