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モラトリアムの檻  作者: ナナイ
2月28日(月)
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第48話 2月28日(月)⑥

 瀬川くんは次の言葉をどうしようと思っていたのか、しばらく口をつぐんでいたが、何か諦めように、フッと表情を緩めた。


「でも、泰樹くんはそういうのってなさそうだよな。キレたこととか」

「まぁ、あまりないかもしれないね」

「だよな。想像できないもんな、そういう感じ」


 そういう気持ちになったことが少ないのは事実だ。イライラしたり不満を持つことは当然あるけど、それを外に出すことはしない。自分の感情がそこにふさわしいか分からないから。


 そんなとき、再び携帯が震えた。瀬川くんに断って手に取ると、その発信者を確認し、


「あれ、また」


 瀬川くんを見た。


「……マジか」

「うん」


 緊張しながら電話をとる。


『あ、泰樹くん?』

「うん、どうしたの?」

『実はさ、今アパートの前に来てるんだけど』


 心臓が、大きく鳴った。


「……来てるの?」


 顔を上げて瀬川くんを見る。


『うん、ちょっと近くまで来ててさ、久しぶりだし、せっかくだから寄ってみようかなって思って。今家にいる?』


 ちょっと近くまでって、なぜだろうか。さっきの電話での嘘に気付いたのだろうか。いや、そんなことはないと思うけど……。あせりながらも相槌を打つ。


「う、うん」


 あ、いないというべきだった。


『本当? じゃあちょっとお邪魔してもいい?』


 そりゃあそう返ってくるだろう。後悔する。


「あ……と……」


 目を泳がせながら瀬川くんを見た。さすがに焦っているのか、うつむいて何か考え込んでいるようだった。


『あ、まずい?』


 朝井さんがそう言う。


「いや、ちょっと今、掃除してて……」


 とっさに適当なことを口走ってしまう。苦しい言い訳だ。


『あ、ほんと? タイミング悪かったね。でもあたし気にしないから大丈夫よ』

「いや、本当に汚いから……」


 そう拒絶をしながらも、いっそ来てもらった方すっきりするんじゃないかとも思ってしまう。しかし、やっぱりそれは無理だ。


『そっか、男の子の部屋だもんね、しょうがないか』


 そんなことを言う。でも都合がいい。


「じゃあ、僕がそっち行こうか……?」


 自分でもなんでそんなことを言ってしまったのか。


『本当? 大丈夫なんだったら、そうしてもらおうかな。悪いけど……』


 間髪入れずに帰ってきた言葉に、よほど話したいことがあるのだと感じ取れた。断ることはできない。


「……うん、分かった。ちょっと待ってて」

『ごめんね。よろしく』

 そう言って通話が切られる。


「なんか、本当に悪いね」


 電話で口にしていた言葉から大まかな内容は理解したようで、瀬川くんは右の手のひらを立てて、卑屈気味に笑った。


「いや、うん。でも、香澄ちゃんが来てるみたいで、ちょっと出てこなきゃいけなくなっちゃって」

「ああ、俺はここにいるから」

「うん。……会わなくていいの?」

「いや、今はいいよ」


 結構な覚悟で聞いたつもりだが、ごまかすように言葉を切られてしまった。無理強いすることもできず、そのまま炬燵を出て立ち上がった。

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