第45話 2月28日(月)③
「今日はどっかで何か食ってく?」
先週のことがあったからか、鶴くんがそう言うと、
「ん、どうしようか」
頷いた岸くんは、少し表情が硬かった。どこか不自然なもの。
「岸くん、調子悪いの?」
それを口に出して聞くべきかどうか、そう悩むこともなく言葉が出た。
「そう見える?」
「うん」
岸くんが俯いてしまう。
「どうした?」
鶴木くんも心配そうに声をかけた。岸くんは顔を上げる。あえてそうしているのか、別段沈んだような口調ではなかったが、少し言いにくそうに言葉をつなげた。
「体調が悪いわけじゃないんだけど、ちょっとな……江川のこと、知ってる?」
「江川……?」
「あ、ミズホちゃんは知らないか。鶴は知ってるよな」
「ああ、サッカー部だろ? 江川がどうしたの?」
同じ高校の生徒のことらしい。その江川くんがどうしたというのか。
「なんか亡くなったらしい」
岸くんが言った。その表情から、冗談ではないことは分かる。
「は? え?」
その意味を具体的な言葉にできない。
鶴くんも困惑したように声をどもらせた。無言で岸くんの言葉を待つ。
「木曜に事故ったらしくて……」
誰もが声を発することができない。
「俺も直接知ってるやつじゃないんだけどさ」
それから、三人並んで歩きながら、少しずつ岸くんが話してくれた。
岸くん自身、その江川くんとは直接話をしたことは無いが、友人の友人で、伝え聞いたらしい。事故というのは、車にはねられたということだった。
何を口にしていいか分からなかった。
仲の良い友人が悲しんでいる様子を見て、岸くんも悲しみに暮れている。そんな事実に触れてショックなのもあるだろう。感情を自分の中で抑えることができず、ここで話しているのかもしれない。
僕からすれば、同じ学校の生徒であっても、全く知らない人であり、そこまでの実感はない。だけど、同じ高校の生徒に起きた事実に、鈍い重たさが全身を包み込む。
今日の体育館で行われたリハーサル、名前は呼ばれたものの、実際にいなかった生徒は何人かいた。瀬川くんは特に印象に残っているが、他の生徒は、受験などで欠席なのかな、くらいに思っていただけだ。
知らない生徒の名前までは注意していなかったが、江川くんもその中の一人だったのだろうか。もし呼んでいたとすれば、その名前を口にした先生はもちろん、岸くんはじめ、事情を知っている人は、複雑な思いで聞いたことだろう。
その後、やはり重い雰囲気は続いたものの、鶴木くんが元気を出そうと、部活の話から、テレビの話など、明るい話題を多く振っていた。
その中で、元々誘われていた卒業旅行についても話題が出た。僕はもともと断っていたため、幹事をやっている岸くんからもう一度「本当に行かない?」と確認され、「用事があるから」と申し訳なく思いつつも、再度断った。
そして、結局ファストフード店にはいかず、そのまま二人とは別れた。




