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モラトリアムの檻  作者: ナナイ
2月27日(日)
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第40話 2月27日(日)⑫

 部屋に帰ると、思った以上にタバコの臭いがついていたコートとズボンに消臭スプレーをかけてハンガーでつるし、シャワーを浴びて布団に着いた。


 まだ余韻が残っていて、なかなか寝付けそうになかった。感謝の言葉に少し高揚している。そして、知っている言葉や表現でも、新鮮な感覚をもった。大学、将来についても。


 考えてみれば、小学校や中学校の時の知り合いでも、僕には思いもつかない何かに触れている人がいるのだろう。それは、全く不思議なことではない。


 卒業文集に将来の夢を書かされたことを思い出す。僕からしたら形式的なものと感じてしまったが、本気で書いた人もいるだろう。あるいは、具体的ではなくとも、なんとなくの希望だったり、なりたいものがあっても恥ずかしくて書けなかった人もいるかもしれない。面白がって冗談を書いたり、友人と同じことを書いたり、何も思いつかず、適当に描く人も、それぞれいたんじゃないかと思う。


 福岡さんの言っていた「勉強」は、それよりも前の、目標となるものを探す段階の話だ。福岡さんは大学の研究室でそれらしきものを見つけて、先を考えるようになった。


 僕は、何もない状態で進学と就職を天秤にかけて、就職を選んだ。進学は、お金の問題があった。叔母さんは「大学へ行きたいのならお金のことは心配しなくていい」と言ってくれていた。両親はちゃんと考えていたから、残してくれたお金でなんとかなると。


 だけど、大学へ行ったとして、卒業する四年後を考えたとき、やりたいことを見つけている自分が想像できなかった。見つける自信もなかった。今まで、何かをやりたいと思ったこともなく、何かになれると思えたこともない。だからやめた。無意味になってしまうことで迷惑はかけられないと思った。


 就職することに決めて、学校に来ている求人からなんとなく選んで、会社の説明会になんとなく参加して、なんとなく試験を受けた。そしてありがたいことに内定をもらい、それを受け入れた。一般的に見れば、幸運なことだ。


 だから、就職の話をしたときに行ってもらえる「偉い」という言葉を素直に受け取れない。ただ、消去法で決めただけの道に運がついていただけだった。

 そしてもうすぐその場に体を置くことになる。三日後の卒業式、そのひと月後には、その会社で働くことになる。だけどまだ、現実味はない。どこか他人事のようだ。


 そう考えると、明後日で高校生活が終わること、それすらも想像しがたかった。何かを頑張ったわけでもなく、嫌なことがあったわけでもない。だからこそなのか、それらが「終わる」ことの実感がわかない。


 だけど、さっきのことを考えると、何かしら形となるのかもしれないとも思えた。高校生活を振り返ると、恵まれていたのは事実だ。友達がいて、好きな人ができて、バイトでも良い人に囲まれていた。


 思考が連鎖するように、過去のことがよみがえって来る。今日、朝井さんと話をしたこともその引き金になっている。

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