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モラトリアムの檻  作者: ナナイ
2月27日(日)
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第36話 2月27日(日)⑧

 店内は、居酒屋特有のものなのかは分からないが、ファミレスなどと比べると薄暗いものだった。黒のシャツと腰下のエプロンを身につけたウェイターに、四人がけのテーブル席へ案内される。三人に促されて一番奥に座った。正面に福岡さん、隣に川岸さん、斜め前に藤野さんという並びになる。


 そして福岡さんは、三人の方を確認してから「とりあえず」と言って飲み物を注文した。「生三つとウーロン茶」ウェイターがその注文を復唱して下がろうとした時、


「あ、灰皿ひとつ下さい」


 川岸さんが言った。すぐ近くに備えてあったのか、ウェイターはすぐに銀色の灰皿を出して下がっていった。


「あれ、お前タバコ吸うの?」


 福岡さんが言葉を投げる。


「あ、まずいっすか?」

「いや、俺はいいけど、吸ってんだ?」

「はい、最近ちょっと。ただのカッコつけですけどね」


 卑屈っぽく言った川岸さんは、ジャケットのポケットからタバコを取り出し、

「じゃあ、すいません。ちょっと」


 福岡さんに向かって軽く頭を下げると、こちらにも目配せをしてからタバコをくわえた。ライターで火をつけ、続けてフゥっと煙を吐きだした。


 つい昨日の瀬川くんを思い出す。タバコを吸う身近な人は珍しいのだが、二日続けて目にすることになった。


 福岡さんが「適当に選んでよ」と言ってメニューをテーブルの中央に広げる。ジャンル別に色々載っているのだが、悩んでしまう。どんな場合でも、自分だけが食べるものであればそう迷うことなく決めてしまえるが、みんなで食べるものだと躊躇してしまう。特に、今周りにいるのは目上の人たちだ。


「福岡さんはタバコ、吸わないですよね」


 そんな中で、藤野さんが川岸さんへ聞いた。


「うん。飲み会のとき付き合いで吸うことはあるけど、基本的にはな。続けて吸うと結構な値段になるしなぁ。美衣ちゃんは? 吸ってそうなイメージないけど」

「あたしも吸いません。うち、親が吸ってるんですけど、あの臭い嫌いなんですよ。だから全く吸いたいとも思わないです」

「ええ、先に言ってよ。嫌なら別に吸わなくてもよかったんだけど」

「吸いたいんなら吸っていいと思うよ。気にはなるけど、かっこいいとも思わないし、そもそもたばこでかっこいいとか思う人いんの?」

「性格悪いよ、美衣ちゃん」

「はぁ?」


 川岸さんはカラカラと笑った。それから藤野さんはこちらを見て、


「水穂くんは、まあ、ないよね」

「そうですね」

「まだ高校生だもんね。あ、お酒も飲んだことない?」

「そうですね。まだ」


 頷くと、川岸さんが口を開く。


「へぇ、俺初めて飲んだの中学くらいだったぜ。親のやつもらって。あとは高校のときも、卒業式のあと何人かで集まって飲んだかな。店じゃなくて家だけど」

「あたしは最近かな。つい一カ月ちょい前の成人式の後」

「マジか、美衣ちゃんまじめ」

「何か悪い?」


 川岸さんと藤野さんのやり取りはどこか小気味いい。


「何も悪くないよ。福岡さんは初めて飲んだのいつですか?」

「俺は大学に入学したとき、親睦会みたいので飲まされたな」

「ああ、うちにもそういうのありました」


 川岸さんと福岡さんは二十歳になる前にお酒を飲んでいたということになる。最近は、そういうものが厳格になっているような感じがするものの、一般的にそんなものなのだろう。瀬川くんの件もあるし……。


 ウェイターがジョッキに入った小麦色のビールと、ウーロン茶を運んで来た。ビールを目の前で見たのは初めてだ。その周りで、みんなはサラダだったり唐揚げだったりを頼んでいった。注文はとりあえず周りに任せておくことにした。


 注文を受けたウェイターが下がり、みんなにグラスがまわると、福岡さんが仕切り直すように「じゃあ」と言ってグラスを右手で持った。それを合図のように二人も同じようにするので、それにならう。


「水穂くんが今日までということで」


 福岡さんがそう前置きをしてから、


「お疲れ様」


 二人も後に続いて「お疲れ様」と小さく声をそろえ、みんなでグラスを合わせた。カンという渇いた音が鳴る。そして口へ運ぶ。皆は少し減ったグラスをテーブルに置いた。減った量が三者三様なのがまた少し面白かった。

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