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モラトリアムの檻  作者: ナナイ
2月27日(日)
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第35話 2月27日(日)⑦

 アパートに帰ると、昨日できなかった部屋の掃除をして、それから予定の時間になると再び出かけた。


 アルバイトは今日が最終日だ。高校一年の夏から始めて、およそ二年半続けたことになる。高校へ入ってすぐに働こうと思ったが、年齢制限が十六歳だったため、誕生日を待ってから働いていた。


 仕事場に入っていつも通りに仕事をこなしていく。生肉の臭いに囲まれた中で、食品のパック詰め、値付け、陳列。最終日といっても、それはあくまで個人的なもので仕事内容もいつもと変わらない。しかし、あと数十分で終わりの時間というところ、


「水穂、今日で終わりなんだよな。終わったらなんか食べに行こうか」


 調理場の片付けの中にそう声をかけてくれたのは、バイトの中で年長者の福岡さんだった。三つ年上の福岡さんだが、バイトを始めたのはほぼ同時期で、ずっと一緒にやってきた人でもある。


 福岡さんはさらに、

「川岸と美衣ちゃんは時間ある?」


 近くにいた同じバイトの川岸さんと藤野さんにも声をかけた。

 三人とも大学生だ。黒ぶちの眼鏡が似合う福岡さんは三年で、茶髪の川岸さんは一年、美衣ちゃんとよばれた唯一の女性である栗色のミディアムヘアの藤野さんは二年生だ。次の四月からそれぞれ一つ学年が上がる。川岸さんは一年間浪人しているらしく、年齢的には藤野さんと同い年だった。


 三人とも仲が良いが、通っている大学は違う。他にもここでバイトをしている人はいるが、今日来ているのは僕を含めてこの四人だった。みな年上で、少し気を遣う部分はあるが、気のいい人たちで仕事場の雰囲気は悪くなかった。


 そんな人の誘いを断る理由はなく、最後だからと言われてしまうとなおさらだ。声をかけてくれたこと自体もありがたかった。


 福岡さんに「大丈夫です」と肯定の言葉を返すと、福岡さんは二人の方を見た。


「そっちは?」

「大丈夫っすよ。俺も水穂には世話になったから」

「あたしも行きます」


 川岸さんも藤野さんもバイトに入って来たのは去年の春からだったため、仕事を教えることはあった。それがあったのかは分からないが、笑顔で頷いてくれたことは恐縮しつつも嬉しかった。


「じゃあ何処行くか。その辺のファミレスでも……」

「飲みに行きません? 行ってみたい居酒屋あるんすよ。駅前のとこなんですけど」


 福岡さんが思案しているところに提案したのは川岸さんだった。


「うーん、水穂は高校生だし、明日学校だろ?」

「あ、あたしも明日ちょっと予定あるし、早めの切り上げならいいんじゃないですか?」

「まぁ、そうか、水穂はそれでいい?」

「あ、はい。別に」


 居酒屋と呼ばれる場所に行ったことはなく、あまり雰囲気は想像できなかったが、気を遣わせてしまうのも悪く頷く。


「じゃ、そうするか。水穂は九時上がりだけど、俺らは十時上がりだから、ちょっと

待っててもらうことできるか? 悪いけど」

 このスーパーは十八歳を基準に、上がる時間が区切られていた。


「はい大丈夫です」


 そんな中、

「おう、水穂くんの送別会やるのか?」

 話に入ってきたのは社員の責任者の人だった。


「はい」

「だったら、九時で上がっていいよ。後は俺がやっておくから」

「マジっすか」

「まぁ当然、給料は九時までしか出ないけどな」

「えー」と笑うのは川岸さん。

「あと、この市は高校生は十一時以降外出禁止だからな。それまでには帰らせろよ」


 そういうのもあるのか、と初めて知った。


「分かりました。ありがとうございます。じゃあ川岸、その居酒屋に一応高校生が行っても大丈夫か電話で聞いておいて」


「了解っす」


 やっぱりなんか申し訳ないなとも思う。そうして九時を回る。


「じゃあ、店の外で集合」

「水穂くん、お疲れ様」

「お世話になりました」


 責任者の人にあいさつをして仕事場を出て更衣室で着替える。


 四人で少し歩き、駅前に群がる雑居ビルの一つ、二階の店に入った。川岸さんが事前の電話で、高校生は入っても大丈夫だけれど十一時前には出て欲しい、とは言われたらしく、僕のアパートまでの帰宅時間を考慮し、十時くらいまでにしよう、ということになった。

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