第31話 2月27日(日)③
またどう返せばいいのか難しい質問だ。「それはこっちのセリフだけど」という振りだろうか、なんて戸惑っていると、朝井さんはまた笑う。
「泰樹くんといっちゃんのことだよ。実は昨日の夜、いっちゃんからメールが来てね、『水穂くんと話をしたよ』って。『言いたいことを全部言えたわけじゃないけど、頑張ったつもりだ』って。だから、『そっちはどうだったの?』って」
「……そう、なんだ?」
「うん。何を話したのかは聞いてないけど、もしかしたら、あたしを勇気づけるために、いっちゃんは頑張ってくれたのかもしれない」
朝井さんは視線を落として手元のコーヒーカップを両手で包んだ。
市川さんは、自分が頑張ったという事実を朝井さんに伝えて、朝井さんにも頑張ってもらおうとした。逆に言えば、朝井さんがいたからこそ、市川さんは普段なら躊躇するようなことでも言えたのかもしれない。
そうだとすれば、市川さんは、僕と会うことが分かって、急で驚いたとは言っていたけど、ちゃんと、僕と会った時にこれを話そうと、ちゃんと考えていたのかもしれない。だからこそ、あれだけのことが言えた。
ただ億劫になっていただけの僕とは違う。何もしゃべれなくなってしまったのは、何も考えていなかったからだ。なるべくしてそうなった。
「昨日のことね、前に言ったみたいに、あたしは竜と話す機会が欲しくて、でも一人じゃ怖くて、それは本当なんだけど、正直なとこね、泰樹くんといっちゃんに仲良くなって欲しかったっていうのもあったんだ。二カ月くらい会ってないっていうのは聞いてたけど、別れたのなら仕方ないなって思えたかもしれないけど、振り切ってるわけでもないみたいだったし」
引っかかる言葉。市川さんは、振り切っていなかった……?
「あ、でもあそこで二人きりにしたのはわざとじゃないよ。本当に。昨日は本当にごめん。あんな終わり方にしちゃって」
朝井さんは取り繕うように笑う。
「いや、それは別に……」
「でも、そんな感じじゃなかったのかな、いっちゃんからのメールを見ると」
なんとなく、市川さんと別れたとき、もう話をする機会は無いのかなと感じた。きっと、そういうことだと思う。でも、それを朝井さんに言葉で伝えるべきではない気もした。
「それで、か、香澄ちゃんは、竜くんと、どうだったの?」
強引に朝井さんへ話題を返した。
「あ、うん……」
朝井さんは俯いて、勢いをそがれたように、だけどぽつぽつと言葉を落とす。
「結局さ、何も話せなかったんだ。話をまともに聞いてくれないっていうか、斜に構えてるっていうのかな。最近、特にここ数日はそんな感じなんだよね。竜の様子が、ちょっとね……」
昨日のその場を思い返すように続ける。
「それで泰樹くんにも聞いてみたくてさ。竜と話して、泰樹くんはどう思ったかなって。何か感じたことない? タバコの件もさ、中学のとき吸ってるのは一度見たことがあって、かなり怒ったんだけど、高校に入ってからは一度もなかったんだよ。それなのに……」
上目づかいで、悲壮感が向けられる。
「あ、うん、どうかな……」
曖昧な相槌を打った。三年間付き合っている朝井さんよりも気付けることがあるのだろうか……。言葉が続かない。
すると、朝井さんは懇願するように、
「なんでもいいよ。思ったこと、言ってほしいの」
本当に心配なのだろう、揺れた瞳で見つめられる。感じたこと。
「あ、じゃあ、間違ってるかもしれないけど……」
「うん、言ってみて」




