第30話 2月27日(日)②
待ち合わせ場所は、駅前に建つ五階建て雑居ビルの一階にあるカフェだった。
約束の十分前くらいに着いたのだが、すでに中にいるというメールが着ていたため、店に入り、セルフサービスのカウンターを素通りして、店内でその姿を探した。
店内は落ち着いた雰囲気で、どちらかというと若い人が多くいる印象だった。友人同士だったり、カップルだったり、スーツ姿でパソコンを打っている人や、学生風の人がノートやプリントとにらめっこしている姿もあった。
そんな中、隅の方の丸テーブルに座っている朝井さんを見つけ、足を向けた。
「おはよう」
「おはよう、泰樹くん」
朝井さんが笑顔を返してくれる。
ブラウンのセーターを着ている朝井さん、脱いだショートコートを隣の椅子に置いている。髪は昨日のように下ろしていたが、化粧はしていないようだった。それでも、色白の肌に大きな目、その綺麗な顔をまっすぐに見据えるのはちょっと大変だ。でもそれは、何か思いを抱え込み、揺れているようにも見えた。
「泰樹くんも何か頼んで来なよ。あたしはもう持ってきちゃったから」
こちらが手ぶらなのを見てか、テーブルの上におかれたコーヒーとサンドウィッチを示して言った。頷き、回れ右してカウンターへ向かう。
注文するとき、少し緊張する。こういう店に来ることは少なく、コーヒー自体もあまり飲まないため種類がよく分からないためだ。嫌いというわけじゃないけど、触れる機会も多くない。とりあえず、聞いたことのある名前のコーヒーとオーソドックスっぽいサンドウィッチを頼んで、それらをトレイに乗せて朝井さんの待つ席に戻る。
「いくらだった? あたし払うよ」
正面に座ると、朝井さんはそんなことを言って、コートの上に置いていたカバンから財布を取り出した。自分が誘ったから、という気遣いだろうけど、
「いや、大丈夫だよ」
「いいからとっといてよ」
「いいよ、本当に」
二度断ると、朝井さんは申し訳なさそうに引き下がったが、
「分かった、それはいいや。でも昨日の分は別だからね。いっちゃんに聞いたけど、竜の分は泰樹くんが払ったんでしょ?」
朝井さんが千円札を一枚差し出してくる。
「いや、別に……」
再び遠慮したが、それを覆いかぶせるように朝井さんは、
「だめ。これは受け取ってもらわないと、本当に困る」
受け取らないわけにはいかなかった。
「……分かった。ありがとう」
「礼を言うのはこっちだから」
朝井さんは控えめな笑みで財布をしまう。それから、
「でも、昨日は本当にごめん」
そう言って頭を下げる。
「いや、大丈夫だよ」
「本当に?」
朝井さんは顔を上げると、冗談じみた表情で眉をひそめた。そのノリにのるべきなのかなと思った。
「そうだね、ちょっと怖かった」
「そうだよね」
朝井さんは申し訳なさそうに笑う。
それを見てやっぱり悩む。軽率な言葉だったろうか。やっぱり「大丈夫だよ」と通すべきだったかもしれない。とはいえ、気にしすぎても気を遣わせてしまう。
そして朝井さんは、手元のコーヒーを一口飲んで、尋ねてきた。
「あの後、二人どうだった?」




