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モラトリアムの檻  作者: ナナイ
2月27日(日)
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第29話 2月27日(日)①

 二月二十七日、日曜日。


 重たい体を起して布団からはい出ると、冬の朝の寒さが身を襲った。まだ、セットした目覚まし時計が鳴る一時間も前だ。


 夢を見た。所詮夢、だけど頭の中にこびりつく夢。

 その日に見た夢なんて、すぐに思い出せなくなるようなものばかりだけど、たまに、なかなか忘れない夢を見ることがある。今日の夢は、まさにそれだった。


 ぼんやりした頭を覚まそうと朝の準備をするも、夢の影響もあって、ずっと一つのことがぐるぐるとまわっていた。


 市川さん。


 仲良くなったのは高校二年の秋、文化祭の準備がきっかけだった。クラスの出し物の担当で同じグループになった。話をするのは始めてに近かったが、なんとなく話しやすい相手で、少しずつ会話をするようになった。そして文化祭が終わった後、二人で遊びに行かないかと誘われた。


 そのときの市川さんの顔は、今でもはっきりと覚えている。恥ずかしさを隠すように、うつむいてはにかんで、耳は真っ赤になっていた。かわいかった。それからも何度か二人で会うようになった。


 しかし三年の夏から秋にかけて、僕が就職活動を始めたあたりから、会う機会は少なくなっていった。どちらが何かを言ったわけでもない。なんとなくの「忙しい」が距離をつくった。


 就職活動が終わると、今度は市川さんの大学受験が本格化する。遊びに誘おうかと悩むことはあったが、勉強が大変なのだろうと思い直し、その次に誘おうと思ったときもまた同じことを考えて思い直す、そんな思考が繰り返された。そして、気がついたときにもう誘い方が分からないような状態になっていた。最後に二人で会ったのは十二月の頭だったが、それ以降は連絡も取っていない。


 思い返すと、市川さんとは、会えば会うほど話ができなくなっていたような気がする。会って話を聞くだけで楽しかったというのもある。だけど、僕は自分のことはほとんど言っていない。だんだん言えなくなった。自分の中にある嫌な部分を知られたくなかった。嫌われるのが怖かった。何がそのきっかけになるかも分からない。どんな音楽を聴いているかとか、ドラマを見ているとか、漫画を読んでいるとか、そんなことですら、知られるのに抵抗を持つようになった。


 昨日、市川さんが思っていたことを話してくれた。だからこその夢だろう。

 そんなふうに悶々としているうちに時間は過ぎ、朝井さんとの約束の時間が違づく。

 そして部屋を出た。

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