表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モラトリアムの檻  作者: ナナイ
2月24日(木)
3/66

第2話 2月24日(木)②

 廊下で目撃した光景に思考を奪われたまま、どこかふわふわした足取りで校舎を後にし、下校の途に就いた。「東戸ノ上高校」の名が刻まれている校門を抜け、街路樹で区切られた国道沿いの歩道を歩いていく。


 立ち並ぶ街路樹の枯れ木で、今の季節が実感できる。今年は特に厳しい冬というわけでもないが、寒いものは寒い。今朝出がけに見た天気予報だと、今日の最高気温は八度だった。


 ぱらぱら見られる下校中の生徒たちは、同じように歩いて帰る人もいれば、自転車の人もいる。最寄り駅までスクールバスが出ているため、校門を出る際にバス待ちの列も目に入った。そして、大半の生徒は学校指定の黒いコートを着ている。マフラーを巻いている生徒もいるが、そこに指定はないため、統一されたものではない。僕は黒いコートとグレーのマフラーを身に着けている。


 今日はいわゆるテスト休みで、午前中のホームルームだけで下校となっていた。学年末テストも終わり、授業のない三年は、三月一日に行われる卒業式を待つだけだ。とはいえ、まだ進路が決まっていない生徒もいて、今日もクラスでは二人の欠席者がいた。


 そんな事情も重なり、下校する生徒は、普段の下校時に比べるとかなりひと気が少ない。時間はまだ朝の十時前、一年生と二年生は一時間目の授業中だ。加えて平日の午前中という時間帯、国道を走る車も少なければ、一般の通行人もあまり見られない。


 ヒュウっと、渇いた風が耳と頬を切り裂く。


 痛く冷たい。だけど、熱いよりは寒い方が好きだ。夏のじめじめとした生ぬるい空気は苦手だし、春の暖かい風と比べても、冷たいくらいが心地よく感じられた。


 そんな寒空の中、駅へ向かって歩みを進める。住んでいるアパートは駅前を中心に広がる市街地を越えた反対側の住宅街にある。学校から歩いて三十分程度の距離だ。


 五分ほど歩いてきたところで、後方から


「ミズホちゃん」


 と、声が飛んで来た。振り返ると、後ろから二台の自転車がブレーキを鳴らし、僕の横で減速した。


 自然と頬が緩む。二人とも、同じ高校に通っている同級生だ。小柄な岸貴志くん、大柄な鶴木聖くん、見た目的には対照的だった。


 自転車にまたがった二人は、歩く速さに合わせて地面を蹴って進んでくれる。


「ミズホちゃん、帰んのはええな」


 整った綺麗な眉と二重の目が印象的な岸くんが笑う。


「そうかな」

「そうだよ、なぁ」

「うん。俺らも結構早めに出てきた方だよ」


 ふっくらとした頬と、太い眉が印象的な鶴木くんが同意を込めて頷く。


 確かにホームルームが終わってすぐに教室を出た。否定できずに苦笑いを返し、続けて声を返す。


「鶴くん相変わらずだけど寒くないの? そんな恰好で」


 僕と同様コートとマフラーを身に着けている岸くんとは対照的に、鶴木くんは、マフラーはおろかコートも着ておらず、ブレザー姿だった。


「寒くなくはないけど、厚ぼったいの苦手なんだよ。邪魔くさくない? 我慢できないってほどの寒さでもないし」


 鶴木くんは、大柄の体型にはちょっとアンバランスなつぶらな目で唇を尖らせる。


「いや、我慢できない寒さだろ。おかしいわ」


 岸くんが呆れたように息を吐く。


 当然、鶴木くんの格好は今日に始まったことではなく、この時期はいつもこんな感じだ。体型的に大柄なのが関係あるのかは分からないが、寒さは強いらしい。きっとこの先も、こちらの言葉に折れる日は来ないだろう。ちなみに、細身の岸くんは、暑がりかつ寒がりらしい。


「にしてもさ、こんなに早く帰れるんだったら休みにすりゃいいのにな」


 不満そうに言ったのは岸くんだった。「確かに」と相槌を打つ。


「学校にいる時間一時間もないしな。家と学校を往復する時間の方が長いくらいだ」


 もっともだった。でも学校としては必要なことなのだろう、しかしそれを口にするのも野暮であり、同意する意味で頬を緩めた。


「な、帰るだけならなんか食べに行かねぇか? 俺、朝飯食ってなくってさ」


 唐突に、鶴木くんがそう提案した。


「俺は食べてきたよ」


「お前は良いよ。ミズホちゃんは?」


「僕も、一応は食べたけど」


「……よし、じゃあ行こうか」


「話が繋がってないけど」


「話が繋がってねーよ」


 僕と岸くんが同時に声をそろえる。


「余計なこと気にすんな」


 鶴木くんが強引をまとめ、僕たちは帰り道途中のファストフード店に入ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ